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魔法少女は絶望しました  作者: こねこねこ
第1章 八人の願い、一つの希望
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第2話 願いは一つだけ

「そ(・)れ(・)で(・)、(・)誰(・)の(・)願(・)い(・)を(・)叶(・)え(・)る(・)ん(・)だ(・)い(・)?」


 フローネは、その言葉の意味を理解できなかった。

 誰の願いを叶えるのか。

 その言葉は、まるで願いが叶わない魔法少女がいるように聞こえた。


 そんなこと、あってほしくない。

 あっていいはずがない。


 そう思いながら、フローネは他の魔法少女たちの様子をうかがう。

 彼女たちもまた、困惑しているようだった。

 あのモカでさえ、言葉を失っていた。

 希望がまさに打ち砕かれようとしているのだ。無理もない。


 おそらく、この中で最も冷静なのは自分だろう――フローネはそう考えた。

 彼女には、他の魔法少女たちほど強い願いがなかった。

 だから、彼女にはまだリコリスの真意を問いかける余裕が残っていた。


「ねぇ、リコリス。今の言葉って、誰(・)の(・)願(・)い(・)か(・)ら(・)叶えるのかを聞いたんだよね?」


 フローネの問いに対し、リコリスは首を傾げた。


「フローネ。君は、何を言っているんだい?」

「だから、全員の願いが叶うんだよね?」


 フローネは、他の魔法少女たちの様子をうかがいながら尋ねた。

 それは、困惑する彼女たちのために聞いたことだった。

 だが――。


「そんな都合のいい話があるわけないよね」


 リコリスは、あっさりと否定した。

 それが誰もが知っている当然の事柄であるかのように。


「でも、魔法少女になる契約をした際は、願いが叶うと言っていたはずだよ」

「『魔法少女の願いが叶う』とは言ったよ。実際、少なくとも一人の魔法少女の願いは叶うだろう? 全員の願いが叶うだなんて、君たちが勝手に勘違いしただけに過ぎない。全く、最近の若者は説明をよく聞かないというのは、本当のようだね」


 リコリスの責任転嫁に、魔法少女たちは嫌悪感を隠さなかった。

 本当であれば、今頃は互いを称え合い、これまでの苦労を労り合っているはずなのだ。

 それなのに、今は怒りと不信感ばかりが漂っている。


「でも、案ずることはない。君たちにも納得してもらえると思うよ。君たちの絆は本物だ。だから『シャイニングアロー』を使うことが出来た。誰の願いが叶ったとしても、君たちはそれを祝福することができるだろう」


 その言葉には、悪意しか感じなかった。

 フローネは、信じたくなかった。

 これまでやって来たことが、全て無駄になるかもしれないだなんて。


「さて、不幸にも、君たちは全員の願いが叶うと勘違いしてしまっていたようだね。ところで、願いを叶えるのを辞退してもいいという子はいるかな? 他の魔法少女のために、自分の願いを犠牲にしてもいい――そう思える子は、名乗り出てほしいな」


 リコリスの問いかけに、誰も手を上げなかった。

 空気が死んでいる。

 女神の虚獣を倒した時の連帯感は、消滅してしまっている。

 これまで、同じ目標に向かっていた魔法少女たち。

 その絆が、歪み、軋み、壊れつつあった。


「おや、残念だ。そんな自己犠牲の塊のような魔法少女がいるのであれば、その子の願いを真っ先にかなえてあげようと思っていたのだけど」

「え?」

「勿論、冗談だよ。本気にしてしまったかな? さて――」


 リコリスは魔法少女たちを見回す。


「やはり、話し合いで決めるのは難しそうだね。だったら、ぼくから一つ提案がある。皆でゲームをして決着をつけるというのはどうかな?」

「ゲーム?」


 モカが反応した。


「そうだよ。これまで、共に戦って来た仲間だ。魔法を使ってドンパチというのは避けたいところだろう。だから『魔法のゲーム』を用意してあげたよ。願いを叶えられるのは、優勝者のみ。穏便な方法だと思うけど、どうかな?」


 ゲームでの決着。

 確かに、それは穏便な解決方法のように聞こえる。

 だけど、提案者はリコリスだ。その言葉を信用することは出来ない。


 それに――。

 ゲームで負けたからといって、魔法少女たちが素直に引き下がることができるだろうか。

 フローネは、その提案に乗るべきか判断できずにいた。


「お断りよ!」


 鋭い声が響いた。

 赤いドレスに身を包んだ妖艶な魔法少女――ブラックダリアだ。

 燃えるような赤髪が特徴的で、その瞳は怒りに燃えている。


「私は、私の願いを叶える! 誰にも邪魔はさせないわ」


 宣言と共に、ハイヒールでリコリスを踏みつけようとした。

 だが、リコリスは魔力の障壁でそれを受け止める。


「勘違いしないでほしいね。そもそも、エーテルを使って願いを叶える技術は、魔法の国のものだ。ボクに危害を加えたところで、状況はよくならないよ。さらに言えば、ボクは魔法少女の願いを叶えることなく、この場を去ることだってできる。ここにいて、君たちに事情を説明しているのは恩情だと思ってもらいたいな」

「思えるわけがないでしょう!」


 ブラックダリアは、固有魔法『魅了』を使った。

 これは、中級以下の虚獣を隷属させることができる魔法なのだが――。


「無駄だよ、ブラックダリア。君程度の魔法では、ボクを隷属させることなんて出来ない」

「だったら、このままぶっ殺して――」

「止めるっスよ、ブラックダリア」


 黄色の魔法少女――ライコが、ブラックダリアの背後から両手を回した。

 暴れるブラックダリアを、リコリスから引き離す。


「ライコ、邪魔しないでちょうだい」

「冷静になってくださいっス」

「こんな状況で冷静でいられるはずがないでしょう!」

「それでも、冷静になってくださいっス。ここでリコリスを殺しでもしたら、皆に恨まれちまいますよ!」


 ライコの言葉に、ブラックダリアは周りを見る。

 誰もが気持ちは同じだろう。

 だが、今リコリスを殺されては困る。

 リコリスの言葉は腹に据えかねるが、間違ってはいないのだ。


「ゲームの内容は?」


 モカが尋ねた。


「それはランダムだよ。対戦カードの決定と同時に、どのゲームをすることになるかが決まる」

「対戦カードは誰が決めるんだい?」

「それは、君たちに任せるよ。これまで共に戦ってきた仲間だ。組み合わせは自分たちで決めたいだろう」


 白々しい口調でリコリスは言う。

 ゲームに負けたら、願いを叶える権利を失う。

 つまり、勝者は敗者からその権利を奪うことになるのだ。

 その組み合わせを自分たちで決めさせようなど、悪趣味というほかない。


「組み合わせが決まらなかったら?」

「決まるまで、何も起きないよ。でも、早いうちに、決めてもらった方が、君たちのためだと思うな」


 モカたちの会話を聞きながら、フローネは考えていた。

 魔法少女たちはリコリスのペースに巻き込まれているように思えた。

 憤慨し、思考停止状態になっているように見える。

 だから――。


(本当に、これで終わり?)


 フローネは疑ってしまう。

 自分たちは、まだ騙されたままなのではないか、と。

 リコリスは、まだ何かを隠しているのではないか。


 だけど、その内容が分からない。

 もしかしたら、考え過ぎなのかもしれない。


「フローネ、大丈夫か?」

「え?」


 気が付けば、モカがフローネの顔を覗き込んでいた。

 こんな時でも、彼女はフローネのことを気にかけてくれていた。


「ごめんね、ちょっと考えこんじゃって」

「何か分かったのかい?」

「ううん。何も」


 フローネは、疑問を言葉にしなかった。

 不確定なことを言ったところで、魔法少女たちを動揺させるだけだ。


「どうすればいいのかな?」

「そうだね、フローネ。このまま何も進まないのはよくないよね」


 フローネがモカに向けた言葉に、リコリスが強引に割り込んだ。


「君たちは、ボクの提案に乗るしかない。異議のある子はいるかな? ボクとしては、沈黙は『異議なし』と判断するけれど、構わないよね?」


 リコリスが言った。

 それに反対できる者はいなかった。

 それが最善であることは、間違いないはずなのだ。


「それでは、決定だ。願いは、ゲームで優勝した一名が叶えることとするよ」

「リコリス、待って」

「待たないよ。これは、君たちの総意で決まったことだ。せっかくだから、これから第一回戦を始めようか」


 リコリスは、楽しそうに言ってから『箱』を空中に出現させる。


「これは、魔法の世界のゲーム機だ。ゲームは一対一で行うよ。最初に、誰がやる?」


 フローネは、戸惑っていた。

 何も決められずにいたら、勝手に決められてしまった。

 こんな状態で、ゲームに参加しようだなんて思えない。

 他の魔法少女も同じだろう。

 そう思っていたのだが、モカが手を上げた。


「おや、モカ。君が最初のゲームに参加するんだね?」

「ああ、そうだ」


 モカは、首肯した。

 フローネには、モカが何を考えているのか分からなかった。

 リコリスの提案に素直に従うだなんて――。


「では、対戦相手は誰を指名する?」

「指名できるのかい?」

「勿論だよ。対戦カードの決定は君たちに任せると説明しただろう?」

「では、そうだな――」


 モカは魔法少女たちを見回す。

 対戦相手を探しているのだろう。

 モカと戦いたくない一心で、フローネは目をそらした。

 だが――。


「それでは、フローネ。君を指名させてもらおう」

「……え?」


 モカは、フローネを指名した。

 突然の指名に、フローネは目を見開いてモカを見た。

 その表情に悪意は感じられなかった。

 それどころか、いつものようにフローネを気遣っているようにさえ見える。


「何で? 嫌だよ。モカちゃんと戦いたくない」

「大丈夫だよ、フローネ」


 フローネの耳元で、モカは囁く。


「戦うと言ってもゲームだ。それに、僕の願いは自分の手で叶えないと意味がないものだと気づいてね」

「……え?」

「君を勝たせてあげたい――そういうことだよ」


 モカは、気負うことのない自然な口調で言った。

 それは誇り高き魔法少女――モカその人だった。

 そんな彼女の態度に、フローネは申し訳なく思ってしまう。

 でも、モカの提案を断ることも出来なくて――。


「うん、ありがとう」


 そう答えることしか出来なかった。


「決まったみたいだね。それでは、第一回戦は、フローネ対モカになったよ。皆、観戦していってね」


 リコリスは、明るい声で言った。

 まるで、これから最高のショーが行われるかのように。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

この物語は、願いを叶える権利を巡って、魔法少女たちが過酷なゲームで争う物語です。


次回から本格的に物語が進んでいきます。

彼女たちが何を願い、何を選び、どんな結末を迎えるのか。

これからの物語も楽しんでいただけたら嬉しいです。

引き続き、よろしくお願いいたします。

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