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魔法少女は絶望しました  作者: こねこねこ
第1章 八人の願い、一つの希望
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第1話 勝利の先に

 とある地方都市――その中心部。


 普段なら大勢の人々で賑わう街に、今は人影一つなかった。

 昼間だというのに、街全体が不気味な薄暗さに包まれている。


 その街に、巨大な女神が君臨していた。


 全高十メートル。

 美術館に展示された女神像を思わせる、神々しい姿をしている。

 ガラス細工のように透き通った身体からは、絶え間なく光弾が放たれていた。


 その正体は、人に害をなす存在――『虚獣』。

 中でも、無数の眷属を生み出してきた、ひときわ強大な個体。

 人呼んで『女神の虚獣』。


 対するは、八人の『魔法少女』。

 それぞれ特徴的な衣装に身を包み、虚獣との攻防を続けている。

 その戦いは、すでに二時間に及んでいた。

 八人とも疲労は限界に近い。

 それでも、誰一人として諦めてはいなかった。


 ようやく、ここまで来たのだ。

 攻撃を凌ぎ、少しずつ敵の力を削りとってきた。

 そして、とうとう弱点である『コア』を露出させることに成功した。


 追い詰められた虚獣は、攻撃を一層激しくした。

 放たれる光弾の数が増え、巨大な腕が魔法少女たちを薙ぎ払おうとする。

 周囲のビル群が次々と崩れ、街に轟音が響き渡った。


 魔法少女たちは、その攻撃に巻き込まれた――かのように見えた。

 だが、虚獣が攻撃していたのは、魔法で生み出された幻影にすぎなかった。

 大きな隙を作った虚獣の背後では、一人の魔法少女が最後の一撃を準備していた。


「フローネ! 頼む!」

「うん!」


 白銀の衣装の魔法少女――フローネが魔法の弓を引き絞る。

 その周りに魔法少女たちが集まり、それぞれの魔力を注いでいく。

 それぞれの魔力が、思いが、覚悟が、願いが――この一矢にこめられていく。


「これで、終わらせる!」


 皆が、フローネに力を託してくれている。

 それが、フローネの心を奮い立たせた。


 そして――。


「「「シャイニングアロー!!」」」


 八人の声が重なった。

 超高密度の魔力で形成された光の矢が放たれる。

 コアとの衝突により、轟音と暴風が巻き起こった。

 だが、コアは砕けない。

 あと一歩が届かない――。


「お願い!」「行けぇえええ!!」「……潰せ」

「貫け!」「貫きなさい!」「これで終わりに!」

「やっちまってくださいっス!」「ぶっ壊せえええ!」


 八人の声が響き渡る。

 それに呼応するかのように、光の矢が輝きを増していく。

 その先端が、少しずつコアに食い込んでいき――。


 次の瞬間。

 とうとう、コアを貫いた。


 虚獣から放たれていた光弾が消えた。

 巨大な身体が、ぴたりと動きを止める。

 街に静寂が訪れた。


 その静寂を打ち破るかのように、コアが突然爆発した。

 内部に蓄えられていた魔法の元素『エーテル』が放出され、街が光の粒子で包まれた。

 まるで魔法少女たちの勝利を祝福するかのような輝き。

 彼女たちは、その光に包まれながら歓喜の声を上げていた。


     × × ×


 フローネは足を伸ばして、地面に座り込んだ。

 はしたない格好ではあるが、それを咎める者はいない。

 そんな彼女に、一人の魔法少女が声をかける。


「フローネ、お疲れ様」

「モカちゃん」


 振り向くと、そこにいたのは燕尾服のコスチュームを着た魔法少女――モカだった。

 短めに切りそろえた茶髪に、中性的な顔立ち。

 見目麗しい執事のような姿で、その微笑みは見る者を惹きつける。


 モカは、フローネの指導者的立場の魔法少女だ。

 そして、魔法少女たちのリーダー的存在でもある。

 癖の強い八人が協力してやってこられたのも、彼女の功績だ。

 フローネは魔法少女になってから、ずっとモカに頼っていた。

 そして、憧れていた。


「動けるかい?」

「うぅ……無理かも」

「あれだけの戦いの後だ。無理もないさ」


 モカはフローネの隣に座り、その右手にそっと手を重ねた。

 その温もりに、フローネの緊張が少しずつほどけていく。

 モカがそばにいてくれる。それだけで、心が落ち着いた。


「……ねえ、モカちゃん」

「なんだい?」

「私、ちゃんと役に立てたかな?」

「もちろんだよ。君がいたから、皆で勝てた。特に、最後の攻撃は君の魔力調整技術なしでは実現できなかったはずだ」

「そっか……それなら、よかった」


 フローネは、照れ臭そうに笑った。


「モカちゃんがそう言ってくれるなら、間違いないね」

「おや。僕の言葉をそこまで信用してくれるのかい?」

「うん! だって、モカちゃんだもん」


 言いながら、フローネはこれからのことを考えていた。

 女神の虚獣を倒したことで、魔法少女としての活動は一区切りとなる。

 そうなると、この後モカと会う機会がなくなってしまう。


 フローネはモカとある約束をしていた。

 それは、全てが終わった後に連絡先を交換すること。


 魔法少女の多くは、素性を明かさない。

 それぞれ事情を抱えているため、明かしたがらないことが多いのだ。

 フローネも、人に知られたくない事情を抱えていた。


 それでも、モカとは友達でいたかった。

 フローネが抱える事情を知られたとしても、ずっと付き合っていきたかった。

 それだけ、モカは特別な存在だった。


「ねぇ、モカ――」

「よくやったね、皆」


 フローネの言葉を何者かが遮った。

 その言葉の主――白色の動物が、いつの間にか側にいた。

 その動物の名は『リコリス』。

 自らを『魔法の国からやってきた魔法生物』と称する存在だ。

 魔法少女のスカウトを行い、魔法少女を生み出してきた。


「おかげで、ようやく『女神の虚獣』を倒すことが出来たよ。アレが放出したエーテルも回収中だ」


 リコリスは、魔法少女たちを見回した。


「お疲れ様。そして、おめでとう。これで『魔法少女』の願いが叶うよ」


 数人が諸手を挙げて喜んだ。

 クールに振る舞っている魔法少女もいるが、喜びを隠しきれてはいない。


『最後に、魔法少女の願いを叶えることができる』


 リコリスにそう言われて、彼女たちは魔法少女になった。

 それからずっと、虚獣と戦ってきた。

 その期間はそれぞれ異なる。

 長い者は半年、短い者は一か月。

 全ては、この時のためだった。


「さて――」


 ようやく、願いが叶う。悲願が達成される。

 これまでやって来たことが、報われる。

 魔法少女たちは、希望に満ち溢れていた。


「そ(・)れ(・)で(・)、(・)誰(・)の(・)願(・)い(・)を(・)叶(・)え(・)る(・)ん(・)だ(・)い(・)?」

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