6.思考崩壊
ユイカを埋葬し…牢に囚われるマリスを見送った俺は、レジスタンスに優遇されていた。
彼等のアジトで、簡易型の風呂と食事を与えられ…これまでの経緯を話した。
(マリスとの関係性は、ピン抜きして)
「つまりこうだ…君はこの世界の外側から来たと」
マスクを外した、傷だらけの顔の中年男リバーは、このチームのリーダーだ。
「ハイ…こんな世界、ゲームだと思ってました」
「ゲーム?よく分からないな。しかし解せん…いったい、この世界に君達を召喚したのは誰なんだろう?他の違う世界なんて、聞いた事も無い」
(ダメだ…情報量が圧倒的に魔族側より劣っている)
「妹を、探しているんです」
「残念だが…」
(うるさい、うるさい、うるさい…どいつもこいつも)
俺の苛立ちに気づいたのか、彼はなだめる様にこう言った。
「レイジ、お前にいい事を教えてやろう。上級魔族の倒し方だ…」
「奴等は、不死身って聞いたが?」
「あるんだよ…それはな、首を切り落とした後心臓を破壊するんだ、ほぼ同時に」
「首は分かるが、心臓の位置は?」
「それなんだ…奴等の心臓は何処にあるか分からない。その生体によって、まちまちなのさ。それに、短時間でこの動作を行わないとならんので、至難の技ってわけ」
「で、あの魔族の女で試すつもりか?」
名前を伏せ、何となくの探りを入れてみた。
「いや、アイツは魔王の娘だ。人質にして、魔族との交渉に使う。殺すのはその後」
(やっぱ、殺すんかい)
「ところで、あの戦車…スゴイ科学力だな」
「あれは、遺跡だよ…」
その夜…全く警戒されていない俺は、入口で馬鹿面で居眠る警備兵の横を抜け、マリスの囚われている牢獄を探し当てる。
薄暗いそこからは、悪魔の様な呻きが響いていた。
「ウォォォォ…グルルルル…」
「しっ!マリスか?」
「パパ…パパッ!」
緑色の液体は、蒸発したのか様に消えていたが、代わりに鋼の鉄輪と鎖に繋がれていた。
「こんな鎖、お前なら簡単に」
「ダメなの…お腹減って…魔力が出ない」
(そうか、確かさっきリバーが言ってた。ポイズンゼリーの効果持続時間は短いが…その間に空腹になった魔族は力を失い、簡単に拘束出来るって。さて、どうする俺?)
「パパお願い…助けて、一緒にキリカちゃん探そ」
(その名をお前が呼ぶな、だって俺は人間でレジスタンス側だ。でも奴等は妹を救ってはくれない…この悪魔に能力はあるが、俺の腕と目を奪った奴だ。クソッ)
「食え…」
爆弾の詰まったリュックから、隠し持っていたユイカの首を取り出す…
「美味しい…パパアリガト、モグモグ、ムシャムシャ。デジタルでも、エネルギーとしては十分ね」
意味不明の事を言う、化け物の咀嚼を見守る。
「あっ、あっ…来た来た…」
マリスの黒炎が、牢全体に満ち溢れる。鉄格子は溶け…元気のいい羽音が。
「パパ、演技して。アチシが襲うフリするからさ」
(さすがズル賢い娘、いい意味で)
「だ、誰かっ!魔族が逃げ出した」
(我ながら、見事な大根芝居)
尻餅をつき、後退りしてみた。
「想定内だ…」
さっきまで居眠りしていた、警備兵が余裕ぶっこき、再び緑色液の銃をぶっ放す。
「魔族に同じ手は、二度と効かないよぉ〜だ」
その言い様で、彼女は既に耐性を身に着けた事が明白だった。
「クソぉ…うわっ、うわ〜!」
「マッズ、バキバキッ…やっぱ女の子の方が美味しかったな」
兵の首をスッポ抜き、奥歯で噛み砕くマリスは少し不機嫌そう。
「これは?どういう状態だ…」
リバー隊長が兵を引き連れ、駆けつけた。
「プッ!」
マリスはその足元に、警備兵の砕けた頭蓋骨を吐き出す。
「このバケモノめ…構わん、交渉は不要だ、コイツを殲滅しろっ!」
「ハッ!」
命令に従う兵士達は一斉に銃を構えた。
「キュイイイ〜ンッ!」
超音波の様な高音が、脳内に響く…マリスの声か。
「(パパ、パパには手加減してるから…大丈夫)」
マリスのテレパシーが伝わる。
「ぬうわぁぁぁ〜!」
耳を押さえ、リバー達は…目から血を流し次々と絶命する。
「マリス、発火と同時に俺を抱いて外に連れ出してくれ」
「ハイハ〜イ、りょうか〜い」
彼女の軽い返事の後、持っていた爆薬に火を付け…レジスタンスのアジトを爆破した。
マリスに両脇を抱えられ、浮遊した俺の足元は、あまりの高さにスースーする。だが、爆風は寸での所まで上がってきたので、こんなもんだろう。
(何の罪悪感も感じない…もはや魔族と同罪だ、俺は)
「パパ…このまま、王宮まで行こっか?」
「重くないか?アレ、使おうぜ」
足元の残されていた戦車を指差す。
「よっこいしょっと!」
俺を戦車に乗せ、砲塔後部を掴んで持ち上げて飛ぶマリス。
(イヤ、そう言う事では無い…)
元の抱えられた状態に戻り、そのまま俺達は砂漠を通り過ぎ、河の上空を抜ける。
(水場があったんだ)
でも、その水面から巨大な尻尾がうねっているのを見逃せない。
(ドラゴンか…それとも別の魔獣)
「パパ、見えて来たよ」
空から見下したそこには、黒く尖った巨城。
(ん、その横にスカイツリーと東京タワー?)
「アレも見よ!」
マリスが指差すその先に…通天閣と大阪城が建っていた。




