7.模造記憶
混乱する意識のまま、俺は城の前で降ろされた。
「ちょっと待っててね」
マリスはひとりで扉方向へ向かう。俺は頭で状況を整理しながら、岩に覆われた崖の手前で立ちすくむ。
ふと横を見ると小さな山があり、入口の様な大きい穴が空いている。
(ダンジョン、それとも?)
暇だったので、中を少し覗いてみた。そこには、幾つかのシャベルと掘削用のドリルが置いてあった。
「何か、発掘してるのか?」
土が盛り上がった部分から目に入ったのは、赤いグニャグニャした物体…
(ん、目玉?作り物か)
「コレは…ミャクミャクだ」
前に博覧会で見たキャラクターのオブジェが、埋まっていた。
(とは言え、そんな昔の話じゃ無い。この劣化の仕方…恐ろしく古そうだ。て、事は?)
「遺跡だよそれ、つまりここはパパがいた世界の未来なのだ…エへへへ」
背中の羽根を嬉しそうにバタつかせ、背後に立つニセの娘は、笑顔だった。
「マリス、それ本気で言って…」
「な〜んちゃってね、アチシもよく知んない。でも、この場面でのセリフにはピッタリかなって」
本能と洞察力の塊のこのバケモノに、今は何か探ろうとは思わなかった…今進むべき道はただ一つ、妹のキリカを助けて元の世界へ戻る事だ。
(未来へタイムスリップしたかどうかなんて、知ったこっちゃ無い)
マリスの後をついて行き、城内へ侵入する。薄暗くてよく先が見えない…
「この奥に、魔王がいるのか?」
「うぅん、いないよ。」
「は?魔王に会って、俺が帰る方法探るんじゃ…」
「忘れてたっ!爺ちゃん婆ちゃん二人共、アチシがぶっ殺して食べちゃったんだった。テヘッ」
「つまりお前が?」
「マリスだよ、そうこの世界の事実上の支配者なのさ、エッヘン」
(まぁ、薄々は感づいていたが…この女の露悪趣味には。機嫌を損ねない様に、情報を聞き出すしかないな)
「面白い部屋連れてってあげる」
マリスを手を引かれ、鉄の扉のエレベーターに案内された。
(もう、何見ても驚かん…)
扉が開き…見せられたのは、広い空間に無数の人型上級魔族が、リクライニングチェアーに座って…VRゴーグルを付けていた。
「ここは?」
「あの子達の見ている、違うか…体験している映像、オープンッ!」
マリスが声を上げると、目線より少し上に巨大モニターが現れた。
「ニュース速報をお知らせします」
「退屈な日常に、異世界の刺激を…異世界ワールドツアーへようこそ」
「今年のM−1チャンピオンは…」
「珠代パンティテックスッ!」
マルチ画面には、俺が知っている元の世界の映像が、次々と再生される。
「どう言う…」
と言いかけたが、半笑いのマリスに質問するのも癪なので、自分で考えてみた。
(つまりこうだ…俺達があると信じていた世界は、全部魔族のバーチャル映像で、尚且つ今いるここも…未来の地球。奴等は、俺達の過去生をゲームとして楽しんでいるのか?じゃあ、この俺は何なんだ)
「誰かが体験している現実だよ、パパ…知らんケド」
「この程度の人数で、俺達全人類を操ってるってか?」
マリスが俺の心を読んでいた事に、この時点では気づく余裕は無かった。
「魔族はね…進化した生命で、何でもアリなの。パパのいた時代では、確か…AIって呼ばれてたかな」
「お前達、機械なのか?」
「パパ、考え方ふっる〜い。物質なんて概念この時代には無いよ。世界は物理的妄想で…ホントの事なんて、何ひとつ無いんだよ」
「そうか…」
(もう、何もかも諦めよう)
「だからパパ…ふたりで仲良く暮らそ、毎日楽しく笑って。何の心配も無い世界で」
マリスに優しく抱きしめられた。そこには、何の悪意も感じられず…心を溶かす甘い香りだけが漂っている。そしてドクンドクンッと、彼女の右脚太股が脈打っていた。
(このまま、ふたりで生きるのも悪くないな…)
「そうそう、パパ…ひとつ言って無かった事があるの」
「なんだい?我が娘よ」
「実はさ…パパに会う前、街でそのロケットの女の子、食べちゃってたの忘れてた。テヘッ」
(キリカの事を言ってるのか?)
本能的にカラダがビクッと痙攣し…震えながら、マリスから少し距離をとった。
「そ、そうなんだ…忘れん坊さん」
何とか必死に平静を守った。
「その子、死ぬ時に…お兄ちゃん、お兄ちゃんって泣きわめいてた。おっかしいよね、ハハハハハハッ!」
(チャージの残高は、あと2回分…か)
腕のブレスレットから、限界まで料金を使い…最大の武器を召喚する。
(まずは、長剣一本…)
マリスの首を切り落とす、宙を舞いながら笑う頭。
「バーカ、バーッカ!」
(次に短剣で、太股を…)
「は?何で知ってる…」
「さっき抱きしめられた時、気づいたんだよ。お前の心臓が、右太股にある事にな…」
俺は切断と同時に、もうひとつの急所を突き刺す事に成功していた。
「パパ…愛してたのに…」
まだ浮かんでいる首が、すり寄る。
「それも、幻想だろ?」
その言葉を聞いたマリスは、あどけない微笑を残し…モザイク割れして消える。あえてそれに対して、もう何も思わない。
(思いたくも無い)
カウントゼロになったブレスレットを見ながら、再びさっきの大広間に目を向ける…魔族達は、遊びに集中してコッチに気づかない。
(魔王が殺されたのに、このセキュリティの甘さ…逆に不気味だ)
もうどうでも良くなった俺は、リュックに詰め込んだ、レジスタンスから盗んだ大量のダイナマイトに火を付け…周囲に設置されている爆発しそうな計器類を中心に、次々と発火させる。ついでに、お楽しみ中のバケモノ軍団にもお見舞いだ。
爆風に紛れそこから逃げ出す俺の行動に、さすがに反応する魔族達…その断末魔の悲鳴が響き渡る。もうとっくに失っている罪悪感を、今更思い出す気力も無い…何故ならもう、自分自身が。
「だろうな…」
俺のある方の手が、ビリビリと電流を放ちながら、薄くなってゆく…これこそが、実在しない事の証明。
「本体の魔族よ、今ここにある意思は…俺のモノだ!」
そして、何もかもが消え失せる…
その頃、かなり離れた場所の人間領主のお城の中では…
「お嬢様、VRの端末が何者かによって破壊されました」
執事の男が、玉座の少女に報告する。
「また、作り直せばよろしくてよ。オ〜ホッホッホッホッ!」
レイジの妹キリカが、ゴージャスなドレス姿で鎮座している…
「兄ちゃん、すぐに助けに行くからね♡」




