3.夢も魔法も存在しない
俺を助けた男のアジトに案内されると…そこはまるで、悪の組織の秘密基地の様だった。テーブルの上に医療器具が散乱し、電気コードが幾重にも重なり、嫌な火薬の匂いが充満している。
「俺の名はチャンだ。このテーマパークを破壊するため、某国から送り込まれたテロリストって感じかな」
「そんな機密事項ベラベラと…俺を殺すつもりか?」
「フフ…そうかもな。ま、すぐじゃない、安心しな」
「で、テロは?」
「まさか本物の魔族と戦う事になるとは…勝てるワケないだろ、人間の武器で」
「結構やってたじゃん」
「逃げるのに精一杯…いや、弱い魔獣ならコレで何とか」
手に持った爆弾を見せる。
「物理攻撃が通用するんだ」
「言葉を話さない低級部族にだけ。さっきみたいなラスボス級には、何をやっても無駄無駄」
「妹を助けたい…一緒に来たんだ」
「残念ながら、あの女ならもう…」
チャンは、ユイカと勘違いしている様だ。
「そうじゃない…悪役令嬢コースに向かった小さい女の子だ」
「あぁ…あそこなら、もしかしたら大丈夫かも」
「こことは、違うのか?」
「詳しい事は分からん…でもこの街の領主は結界張って、自分達だけ助かろうと籠城している。そいつらが、この異世界ツアーのスポンサーだって説もある」
「それって魔族じゃ?」
「人間界と同じで、一枚岩じゃ無いって話」
「チャン…お前に協力するから、ここで生き残る手助けをして欲しい」
「いいのか?俺、かなりヤバイ奴だぜ」
「生き延びる為には、手段を選ばん」
「いい心がけだ。でも、期待するなよ…ここは、おとぎの国じゃ無いんだ」
その日から…チャンと一緒に修行の名目でこの異世界を旅した。鎧は売りに出し、まだ使えるブレスレットだけを左手に、奴と同じ目立たないフード付きマント状の黒服に身を包み…背中にリュック一杯の爆弾を背負わされ、砂漠を進んだ。
(町では、身分は低いが魔族と折り合いをつけてる人間がいたが…この平原は正に無法状態。バイクに乗ったモヒカンがやって来そうだな…)
荒れ地の果てに、ひとつの集落が見える。人間界で言う、ガードマンの様な格好の魔族達(一つ目、角あり、耳まで口が裂けた奴等)がたむろしている。
「リュック貸して…」
そう言うチャンに渡すと、中から縄を取り出した。と、次の瞬間…頭に打撃を受け、俺は意識を失う。
「こいつか、五十万ギルドだ…」
うっすらと目を開けると、チャンが言葉を話す魔物から、電子マネーで端末にお金を受け取っている。そいつは壁に設置されたモニターで、俺の顔を照合していた…
[壱道レイジ=賞金五十万ギルド、生死を問わず]
賞金が書かれた、モンタージュ写真と。
朦朧とする意識の中で、縛られたまま絞首台へと連れて行かれる。
(俺は死ぬのか?こんな所で、妹にも会えずハメられて…)
階段を登らされ、足元の開く台座の上に足を置き、首に縄をかけられた。そして、頭から袋を被せられる。
(視界が奪われる直前、執行役が足元が開くロープを手に握ったのが分かる。アレが引かれると…下に落ちて、首が閉まる。醜い死に顔を晒さないようにする、ズタ袋の中は臭い)
突如、遠方から鈍い爆発音…目を覆われていても分かる、硝煙の匂い(アイツの部屋と同じ)。さらに追い打ちかけて、連続で爆撃が続き…その風圧で、俺のマスクが飛ぶ。
周囲には、魔物の死骸が散乱し…生き残ってピクピクしている者の頭を踏んづけて、潰している男が。
「よう、お待たせ」
チャンだった…縄を解きながらタバコをふかしているそいつからは、血の匂いがする。
「何でこんな事を?」
「金が欲しかった」
「だったら…さっさと襲えばいいんじゃ」
「それじゃあ、お前の指名手配は消えないし…警戒してる奴等は手強い。だから、お前のデータが処刑済になったタイミングで、スキだらけの時を待って襲撃したって寸法さ」
「この世界でデジタルが使えるのは驚きだが…今度はお前が指名手配になるんじゃ?」
「あぁ…大丈夫。目撃者は、もろとも殲滅したから」
俺は、罪の無い人間の見物客がいない事を祈った。
再び荷物を背負わされ、奪った巨大トカゲが引く馬車に乗る。(前で、チャンは器用に手綱を引いていた)
「何処へ行くんだ?」
「別のアジトさ。俺達レジスタンスは足がつくんで、一処に留まんないんだよ」
馬と違いスピードは速いが、不規則に動く六本足の魔物に引かれ…乗り心地悪く見知らぬ場所へと運ばれて行く。
(一回体験したけど…また、死刑囚の心境だな。ドナドナ…)
しばらく人気の無い砂漠を抜けると、少し自然の広がる水場のある小さな村に到着。
着くなり急に、銃撃音が馬車をかすめた…車輪は外れ、片側に傾く。
「どぉ〜」
チャンは馬にする様にトカゲをなだめ、停車する。
噴煙の中から、布製のビキニ姿の黒い肌(日焼けした茶色で無く、物理的に黒い)で白目の無いキバの生えた女が。こめかみには、羊の様に巻いた角、背中に小さなコウモリ羽根をパタつかせ…矢印の様な短い尻尾が空中で振られている。
「何か武器を…」
危険を感じ、とっさにチャンに助けを求めた。
「奴に物理攻撃は、通用しない…」
彼は、その女を知っている様。
「じゃ、魔法かなんかで」
この世界の理を知らない俺は、知った風なことを口走っていた。
「この世に、魔法なんて存在しないよ…」
女は、不敵に言い放つ。




