2.異世界ワールドツアー
「異世界ワールド、異世界ワールド、タッタッタッタ、ワールドォ〜!」
妹のキリカは、テーブルの上でお絵かきをしながら、またいつもの歌を歌っていた。
「兄ちゃん兄ちゃん、いつになったら連れてってくれんの?」
TVから毎日の様に流れるCM…博覧会跡地に建設された期間限定のイベント、それが異世界ワールドツアーだ。妹が行きたがるそこは、アニメやゲームでよくある異世界転生が体験出来るアトラクションで、残念ながら…家の経済状態ではとても行けそうにない。
両親が病死した後、小学生の妹と二人暮らしで、親戚からのわずかな援助と生活保護でギリギリの俺達に…そんな贅沢叶うわけが無かった、この時は。
「兄ちゃん、これ見て!」
「えっ?」
妹が見せた携帯画面には、[異世界ワールドツアーのペアチケット当選!!]の文字が踊っていた。
(とはいえ、交通費に食事代…無料と言えど多少の課金も必要だし…ここは諦めるしか)
「兄ちゃん、兄ちゃんっ」
俺の腰をつかみ、キラキラした目で見つめる妹…
(そう言えば産まれてこの方、妹を一度も遊びに連れてってやった事無かったな…覚悟を決めるか)
そう思った時俺は、へそくっていたバイトのお金を握りしめていた。
家にある一番いい服を着て、駅前に降り立った俺達の目の前に…巨大なゲート、馴染みのテーマ曲が流れる異空間。
(妹には、動きやすいズボンを履かせたかったが…どうしてもスカートで来るって聞かなかった。俺は唯一まともに見える、制服のブレザー姿でやって来た。私服に見えなくも無い)
「兄ちゃん…連れてきてくれて、アリガトッ」
笑顔で見上げる妹に、少し照れてしまう。
「あ、あぁ…」
思わず握る手に力が入る。
簡単な荷物検査の後、入国手続きのルーム(そう言うテイの施設)に案内される。
「キリカは、悪役令嬢コースなのだ!兄ちゃんは、勇者コースでしょ」
「一緒に行かなくて、大丈夫か?」
「もう、心配性…キリカはもう大人だよ。それに1日コースだし、すぐ終わるよ…長くいたいけど」
「次は、泊まりで来ような」
妹の頭を撫でる。
帰りの待ち合わせ場所をゲートのオブジェ前に決めた後、手を振って別れ…別々の入口へと向う。
(ちょっと寂しい…が、思いっきり楽しむぞ!)
手続きを終え、(一番安い標準コースでの参戦)使用制限のある万能ブレスレットをレンタルして…無料オプションの重騎士の鎧に身を包む。
(やっぱ、ハリボテとはいえ重いな…)
「おいおい、貧乏くさいヤツがいるぜ」
後ろから男の声、その横から女が。
「マジマジ、ダッサ。てか、レイジ?」
見覚えのある顔…幼馴染の女の子ユイカと、そのボーイフレンドのゴウか。
「よ、よう…久しぶり。ずいぶん豪勢な衣装で」
(勇者様と、ビキニアーマーの魔法使いか…)
「俺らと一緒に来んなら、雑用として雇ってやってもいいぜ」
ゴウは、いきなり上から目線の提案をしてきた。
「誰が…」
「ブレスレットに課金してやるけど?」
「よろしくお願いします…」
残念ながら、このアトラクションでは今の微課金では、ほとんど楽しめない。この提案を飲むことで、まともにこの異世界を堪能出来ることになるのだ…そして、俺のブレスレットに結構な額が補充される。
「こんなに、いいのか?」
「婚約祝いだよ…」
手の指輪を見せるゴウと、やや恥ずかしそうに手の甲をこちらに向けるユイカ。互いの薬指が光る。
「そうか…おめでとう」
(さようなら、俺の初恋…)
「私がいるじゃない」
妄想の妹が、慰めてくれる。
(が、そういう事では無い…)
二人の後ろから、大きな門をくぐって中に入る…そこには、アニメやゲームでしか見た事の無い、異世界が広がっていた。
遠くの険しい山々、タイル路の地面に古い西洋調の建築物、剣を持った戦士達の行き交う酒場街。足元には見た事の無い異生物が徘徊している。
「この猫ちゃんカワイ〜イ」
ユイカが子猫に手を伸ばすと
「私は、この村の村長です。お嬢様、ご案内致しましょうか?」
「猫が…喋った」
ユイカが驚くのも無理は無い。が、たぶんロボットを遠隔操作し、喋ってるやつが何処かにいるんだろう。
電流を放つ、少しイビツな尻尾を持つ子猫の案内で、冒険者ギルドに到着する。
「ゴウ様はSランク勇者で、ユイカ様はAランク魔導士。そちらのレイジさんは…Fランク斥候(しっこう=偵察隊)ですね」
ここでも、課金料で差が生まれているのは致し方ない。
(妹に重課金したせいで、俺の持ち分はほぼゴウに奢ってもらった分だけだからな…)
で、この後俺の初心者向けダンジョンからの攻略提案は却下され、ゴウのワガママで上級ダンジョンに突入した後、例の事件が発生し…俺は謎の男に助けられたって訳だ。
(ま、これもまだ回想の中なんだけどな…笑)
「教えてくれ?さっきアンタが言った話…」
「やっと信じる気になったか、騎士様」
黒いフードをあげたその男は、俺と同じ東洋人…でいかにもって感じの悪人顔だった。
「そうさ…ここは本物の魔界。元々は人間が支配していたが、今や魔王軍の圧勝だな」
「ここの運営はどうなって?このブレスレットだって、ちゃんと効果があったぞ」
「あぁ…それな。魔族達に遊ばれてんだよ、俺達は。この異世界ワールドっていう巨大監獄でな…」
遠くで流れる異世界ワールドのテーマ曲が、ただただ虚しく響いていた…
(キリカ…)




