第八話:これって、俺だけ?
今日で連休が終わる。
明日からの仕事を思うと、無性に心も身体もダルい。
「遅くまでお邪魔しました」
駅の改札前。
彼女は、さっきまでの俺の部屋のベッドでのことなんて完全に無かったかのように、他人行儀にペコッとお辞儀をした。
毎回、彼女が帰る時は駅まで送っている。
ここから駅までの間に少し暗い道があるから、一応。
「泊まってけばいいのに」
改札に向かおうとする彼女に、ふと本音が漏れた。
実際のところ、彼女の職場は、彼女自身の家よりも俺の家からの方が近い。
「えっ、いやいや。明日仕事あるし」
「着替え、二着くらいうちに置いておけばいいじゃん」
軽いトーンでそう提案すると、彼女は目を丸くして「いや、それは……さすがに」と少し困ったように苦笑いした。
「じゃあ……バイバイ」
最後に少しだけ彼女の手に触れると、途端にひどく離れがたくなった。
けれど無理に引き留めるわけにもいかず、改札の向こうへ消えていく彼女の背中を、俺は黙って見送った。
◇
――パタン。
自分の部屋に帰ってきて、重いドアを閉める。
まだ微かに彼女の甘い残り香が漂っているこの部屋。
本来なら狭いはずなのに、一人でいるとやけに広く、そして静かに感じられた。
彼女とこういう関係になってから、だいたい三週間くらいが経つ。
これまでも、付き合う前に関係を持ったことは、ないわけではなかったが。
そういう場合、大抵は少し経つと「私たちってどういう関係?」と付き合うことを望まれた。
けれど、彼女にはそんな素振りが全くない。
まあ、元彼との最悪な一件があったばっかりだし。
今はただ、誰かと真面目に付き合うような気分じゃないのかもしれない。
人肌が恋しいだけかもしれない。
『付き合う』という枠組みや肩書きにそこまでこだわりがあるわけでもない俺にとっては、面倒なことを言われない今の距離感は決して不都合ではない。
不都合ではない、はずなのだが。
ほんの少しだけ、肩透かしをくらったような気分になっている。
だって、こんなに相性が合う相手は、今まで初めてだったから。
いや、別に……『そっち』の相性の話だけではない。
会話のテンポや、ただ隣にいる時の空気感。
黙っていても気詰まりしない雰囲気。
彼女と一緒にいると、どうしようもなく落ち着く。
(これって、俺だけ?)




