第十話:彼女、ではないんだよな
梅雨に入り、今日も朝から一日中雨だ。
居酒屋のテーブルの横に立てかけたビニール傘の先に、小さな水溜りができている。
「史人、久しぶりだな。最近付き合い悪くね?」
金曜の夜。
普段なら高梨を家に呼んでいるところだが、今日は向こうが仕事の飲み会らしく、何時に終わるかわからないと聞いている。
だから、今のところ彼女がうちに来る予定にはなっていない。
今は、藤崎たち高校の同級生――三年生の時のいつものメンツ――男四人で居酒屋に集まっていた。
「ん。悪い」
藤崎の言葉へ適当に返事をして、ジョッキを傾ける。
「彼女でもできたん?」
向かいの席のやつがニヤニヤしながら聞いてくる。
「あー、いや」
(彼女、ではないんだよな)
言葉を濁すと、周りが余計に囃し立てた。
「なんか怪しいなー」
「な? こいつ、いなかったら『いない』って即答しそうだもんな」
やや怪しまれている。
俺はこれ以上ボロを出さないよう、スルーを決め込んで黙ってビールを飲んだ。
高梨との関係は、藤崎にも、誰にも言っていない。
他の男たちに、勝手にあれこれと彼女の姿を想像させたくない。
「そういやみんな、あれ来られる? 来月のプチ同窓会!」
話題が変わり、藤崎が俺たち三人に確認してきた。
来月、高校の同窓会が予定されており、藤崎が幹事を務めている。
すぐに声をかけられる範囲での招集らしいが、今のところ三十人弱くらいは集まる予定らしい。
広めのビアガーデンみたいなところを貸し切って開催するとのことだった。
藤崎は、憧れの坂本さんが「同窓会とかやりたいよね」と何気なく呟いたレベルの願望を叶えるために、わざわざ行動に移したらしい。
健気なやつだな。
俺は一応、行くつもりでいる。
高梨は、「元彼が来ないなら行く」と言っていた。
そりゃそうだよな。
◇
店の閉店時間までだらだらと駄弁って外に出ると、空からはまだ雨がしとしとと降り続いていた。
「うわ、まだ降ってるよ」と誰かがぼやく。
男子たちと「じゃあなー」と駅で別れ、一人で改札に向かっていると、ポケットの中のスマホが震えた。
『おわった〜』
飲み会の終わりを報告する、高梨からのメッセージだった。
画面を見た瞬間、俺は思わずいつものように指を動かしていた。
『来る?』
送信して数秒後。
彼女からもすぐに『うん』とだけ返ってきた。
それだけで、重たい雨のせいで鬱屈としていた気分が、少しだけマシになるのがわかる。
電車に揺られること数分、自分の家の最寄り駅に着いた。
改札を抜け、外の降り止まない雨をぼんやりと眺めながら、遅れて到着する彼女を駅のコンコースで一人静かに待っていた。




