002
「わたしは勇気さんが好きです」
なんと驚くことに麗は勇気が好きだったらしい。
知らなかった。
もっとも知っていたからと言って僕がなにかをするわけではもちろん、決して、絶対に、ないのだけれど……。あまりの面白さに意図せず口元が緩む。それを口に手を当てて隠し、
「勇気を?」
一応の確認としてもう一度訊く。
こんな楽しいことがこの世にあったなんて僕は今まで気づきもしなかった。
麗が勇気を、か。
僕は意外に野次馬根性満載の人間なのでこういう話題は大好物なのだ。どれくらい好きなのかと言うと、わざわざ勇気に調べさせて、この学校における恋愛関係図を把握しているくらいである。
もちろん誰にも言うつもりもこの情報を言うつもりはない。勇気にも口止めされるくらい──いざとなればすべての情報を公開するけど──重要な情報なのだ。
しかしながらその恋愛関係図も最新版では決してない。
毎年発行してもらっているけれど、逆説的に言えば、一年間は発行しないということである。
もちろん、僕独自に現在進行形の恋の変化は記録している。
だがしかし、新しく芽生えた恋には少し疎いところがあるのだ。勇気の持ってきた情報でようやっと気づくことができる僕だから、そうなるのは当たり前なのだけれど。
芽生え始めの恋なんて最もわかりづらいもののはずなのだ。アタックしないから心のなかでひっそりと思うだけ──そんな状態での恋なんて外から見てもわかりそうにない。
それを一日二日で調べ切れる勇気が本当に何者なのかが、僕のなかで一番の謎である。
「はい、そうです」
間違いはないらしい。
あいつを煽ることができるかもしれないなんて、なんとすばらしいことだろう。僕の心のなかとしてはこんな感じだ。最低な親友である。
「君はどうして勇気を好きになったんだい?」
僕としては当然すぎる疑問だったが、
「…………」
帰ってきたのは沈黙だけだった。
言いたくないということか?
いや、相談を持ちかけておいて情報を出し惜しみするなんて麗の性格からしてありえない。
そして麗の性格上、言いたくないなら沈黙ではなく、その旨をしっかり伝えるはずである。
出会って半年のやつがなにをほざいているんだと言われるかもしれないが、半年も一緒にいるのだ。嫌でも性格くらい掴めるようになる。麗の性格を頼りにして師匠に弟子入りした部分もあるにはあるのだ。これは師匠には内緒だ。
まあ、僕の見立てでは彼女は今自分の思いを──想いを言語化しているところなのだろう。
僕は人よりもたくさん考えるほうなので考えや思いを言葉にするのは異常に大変だということを知っている。
だから、僕は待つ。
彼女が答えるまで待とう。
ちなみにずっとは待たない。待ってもいいのは精々予鈴までだ。それ以降はもう待たない。相談も受けない。麗の秘密も暴露しよう。
………………冗談だ。安心してほしい。
僕がそんなことをする人間であるわけがないだろう。
僕は誠実な精神を持っている健全な男子なのだ。二次元にしか欲情しないのが健全な男子であるというのならば、という但し書きが必要かもしれないけれど、僕は誠実で堅実で健全な男子である。
僕がくだらないことを考えている間に、麗は考えをまとめたようで、その固く閉じていた口を開いた。
「わたしをわたしとして見てくれたんです」
その一言だけではまったくもって理解できなかったけれど、どうやら補足がちゃんとあるらしく──世の中に補足も付けずにただ一言だけ言って終わるやつもいる。主に僕のような人間は脳内で補足しているから実際に口に出すときに失敗しがちだ──彼女は口を閉じなかった。いや、閉じたけど。




