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第二章、投稿します。
君の心を知りたい。
わたしにはわたしがわかりません。
君の心を知りたい。
わたしには心がありません。
僕の心を知りたい?
わたしはなにも知りたくありません。
「実さん、少し相談があります」
麗の呼び方が名字さん付けから、名前さん付けに変更されつつある十月のこと。
僕は麗の相談事を聞く羽目になった。
まあ、麗が相談するのは今回が初めてのことであるため──それが真実かどうかはまったくと言っていいほどわからない。
僕としては初めてではないほうがいいと思っている。後者だった場合、責任が重大すぎる。だがしかし、できるだけ真摯に対応したいと思っている。
真摯には対応するが真摯以上には対応しないという意味の言葉だけれど、口に出さなければそれは言ったことにもならないし、まるっきりただの独白に近いものがある。独白が長時間続くのが僕のスタイルだ。
そう言えば、そうと言えば、僕は伝えないといけないことがあるのだった。
いや、これも別に伝えないといけないわけではない。そう言ったほうが興味をそそられるからそう言っているだけであって、僕はただうそぶいているだけなのだ。
伝えないといけないことなどこの世にはたくさんあるけれど、少なくとも僕が今から伝えようとしていたことはそのなかには入る余地もない。
入る余地がないからといって伝えなくてもいいことではないのが、僕の言いたいことのややこしい部分なのだ。
ややこしいというか、どちらかと言えば、面倒だろう。面倒なのだ。面倒臭いのだ。面倒が臭いのだ。
そんな面倒臭さがこの作品の持ち味と言ってもいいかもしれない。
僕がただ独白し、その合間でついでのように進んで行く物語。
大抵の事象が僕と関係がないように、僕の心中もまた、多くの事象とは関係がない。
僕が関係しているのは身近な人物のみなのだ。
いや、いいことというかなんかすごいことを言ったふうに感じるけれど、これはすべての人間に等しく当てはまることだと僕は思う。
世界の裏側で起きたことが僕たちになんら影響を及ぼさないのと同じように、僕たちの知らないところでなにが起こっても関係がないのだ。
関係があったほうが逆に驚きである。驚愕してしまう。
まあ、身近にその可能性を秘めた人間がいるだけに、親友がいるだけに否定できないのが僕の仮説の欠点だ。いや、欠点あるからこその仮説だと言えないこともない。
まあ、言えるだけで実際には無慈悲に蹴落とされるんだろうけれど。
この作品の持ち味からどうやってそこまで話がそれてしまったのか僕としては甚だ疑問だが、横道にそれているものは早く修正しないといけないという気がしてくる。
気がしているというのは完全に間違いだけれど、少なくとも本題からの脱線が激しいことは否めない。
ここ半年まったく成長していないと言わざるを得ない点である。
人が、人の精神がそう簡単に成長──この場合「変化」だ──することはない。
中学三年生になった段階でもう変化できるラインは越えていた。
しかしながら、こうやって一旦は話を戻そうという意識が働いているのは半年前と比べて成長したところかもしれない。かもしれないと言うだけで、確証は一切ない。
如才あるほど一切ない。
なんてくだらないダジャレを言っている場合ではないのは、僕自身が最もわかっている。
端的に言って話を延ばしすぎである。会話をしていないにも関わらず──というか僕が麗に対して返事をする描写をしていないので、実質麗を無視する形になっている。
まあ、僕がそんなことをするはずもなく、今現在、人がいないところへ移動中である。もちろん、移動中も無言でというわけではない。談笑しながらである。
僕の人見知りもさすがに半年あれば緩和される。僕と麗は親友と同じくらいになっていた。
しかしながら、ここで親友と表記してしまうと勇気のときに使う言葉が少なくなってしまうので、僕としては親友という表記をしたい、けれどできないという葛藤すべき立ち位置にいるのだ。
立ち位置にいるからと言って葛藤しないのが僕である。僕のいいところであり、悪いところでもある。
そう言えば、──そう言えば、このモノローグも「そう言えば」から始まった。遡ってみると僕は「そう言えば」を使いすぎではないだろうか。まあ、そうだとしても改善はしないのだけれど──親友も言っていたが、僕は僕のことを大切にしなさすぎらしい。
僕以上に僕を大切に思っている者など、いないはずだ。両親は死んだし、両祖父母も死んだ。つまり、親友の意見は的外れということになる。
おっと、今言ったことは内緒にしてくれよな。まだ誰にも言ってないんだから。秘密はバレたらおしまいだ。
まあ、おしまいなのが僕のなんなのかはまったくわからないけれど、なにかが終わる気がする。僕の気がするが最も当てにならない。そんなことは承知している。承知しまくっている。悲しいことに。別に悲しんではいないけれど。
ところで、話も長くなりすぎたことだし、そろそろ移動も終わるし、端的に言いたいことことを伝えよう。
僕は香月一──香月先生に弟子入りした。
これからは先生ではなく、師匠だ。
この半年の間に何度となく師匠のもとへ行き──何度となくとは行ったものの、言ったものの、実際のところは毎日欠かさず通った。
僕の家と近かったのが幸いしたと言える。
毎日しつこく訪ね続けた。
師匠ほうは悪霊にでも取り憑かれた気分だったのかもしれないな。
ともかく、とにもかくにも、師匠を師匠と呼べる段階に至ったことは僕の人生のなかでもトップクラス……いや、ナンバーワンに相応しいほどの幸運──ここで運命と言い出さないのが僕の示せる謙遜と思ってもらって構わない──だった。
師匠との日々は充実したものだった。
むしろ師匠と一緒にいながら充実していないのはおかしなことである。
はっきり言って信者目線百パーセントなので師匠がどんなことをしても充実してしまうのだ。
つまりそれは、それだけの才能を師匠が持っているということに他ならない。それに、才能だけで今の地位を手に入れたわけじゃあないことを、僕を含めた信者全員は知っている。
師匠の今の地位は、師匠の並々ならぬ努力、そして家族の支え──それは麗とそのお母様そして、妹さんである──があってのものなのだ。
厳しい批判に晒された時期もあったらしい。
けれど、信者は決して師匠を擁護したりはしなかった。
むしろ叩くべきところは徹底的に叩いた。
凡そ世間の叩かれているそういうものも、信者が核となっている可能性が高い。可能性というかそのまま真実なのだろうが……。
信者はただ神を褒め讃えるわけじゃない。神がなにか過ちを犯したならば、それを正すのもまた信者の役割だ。
信者とアンチは紙一重。
これは小説を読み始めた頃たどり着いた一つの結論だった。
しかしながら、今の僕はこれを否定する。
今の僕はこれを安易な考えだったと悔い改めるだろう。
本当に悔いるのかは僕の性格上不確かなことだけれど、少なくとも改めることはするだろう。むしろ悔いるより先に改めなければならないほどだ。僕もその法則に則って見よう。
信者とアンチはまったく同じである。
今の僕なら臆面もなくそう言える。
極論である。
単なる極端な論である。
しかしながら、この言葉は真理を突いていると思っている。
信者とアンチの差は一体なにか、それを考え出したときから僕の頭のなかは混乱に溢れ始めていた。
信者は褒め讃え、アンチは貶す。
残念ながら、その法則は僕が壊した。いや、僕じゃない。この国──この世界にいるすべての信者が壊してくれた。
信者はアンチと同じだけれど、アンチが信者と同じとは限らない。
そんなことを言う人間もいるはずだ。しかし、それは間違っている。
アンチは批判する部分を探すために必死に本を読む。
悪いところがあった場合は徹底的に叩き、それでも逆のときはなにも言わない。むしろ褒めることだってあるかもしれない。
少なくとも信者とアンチは作家にとって必要不可欠なことに変わりはない。
紙一重ですら区別できず、まったく同質の同系統の人間。
そもそも洗練されたアンチは新刊発売日にちゃっかり買って即座に読んでダメ出しをしているのだから、そこら辺に愛を感じるというものだ。
今、考えれば師匠の話から随分と遠くに来たものだ。さて、話を現実に戻そうか。
どうやら目的地に着いたらしい。
唐突すぎてなにかわからなかったかもしれないが、僕と麗は屋上に来ていた。しかし屋上は立ち入り禁止なのでその手前の階段が会場なのだろう。確かにここなら人気もない。
「どうしたんだい、麗?」
ここで溜めてもしょうがないので、今回ばかりは単刀直入に訊いた。
「実さんにお願いしたいことがあるんです」
相談内容がお願いということか。
お願いと一口に言っても範囲が狭すぎるな。
さすがに悪魔や神にしか叶えられないようなレベルの難題ではないことを祈るしかないけれど、僕の経験上、それに勝るとも劣らないレベルの難題が降りかかること間違いなしなのである。不幸というかなんというか、難というか。
まあ、聞く前から不安を抱いていては男として──みんな、僕は男だ。人見知りで気が弱くて、うじうじ考えていても男だ──失格になってしまう。
もともと男に合格しているかどうかすらも怪しまれている僕だけれど、ここでなんとか男を見せよう。
男、いや、この場合は男気だな。漢気ではない。僕はそこまで熱くはない。
僕はどちらかと言えば冷たいほうで、ぬるくなるのが、勇気と麗、そして師匠に対してだけだろう。冷たいとは言っても心のなかだけで、外交問題は人見知りのために、弱火程度になっている。
「お願い?」
「はい、実さんにしか頼めないことなんです」
僕にしか頼めないことってなんだよ。
そう口に出して言いたかったが、話を全部聞くまで我慢だ。それでも考えることをやめないのが僕なんだけれどね。
僕にしか頼めないこと。
それは言い換えれば、僕にしかできないこと、という意味になる。
僕にはできないことは多すぎてもう数え切れないくらいだが、しかし、できることなればそれは容易に想像が着く。言ってて悲しくはならない。悲しくなんてない。
その実情は、僕のできることの数が異常に少ないだけなのだ。厳しい言葉を使えば、使えない、役立たず、低能、無能。
そんな僕にできることなんてたかが知れている。もはやなにもできない自分に対する不満は一切出てこない状態にまで至った。
「言うだけならタダだよ」
そういう感じの言葉で、躊躇を消しておく。
まあ、なんということだろう。
効果てきめん。その言葉が香月麗の躊躇を満遍なく消したことは明白だった。さっきまで少し後ろめたさかなにかをまとっていたが、もう大丈夫なようであった。
すうっと息を吸う音がかすかに響く。どうやら言う気になったらしい。麗は口を開いた。
「ありがとうございます。では──」
聞かされた驚愕の相談内容に、僕の思考は止まり、相談が終わったあとでも僕はしばらく動けなくなってしまった。




