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第16話 友達を作る方法です

 ああ、陽が沈む。


 橙色の陽光が街を隅々まで侵す。ぼんやりとした夕焼けを見ていると、こちらまでとろけてしまいそうだ。夜は近い。多分、そこがタイムリミット。それまでにローズに会えるだろうか?もし、このまま…。


 「お日様に加えて、ハル殿の表情も沈んでますです」


 「誰が上手いこと言えと」


 それに太陽はまだ沈んでいない。このままローズが誘拐されて、永遠にお別れだなんて冗談じゃない!そんなこと、例えお天道様(てんとさま)が許してもこのオレが…いや、お天道様(てんとさま)も許さないか。


 オレとルナは赤い花火が上がったという情報を頼りに市街地を奔走していた。


 …もう誰もがお気づきだとは思うが、ここではっきりと申し上げておこう。オレ、ハル=ウォーリアは…


 「この世界において明らかにスペックが足りてないッ!!!」


 「ええっ。い、いきなりどうしたんですか…」


 ルナは、突然大声で不満をぶちまけた哀れな少年を慰めるような目で見た。


 オレはこれまで何度もピンチを切り抜けてきた。そしてその度にちゃっかり死にかけた!別に不満がある訳では無いのだ。自ら死地に特攻した訳でもなければ、他に最善の策があった訳でもない。オレは常にすべきことをしようとしてきただけで、ちょっと経験と力量が足りなかったのであれば仕方がないことだ。


 強いて言うならば、不安だ。見よ、あの二次試験合格者の錚々(そうそう)たるメンツを。放ってるオーラが違う。横にいるルナも普段はアホだが、魔法に関しては眼を見張るものがある。そして、何より。オレと他の二次試験合格者には決定的な違いがある。


 「オレ二次試験何もしてないんだよおおおおおお!!!」


 「さっきからどうしたんですか!?大丈夫ですか!!」


 オレは二次試験を不戦勝で通過した。…言ってみればパスだ。オレは二次試験をパスして三次試験に挑もうとしている。わかる?オレさ、もしかしたら…いや、もしかしなくても一次試験ギリギリ合格程度の実力しか無いんだよ!それなのにこんなとこまで来ちゃってさ!そりゃ死にかけて当然だわ!だって全部運が良かっただけだもん!


 「あ、あの。汗ヤバめですよ?それに顔色も悪いし、体調悪いんですか?」


 ルナは心配そうな顔をしながら、くまさんのハンカチでオレの顔を拭き始めた。オレは乳児か。


 お前はいいよなあ。あんな凄い魔法が使えてさ。オレなんか火ぃ飛ばすだけだぜ?しかも炎魔法ならローズって完全上位互換がいるし。劣等感。それも多少はある。あるにはあるけど、それ以上にさ。…このままやってたらオレ、ホントに死ぬぜ?マジで。


 「なんか急に憂鬱になってきちゃったよ…」


 オレはガクッと肩を落とした。なんでオレはいつもこうなんだよ!


 「よくわかりませんですけど、大分メンタルにきてるようですね」


 そう言って、ルナは苦笑いを浮かべながらオレの頭を優しく撫でた。やべっ、泣きそう。


 「いつも頑張ってますもんね。…あ!あれ、もしかして…」


 ルナは立ち止まって目を細めた。前方には二つの人影…。


 「手前にいるのは光の賢者(アルヴィス)の騎士だな。奥のやつは…リク!!」


 分かるや否や、オレとルナは人様の家の庭に転がり込んだ。花壇に身を隠し、固唾を呑む。…なぜこんなとこにリクが…。

 

 「断言する。お前は、次の一撃すら打てずに死ぬ。」


 リクは目の前の騎士に向かって人差し指をピンと突き出した。


 「はあ?寝言は寝て言うっしょ…永遠の!夢想の狭間でッ!!」


 ジェットは手を地面に着き、野ウサギの如く前方に跳躍した。凄まじい速度でリクとの距離を縮めていく。


 「オラァ!ジェットブ──」


 ブチンッ


 一瞬、世界が止まった。ジェットから放たれた音速の拳はリクの腹部に入ると思われた。…しかし、その拳がリクへ届くことはなかった。


 「がッ…痛えェ!アアアアアアァッ!!」


 純白の甲冑に包まれた右腕は音を立てて()()した。ジェットの右肩から紅が噴き出す。


 「クソッ…!何を!何をしたァ!!」


 のたうち回る男は狂ったように右肩を叩き始めた。地面に赤い水溜りが広がる。


 「俺は何もしていない。これは、お前自身の経験不足が招いた結果だ。」


 リクは冷徹な目でジェットを睨み返した。


 何が起こった?確かにリクは何もしていない…。あの騎士の腕が、独りでに…千切れた。オモチャのロボットみたいに、肩からすっぽ抜けた。


 「嘘だぁ…俺のぉ…腕がああああァ……」


 歯が砕けるほどの歯軋り。噛んだ唇からも血が流れ出す。


 リクは嗚咽しているジェットを横目に、傍にある人間の右腕を拾いあげた。傷口を確認した後、色々な角度から入念に観察し始めた。


 「こいつは…明らかな設計ミスだ」


 ??


 「生産コストに重きを置き過ぎだ。使用者に相当な負荷が掛かっている。」


 「これまでこいつを何回使った?何度腕を壊した?…これはお前が招いた()()だ」


 リクは腕をジェットの方へ放り投げた。グチャッと音がして、血飛沫がジェットの顔を汚した。


 「畜生…これさえあれば…強くなれると…くっ……」


 勝負あり、か。どうやら敗因は騎士の装備にあったらしい。


 あの騎士は果たして、自ら進んであの兵器を使っていたのだろうか?少なくとも、あの様子では装備のマイナスの面は知らされていなかったようだ。…リクはこの結末を必然だと言った。きっと、この騎士に力を与えた奴には現在の光景が既に見えていたのだろう。


 積み重なる屍の山。その先に賢者は何を望む?


 騎士はピクリとも動かない。


 「さて。…それで隠れたつもりならこの先が心配になるな」


 オレとルナは顔を見合わせると茂みを出た。


 「なんだバレてたのかよ…」


 オレは苦笑いでリクの方をチラ見した。こいつと話すのはあの体育館の時以来だな。あの時はリクのクソみたいな発言にカッとなって怒鳴ってしまった。…そういえば、真っ先に通り魔だと疑ったのはリクだったな。完全にオレの勘違い。そこだけは、オレが悪かったと思っている。そこだけは。そこだけね。


 「潜伏する時はな、まず気配を消せ。体勢が高すぎる。それに視線も感じた。そして、最も大事なことはな…」


 「敵に無関心でいることだ」


 リクはこちらに背を向けたまま淡々と語った。オレだけリクの方を向いているのも癪なので同じ様に背を向けた。


 「別に…お前に関心なんかねーよ」


 オレは腕組みをしながらぶっきらぼうにそう言った。


 「そう…だったな」


 リクが笑った。そんな気がした。あの時とは違う。もっと、心から喜んでるような。オレに嫌われるのがそんなに嬉しいかよ。


 「…ローズはもう先に行った。目的地に心当たりがあるようだな。行ってやるといい」


 リクは乱れた病衣を適当に直すと、ゆっくりと歩き出した。


 花火を上げたのはこいつじゃなさそうだし、ローズはリクと逃げていたのか。今ローズが無事ならそれはリクのおかげであると言えるだろう。


 「お前はこれからどうするんだ!リク!」


 聞こえてないのか。いや、違うな。オレとリクはもう二度と。…友達には戻れないのか?






 「お前…ボッコボコじゃん…。今度はどいつにやられたんだ?」


 うっせえな。ほっとけよ。


 「まあまあ、見とけって!!俺の大発明!このリクロボ君3号でな!お前の仇を取ってやるぜ!」


 いいよ。そんなことしなくて。余計なことすんなよ。


 「友達?…ま、まあ、いないことは悪い事じゃねーぞ!?…それに、お前には俺がいるだろ?いつだって…俺はお前の味方だぜ。」


 誰が、お前みたいなウザい奴と友達になりたがるんだよ。オレはな、もっとこう…。


 「これ貸してやるよ!リク=バレット作、青春ラブコメ『ドキドキシルちゃん』!!どうだ?ビビったか?主人公はな…俺の大好きなシルヴィアたん!!」


 ああ。そうか。あの漫画の主人公、シルヴィアだったんだ。思い出したよ。4巻…返してなかったな。…リクにしては、上出来だと思ったよ。


 「以前、友達がいないことは悪いことじゃないって言ったな。確かに、そうだ。…けどな、友達を持たない奴は人の一番大事なモンを知らない。その事実がお前が今感じてるモヤモヤの正体なのかもな」


 偉そうなことを。お前もいないだろ。


 「俺はな!世界一の発明家になる!そんでもって、光の賢者(アルヴィス)に入るんだ!そしたら世界をもっともっと便利にしてー、俺の発明品が有名になってー。そしたらお前も鼻が高いだろ?世界一の発明家の親友なんだからさ!!」


 オレは…お前なんか…。


 「そうだよな…。俺なんかじゃ、お前の親友にはなれないよな。…なら今がチャンスだ!友達ってのはなホントに些細な出来事がキッカケでできるモンなんだよ!友達になりたいって強い気持ちと、あとはほんのちょっとの勇気だな」


 …。


 「ハル。お前はもう一人じゃない。あの日伸ばせなかった手を。星を。掴むのは今だ」


 本当は嬉しかったんだ。めちゃくちゃにウザくてさ。面倒で。オレはいつもお前に負けっぱなしで。いつか見返してやるってな。…それが日常だった。当たり前の毎日だったんだよ。リク、オレはもう一度…お前と…!






 「待てよ!!!」


 オレは声を張り上げた。リクの歩が止まる。後悔したくない。する訳にはいかないんだ。


 「なんだ?」


 振り向く気配は無い。


 「高一の時。お前に相談したよな。…友達がいないって。あの時の言葉を思い出した」


 「友達を作るために必要なこと。友達になりたいって強い気持ちと。そして、ちょっぴりの勇気…だったよな。今のオレには、そのどちらも揃ってる」


 「オレが掴み損ねた『星』は、案外近くにあったみたいだ。そして、オレもその『星』の一つだ。誰かの光を浴びなければ輝けない。…なあ、リク」


 息を吸い込む。腹に力を入れる。


 「もう一度!!オレと友達になってくれ!!!」


 太陽が陰る。だが、こちらを見るリクの顔はくっきりと見えた。歯を食いしばった、以前のリクの顔が。


 「ハル…。俺……!!」


 リクは俺の目をまっすぐに見て、何かを言いかけた。鮮やかな夕陽が、()()()()()()()()()()()と重なる。


 それはまるで、流星のようで。全てを塗りつぶすかのような黒の曲線は…。


 「あっ」


 リクの機械に覆われた左腕を弾き飛ばした。


 「あ…え?……リク?」


 リクは表情一つ変えずに続けた。


 「俺はな。ずっと…羨ましかったんだよ。お前がさ」


 続いて二発目の閃光がリクの腹部を貫いた。食いしばった口から血が溢れ出す。


 「お前の友達は俺だけだと思ってた。嬉しかったんだぜ?お前に友達ができてさ。でもな。内心…お前を取られちまったって。そう思ったんだ。」


 リクの身体が地面に崩れ落ちる。


 「リクッ!!!」


 オレは振り向けなかった。それよりもまず、リクを…!


 呆気にとられていたルナがオレの背後に回る。


 「ハル殿!リク殿を連れて早く逃げて下さい!!これは…まさか……!!」


 血みどろの水たまりから黒いモヤに包まれた何かが立ち上がった。全身からビチャビチャと血が落ちる。


 「ガァァァ…ターボォ…ターボォォォォォォ……」


 一歩。また一歩と、『それ』は3人に近づいていった。


 「リク!おいリク!血が…ああ!」


 「これは…この邪悪な気配は…!」


 見なくともわかった。以前と何も変わらない。頭からつま先まで震え上がるような嫌な寒気。暗く、怒りがこみ上げてくる。


 「ターボォ…ターボォ…」


 「ここから先は行かせません──流星群(ミリオンヒット)!!」


 ルナの周囲に結集した光の粒がいくつもの藍色の鉱石に姿を変え、堕ちた騎士の全身に叩きつけられる。全弾が余すことなく命中し、ジェットは数メートル後方に体をくの字に曲げて吹っ飛んでいった。


 「はぁはぁ…ハル殿!」


 オレは血の気の引いた顔でルナの方を見た。リクが…リクが!


 「ここは私に任せるのです!!」


 「な…何を…」


 ルナは目を吊り上げてこちらを振り向いた。当に鬼の形相。しかし、一度目を瞑り、再び開けた時にはいつもの優しいルナに戻っていた。


 「私…知ってます。シルヴィア殿のこと。あの夜のことも。そして…それをその身が壊れてしまうほどに後悔していることも。」


 オレが否定しようとしたのをルナが遮った。制止を振り切ることもできたかもしれない。でも無理だった。見透かされたようだった。


 「リク殿から友達の作り方を教わったんですよね?…でもそれだけでは不十分です。せっかく掴んだ星を…手放してしまうんですか?」


 「嫌だ」


 ルナはうんうんと頷くと満面の笑みで微笑んだ。


 「ならばここは任せるのです。ハル殿は今あるものを決して無くさぬよう、全力でリク殿をお守りするのです。いいですね?」


 「それ…死亡フラグ」


 「う、うるさいです!死ぬ気なんてこれっぽっちもありませんですから!危なくなったら躊躇なく逃げますですからね。」


 ルナはウィンクをして、ジェットとの戦闘に戻った。


 なんかオレ、逃げてばっかりだな。誰かを助けたくて。策もないのに飛び出して。頑張ってみたけど上手くいかなくて。結局誰かに助けられて。逃げて。逃げて。ただ…逃げて。


 でも逃げた先にも、また守りたい誰かがいて。みんなはオレに、勇気とちっぽけな存在理由をくれたんだ。そう思えばオレの逃げは無駄じゃなかったのかな。オレが逃げることで友達の命を救えるのだとしたら…オレは…!


 「任せとけーッ!!!」


 オレは声を張り上げると血だらけのリクを担いで全速力でその場を去った。


 「…大丈夫。あなたの努力を見てくれている人は必ずいます。私も…ずっとずっと友達です。」


 「ターボォ…俺はァ…まだァ…死ねないいいいいいいいいいいぃ!」


 ルナはマイクを取り出すと大きく息を吸い込んだ。それが発動のトリガーとなり、ルナの身体に光の衣がまとわりつく。


 「皆さぁーん!こぉーんにちはぁー!!今日は集まってくれてありがとぉー!!」


 ルナが声を発する度に星屑がキラキラと舞う。


 「今日はルナたんのスペシャルライブだよぉ〜!盛り上がっていってみよぉー!」


 ゆっくりと歩いていたジェットがフッと霧のように消えた。ルナの背後に回る。


 韋駄天乱打(ジェットマシンガン)。音速を超越した左拳が無数の残像を創り出した。それはルナの柔らかな肉を簡単に切り裂き──


 「かかりましたね。」


 あなたの声援(コール)そのままお返し(レスポンス)!!


 ジェットの攻撃を受けその場に倒れこむルナ。それと同時に、ジェットの腹部に衝撃が叩き込まれ血塗れの鎧が砕け散った。


 …流石に効きますね。でも、相思相愛(コールレスポンス)が発動している限り、私が負けることはない。時間を稼ぐという意味では私の勝ちは既に決まっていた…!


 ルナの力。それは他者を一時的に深い錯覚に陥れる「神の力」。ルナの声を一瞬でも耳にした者は心を支配される。


 「くっ…良いパンチでしたね。それを自分で味わうのも私とあなたの友情ですよ」


 相思相愛(コールレスポンス)。対象と自身の肉体をリンクさせる。ダメージや補助魔法まで完璧に再現。…実際は、そう相手が錯覚しているだけだが。


 私の力の最大効果範囲はマイク使って音量上げても精々半径100メートルが限度。私をスルーしてハル殿の方へ行かれたらゲームセット…。なんとか時間を稼ぎつつ、騒ぎを起こしてヘイトを溜める!

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