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第15話 イレギュラーです

 「不審な動きを発見したら、直ちに教えてくれ。暗澹の探求者(ダークネスドラグナー)


 黒髪の少年がショッピングモールの屋上から身を乗り出しながら、同じく反対側で身を乗り出している気怠げな少年に声をかけた。


 ジーク、パイル、アーヴィンの3人はライトにハル達の周辺の警備を任されていた。正午を過ぎ、灼熱の太陽が輝く。手をついたコンクリートが鉄板のように熱い。


 「…」


 「シカトか…。だが俺は気にしないぞ。ふはははははっ!」


 ジークはひきつった笑顔で高笑いをすると、決まりが悪そうにチラリとアーヴィンの方を見た。彼はあくまで無視を貫き通しているようだ。


 「…パイル遅いな。どこまで行っているのだろう。なあ?」


 「…」


 こんな猛暑の中、こんな所にいたら死んでしまう。ジークの腰にある重そうな剣は光を浴びてギラギラと光っている。


 「…おかしいっス」


 これまで沈黙を貫いていたアーヴィンが突然口を開いた。その表情はいつになく真剣だ。


 「どういう意味だ?」


 ジークは素早く振り向いて、決めポーズで問いかけた。


 「…静かすぎるっス。そろそろ各所でドンパチ始まる頃っス。それなのに、俺達のとこには追手(おって)が来ないどころか、騎士の一人すら見当たらないっス。これじゃまるで…」

 

 「まるで?」


 アーヴィンは顎を触りながらジークの方を見た。左眼下の黒い幾何学模様の刺青が強く引き攣られてシワができる。


 「まるで──」


 パンッ


 ゴムが弾けるような音がした。南西の方角で爆発音。煙と共に赤く輝く花火だった。


 「な…花火?」


 ジークは目を細めながら遠くで上がった花火を見つめた。


 救難信号だろうか?仮にそうだとすれば、花火の主はローズである可能性が高い。炎属性に適正を持ち、爆発を得意とする彼女ならば、魔法の使用自体は十分可能だ。どうする?助けに行く?ハル達が何らかのトラブルに巻き込まれて、到着が遅れているとしたら俺達を除いて誰がローズを助けられるだろうか。


 「すまない!あの花火が気がかりだ。少しの間待っていてくれ!」


 ジークが左手を足元にかざすと、周囲の塵が集まり土塊の階段が地上まで降りた。


 「歩いて行く気っスカ?ははっ、間に合わないっスよ…」


 アーヴィンは嘲るように暗く笑った。両手をポケットに突っ込むと屋上のドアの方へ歩き出した。


 「どこに行くんだ…。ローズはどうなる?」

 

 何度も呼び掛けたが返答は無かった。


 パイルは帰ってこない。アーヴィンはどこかへ行ってしまった。…まあそりゃそうか。二人共、ローズとは殆ど面識が無い。人と人の繋がりなど、所詮はそんなものだ。…俺がやるしかない。


 ジークは土の階段を二段飛ばしで駆け下り、駐車場に着地した。屈んだままで周囲の状況を確認する。右手にはしっかりと両手剣の柄が握られている。


 「ハルのためにも、俺が行かなければ……!」

 

 決意を固め、その場から去ろうとしたその時…


 「何!?」


 コンクリートの地面がまるで液体のように滑らかに盛り上がり、ジークの行く手を塞いだ。コンクリートの塊はみるみる膨らむと、二つの丸い()()でジークを見下ろした。


 「なんだコイツは…」


 ブクブクと泡の立つ音がして、後方にもコンクリートの魔物が現れた。次は左前方。その次は…。


 「囲まれたか」


 魔物の胴体に穴が空き、ズラリと並んだ鋭利な歯が見え隠れしている。魔物は低く唸った後、ジークとの距離を少しずつ詰めていった。


 「ハラヘッタァハラヘッタァ」


 数が多すぎる。偶然鉢合わせたって訳ではなさそうだな…。


 今回の件ではっきり分かった。光の賢者(アルヴィス)は味方ではない。そして、何かを必死に隠している。何か、決して明かしてはならないことを。


 連中にローズが危険視されていることは間違いない。確かに、ローズは同世代の高校生達とはかけ離れた抜群の才を持っている。しかし、本当にそれだけなのか?


 「全部倒すのは無理か…」


 ジークは剣を逆手に持つと、左手を天に向かって突き出した。


 「飛石(ステップストーン)!!」


 足元のコンクリートにヒビが入ったかと思えば、次々と正方形に切り出され、螺旋状に浮かび上がった。等間隔に並んだコンクリートの足場は魔物の輪から脱するに十分な高さまで達している。

 

 逃げれば勝ち…!言うなれば()走!


 ジークは石段に飛び移り、素早く駆け上がって行った。周囲の魔物達が攻撃を仕掛けてくる様子は無い。


 空中戦は苦手のようだな。さらばだ!


 「ハラァ…ヘッタァ…。オマエクウ!!」


 !!


 ジークを見上げていた魔物達は溶けて液状になり、別の個体と混ざり合い始めた。それは一瞬の出来事であった。…大地を覆い尽くす程の…!


 「合体…だと!?」


 暴食鬼(グラトニー)光の賢者(アルヴィス)によって特定危険生物に指定された文字通りの「怪物」。


 恐るべきはその繁殖性である。暴食鬼(グラトニー)は子孫を残さない。その代わり、彼等は十分に成長すると身体の一部を切り離し、新たな意志を持った個体を産み落とす。それ故に、この世界に生息する暴食鬼(グラトニー)は全て同一個体であるとの見解を示す学者も多い。


 かつて、捕獲した暴食鬼(グラトニー)を解剖した学者がいた。肉体の再生技術の足掛かりになると考えたからである。解剖に立ち会った光の賢者(アルヴィス)研究員の記録にはこう書かれていた。…解析不能(アンノウン)


 完全に常軌を逸していた。生物と裏付けるものが何一つ確認出来なかったのだから!


 視界に入るモノを喰らい尽くし、増殖を続ける。仮に生物としての器官が存在しなかった場合、食事の必要性が皆無であることになる。一体何のために人を喰らう?


 「くっ…飲み込まれる…!」


 愚問なのだろう。暴食鬼(グラトニー)の飽くなき食欲の前では。


 大きく開かれた口に、落下していく。久しぶりの食事にありつけた怪物は、満足気に地中へと帰って行った。そこにはただ、使い古された両手剣が寂しく転がっているのみだった。


 「やれやれ。食いしん坊も困ったものだな」


 石人形(フェイクストーン)。とでも名前をつけておくか。即席で作った土の人形だが、案外騙せたようだな。


 ジークは剣を腰の鞘に納めると、静かな駐車場を後にした。




 


 「ここまで来れば大丈夫そうか…。」


 ワシワシと頭を掻いたあと、ボサボサ頭の少年はポケットから短刀を取り出し、左掌を切りつけた。血が滴り落ちる。その血を右手の人差し指と中指で取ると、地面に簡易的な魔方陣を描き始めた。


 「大いなる自然の守護者達よ…俺に力を貸したまえ……!」

 

 周囲を闇が覆い、風が吹き荒れる。


 バキバキ…


 硬いものが割れるような音と共に、魔方陣の中の少年の身体が歪に変形し始めた。時折、苦し気な声を漏らしている。


 「ぐぐッ…」

 

 少年の肉体はもはや人間の姿を保っていなかった。闇が晴れ、風が止む。そこにいたのは…人の倍ほどある巨大な「鳥」であった。


 「獣神(ビースト)(ホーク)……!!こいつだけは、誰かに見られるわけにはいかないからな…」

 

 人の言葉を話す巨大な鷹は、微かに残る花火の霞目掛けて飛び立った。


 「あの厨二病バカが囮になってくれてることを願うか…。空からなら敵の迎撃を受けるリスクも激減する」


 鷹となったアーヴィンは雲に身を隠しながら風を切る。


 「あの時感じた気配…間違いない。暴食鬼(グラトニー)だな。俺達を追っていた騎士は全員、奴のランチになったわけだ」


 アーヴィンは花火の真上に到着すると、市街地で激突している四人を発見した。


 「あれがローズか……。一緒にいるのは一次試験で受験者狩りをしていた奴だな。俺なら真っ先にあいつを警戒するがな」


 そう呟くと、鷹はそそくさとその場から去ってしまった。ローズを助ける気はハナから無いようだ。


 あの騎士はそこらにいるゴミとは違った。かなり研ぎ澄まされてる。偵察を初めとしたサポート特化の俺の能力じゃ、分が悪いな。


 俺とあの厨二病バカがデパートの屋上であちら側(アルヴィス)の出方を伺っていたことは、騎士達に筒抜けだった。聞くところによるとルナの方も待ち伏せにあったらしいじゃないか。そして、極め付けは()()だ。


 ローズは先日の戦いで魔力をかなり消耗している。とてもじゃないが、まともに戦うことは不可能だろう。それは光の賢者(アルヴィス)側も把握していたはず。…にも関わらずだ。ローズを追跡していた騎士は殺しのプロときた。なぜそこまで、魔力が空のローズを警戒する必要がある?まるで…ローズがリクといることが最初から分かっていたみたいじゃないか。


 そう。つまりそういうことだ。この一連の騒動は……出来レースなのだ。俺達が上手く騎士達を掻い潜っているつもりでも、実際は手の平で踊らされていたに過ぎない。勝ち目など無い…はずだった。その残酷な運命は先程、ほんの少しだけ破綻した。…暴食鬼(グラトニー)の出現によって。


 完璧な計画の中に突如現れた全く新しい分岐点。奴によって騎士達との戦闘を回避した俺とジーク、パイルは今の状況において、唯一のイレギュラーな存在。どちらの軍勢に軍配が上がるかは、俺達のこれからの行動に委ねられていると言っても過言では無い。


 だからこそ言える。この作戦はな……


 「確実に失敗する。ははは……」


 何故ならば、俺にとってローズなどどうでもいいからだ。敵の意表をつけるのは俺を除いて他にいない。その俺が何もしなければローズは死ぬだろう。ローズだけじゃない。他の奴らもだ。そうして俺は、大切な友達を失った可哀想な高校生として、遠征隊に選ばれるんだ。二次試験通過者が多数参加したこのパーティー。ここであいつらを消す……!!


 バサッバサッ


 鷹は嘴を歪ませると、一足先に学校へ向かった。






 「ま、とりあえず手ェ上げとけ。変な気は起こすんじゃねーぞ」


 無残に破壊された病院の待合室で、ライトが服の土埃を払いながら言った。周囲の患者や医師…の格好をした騎士達は信じられないという顔で両手を頭上にピンと伸ばしていた。


 「なんつーか、俺だけ楽な仕事になっちまったな。さて…どうしたものか」


 ライトは腰に手を当てて辺りを見回した。その時、病院の自動ドアが静かに開いた。


 「おやおや。随分とまあ…」


 丸眼鏡をかけた老人が杖をつきながらゆっくりとライトに歩み寄った。ライトの身体が一瞬強張る。


 こいつ……クソ強えな。


 「あー、ここに何の用だ爺さん。見ての通り、今日は臨時休業なんだけどな」


 ライトは、内に抱く恐怖を悟られないように余裕の表情を懸命に繕った。


 「定期検診に来たんじゃがな。どうやらそれどころじゃなさそうじゃ。…お前さん怪我は無かったかね?」


 老人は穏やかに微笑んだ。そして、ゆっくりと待合室の中程まで進むと、落ちていた白い拳銃を手に取った。


 「気の毒なことじゃ。民を守るために生まれしこやつも、まさか民を殺めるために使われようとは思ってもみなかったじゃろう」


 老人は瓦礫を掻き分け、床に落ちている銃や銃弾を一つ一つ拾い上げ始めた。ライトや騎士達は呆気にとられていたが、次第にそれを手伝う者達が現れ、最後には皆、心を一つにして病院の清掃にあたっていた。


 「どうもありがとう。…病院は争いと最も遠い場所にある。ここはワシの顔に免じて、丸く収めてもらうことはできぬじゃろうか?」


 老人はライトの方へ振り返り、深々とお辞儀をした。ライトは腰に下げていた剣を抜くと床に置いた。それがこの老人に対する最大限の敬意だと悟ったからだ。


 「わかりました。ですが、俺には助けなきゃいけない友達(ダチ)がいます。争いは避けられません。俺は悪魔に魂を売る覚悟でこの剣を握っています」


 ライトは再び剣を腰に下げると、老人の誠意に応えるように一礼した。


 「なんと悲しいことじゃろう。お主のような年端もいかぬ子供に、それほどまでの(むご)い選択をさせるとは…。民に合わせる顔も無い……。せめてもの償いの気持ちじゃ」


 老人はそう言うと、杖を床にコンコンと打ちつけた。すると、ライトの背後の景色がグニャグニャと歪み始め、それは人一人が通れる程の大きさまで広がった。


 「この道を抜ければ、目的地へ着けるじゃろう。…忘れてはならぬ。本当の強さとは、人と人の繋がりの中にある。友を……忘れてはならぬ」


 ライトは驚きながらも、老人の言葉に一度頷くと歪む穴の中へと入って行った。窓から差し込む橙色の光を横目に見ながら。

体調管理に気をつけましょう。

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