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第11話 スーパーエリート捜査官です

 「はぁ…はぁ…しつけぇなァッ!!テメェ何様だよォ…ああ?!」


 褐色肌の男が怒鳴り散らす。手にはクシャクシャに丸められた紙クズを持っている。黒いドレッドヘアが風になびく。汗だくだ。


 男を冷徹な目で見つめる青年は、眼鏡の位置を軽く直すと、含み笑いで言った。


 「スーパーエリート捜査官ってとこですかね。…貴方が手にしている()()を渡してもらいましょう。『〝爆狼(ばくろう)〟エルドラ』」


 捜査官はネクタイを直し終わると、今度は胸ポケットからコンパクトな櫛を取り出し、七三分けを整え始めた。


 『エルドラ』と呼ばれたその男は紙を握る右手に力を込めた。紙のパサパサとした乾いた音がゴーストタウンと化した街の一角に響く。エルドラは両足の踵を少し上げ、体勢を低くした。頰を一筋の汗が流れる。


 「ほう、じゃあ聞くが…俺様がこの紙クズをてめえに大人しく渡したとして、俺様はどうなる?ご協力ありがとうございましたって帰らせてくれんのかぁ?」


 「そうですね…。文書の内容を知ってしまった以上、生かしてはおけませんね」


 その言葉を聞くや否や、エルドラの真っ赤なレザージャケットの端がパタパタと浮き始めた。鍛え上げられた肉体が露わになる。が、その腹には生々しい銃創が無数に刻まれていた。血が滴り落ちる。


 「じゃあ…意味ねえじゃねえかァッ!!」


 漂う塵はやがて集まり、一対の黒き砲となる。青い炎が輝き、風が吹くたびに力強く吠えた。


 エルドラには負けられない理由があった。エルドラは昔から血の気が多かった。友人からも、両親からも見放され、若くしてスラム街の王となった。エルドラはまだ10歳だった。光の賢者(アルヴィス)によって街が焼かれたあの日、エルドラは悟った。この世界を支配しているのは合理や道理ではない…暴力であると。


 エルドラにとって、魔王など心底どうでもよかった。エルドラは。もうとっくに絶望していた。エルドラが戦う理由。それは、


 「てめえら光の賢者(アルヴィス)をブッ潰してやるッ!!双狼砲(ダブルカノン)ッ!!!」


 両肩の黒い筒から蒼炎が撃ち出された。炎は唸り声を上げ、青年の喉元と腹部に喰らい付いた。青年の細い身体が引き裂かれる。いとも簡単に。肉片がボトボトと音を立てて地面に落ちる。


 が、エルドラが戦闘態勢を解く事は無かった。歴戦の経験か、野生の勘か。一体何が彼にそうさせているのかは分からない。しかし、彼の底知れぬ怒りは確かに、標的を捕捉していた。


 「ま、流石の威力と言った所でしょうか。S級犯罪者の称号は伊達ではないようですね」


 澄ました顔でビルの屋上から見下ろしていたのは、先程の青年であった。外傷の形跡は一切無い。


 「自己紹介が遅れました。いや、正直するつもりは無かったのですが、貴方程の手練れと手合わせするに当たってその必要性を見出しました」


 「死ねやァッ!!」


 二発目の火炎弾が青年目掛けて発射された。正確には三、四発目か。二頭の青き狼は宙を駆け、ビルの屋上ごと消し飛ばした。土煙がモンモンと立ち昇る。エルドラは落下する瓦礫を足場に、向かいのビルの屋上へ飛び移った。崩壊する目の前のビルからは血が滴り落ちている。が、


 「光の賢者(アルヴィス)が一人、ファーゴット=フルブライト様の秘書『ピスケス』と申します。以後、お見知り置きを」


 そう名乗ると、青年は口元を邪悪に歪ませた。光の加護を受けし者。その本質は一片の悪も逃さない絶対的な正義であった。


 かつて、この世界の大部分を無に帰した異形の怪物「魔王」。人類の明日を後世に託すべく、立ち向かった「四人の勇者」。


 もし、かつての勇者の意思を継ぎし者達が光の賢者(アルヴィス)であるならば、果たして神は賢明な判断をしたと言えるだろうか?


 「エルドラ。貴方の気持ちはよく分かりますよ。しかし、何かを守るためには何かを捨てなければならない。貴方達スラムの底辺共には我々の糧となってもらいます。」


 否。致命的な誤算である。






 「もしもし、母さん?オレだよオレ。うん。しばらく休みだからさ。今から帰るわ」


 ヴィゼフの襲撃により急遽、延期となった三次試験。深傷を負ったオレ達の休息、そして行方不明になったシルヴィアの捜索を目的とした一時休暇が生徒達に与えられた。


 母さんとの久しぶりの会話が電話越しかよ。まあ、それもいいか。


 オレはクラスメイトに軽く挨拶をして、教室を出た。普段話さない奴等から激励の言葉を貰った。家に帰る足取りが重い。きっと傷のせいだ。なんとか自力で歩けるようにはなったが、まだ背中が鋭く痛む。


 母さんはオレに何と言うだろうか。頑なに顔を合わせようとしなかった馬鹿息子に。「今さら帰ってきたの?」「父さんがいたら何て言うかしら」「親不孝者」覚悟はできている。


 父さんが服役してからもう5年だ。当時、オレはまだ12歳。「死にたい」と嘆く母さんを見て育った。理不尽な虐待を受け、そんな毎日に嫌気が差したオレは中学卒業と同時に言葉を交わさなくなった。オレは絶縁を決意した。


 しかし、母さんはその後、高校の学費を稼ぐためにパートを始め、身を粉にして働いてくれた。オレは母さんという人間がわからなくなった。


 「おっ!お帰りかい?未来の勇者様」


 靴箱からローファーを取り出したところで、誰かに声をかけられた。調子に乗ったチャラい声。声の主は二次試験でジークと激闘を繰り広げた『雷神』、ライトだった。


 「俺のこと覚えてる…よな?明日『三次試験頑張ってねパーティー』をみんなでやるんだけどさ。来てくれねーか?」


 ライトは一次試験ではリクのチームだった。つまり、オレとは敵対関係にあるはず。どうしてオレを誘うのだろうか。罠か?


 「…ま、疑うのも無理ねーよな。ただ、俺は誰かを嵌めて蹴落とすようなセコい真似はしねえ。それはリクも同じだ」


 「なら何でオレに声をかけたんだ?お前はジークやオレを恨んでるんだろ?」


 そう言うと、ライトは目を細めてしばらく考え込んだ。そして少しの沈黙の後、ニパっと笑って答えた。


 「そうだな!俺はリクの邪魔をするお前らが大嫌いだ!」


 随分と正直な奴だな。だが、適当な嘘を吐かれるよりは幾分かマシだ。


 「でもな。だからこそお前を誘いたいんだ。なんかさ、上手く言えないけど…このままじゃダメな気がすんだ。お前はお前で良い所を持ってるはずなのに、このまま嫌いのままで終わるなんて。リクとお前が喧嘩したまま終わっちまうなんて。俺は嫌だ」


 …。そんなの。オレだって御免だよ。そうだな。例え試験では敵同士でも、オレ達は元は同じ学校に通う仲間。いつまでも仲違いしてはいられない。


 「まあ、行けたら行くよ」


 「それ100パー来ねえヤツじゃねーか!はははっ!朝9時に駅前のカラオケ集合。時間厳守!いいな?」


 オレは一言返事をして、帰路に着いた。ガラの悪そうな見た目に反して、良いやつだったな。ライトがここでオレに話しかけなければ、オレはライトを誤解したまま一生を過ごしていたかもしれない。そうだ。オレが誤解していることは案外多いのかもしれない。帰ったら母さんにちゃんと謝ろう。当たり前だろ?世界でたった一人の母さんなんだからさ。






 下を向いて歩いていたら、いつのまにか玄関まで来ていた。部屋の明かりがついている。母さんはいるようだ。そびえ立つ玄関の扉がオレを威圧する。胸が苦しくなるまで息を吸い込んだ。ひやりとした冷たい空気を身体の内側から感じる。大丈夫。一言心の中で呟いてから、ゆっくりと息を吐き出した。


 「さ、行くか」


 ガチャ


 「母さん…ただいま」






 廃れたビルの前まで来た。現在朝10:22。完全に遅刻した。夜中まで母さんと談笑していたせいか、目覚ましのアラームをガン無視して寝過ごしてしまった。


 「ライトに何て言い訳しよう…」


 寂れた階段を上り、これまた寂れたカラオケBOX「lagoon」に入った。取り敢えず受付のお姉さんに声を掛けて…


 「あらあら?もしや貴方も遅刻しちゃった系ですかーっ?ぷぷぷー!」


 受付の前まで来た所で、知らない女の子に声を掛けられた。色白の肌に、とろんと垂れた目。かなり可愛い。どうやら、目的はオレと同じらしい。

 

 「(わたくし)知っておりまするよー。ハル=ウォーリア殿ですよね?私、ルナ=フルールと申します!ルナたんって呼んでくださいましーっ!」


 これはこれは。またキャラの濃い子が来たもんだ。マトモな奴はいないのかうちの学校は。受験システムどうなってんだ。


 「あ、うん。よろしくね、ルナ()()


 「ぷぷぷー!ハル殿ったら照れ屋さんですねー!」


 ルナは萌え袖を口に当ててクスクスと笑った。いや、こいつめんどくせええええ。今すぐ、その頭の黄色いカチューシャごと脳天かち割ってやろうか?


 「貴方も、ってことは君もライトのパーティーに遅刻しちゃったんだね」


 オレは何とか話を逸らそうとパーティーの話に戻した。そう、今オレはかなりの危機的状況に置かれている。クラストップの陰キャであるオレがパリピのパーリーに参加するだけでも十分ハードルが高いのに、事も有ろうにパーリーに遅刻してしまった。シンデレラ張りの大遅刻をかましてしまった。


 「るんるーん。あ、ハル殿って好きな子とかいらっしゃるんですか?もしよろしければこの後、私の家で…その…」


 うるせえ黙ってろ。陰キャならぬ淫キャですか?最近の高校生は凄いね!ハル君びっくりだ!


 「ライダース様のご友人でいらっしゃいますか?」


 オレが考え込んでいると、受付のお姉さんが話しかけて来た。オレと後ろのアホを交互に見ながら苦笑いをしている。オレはライト達の部屋番号を教えてもらい、ルナと共にパーティー会場に向かった。


 「あのー、手ぇ繋ぎません?そしたら、私達カップルみたいで…これは胸アツ展開ですねー!」


 そう言ってルナはオレの右手に強引に指を絡ませてきた。柔らかな感触がオレの手を包み込む。女の子ってこんな良い匂いするんだぁ…って、お前覚えとけよ?パーティーが終わったら散々な目に合わせて──


 ガチャ


 その時、数メートル先の部屋のドアが勢い良く開き、中から何者かが躍り出た…!


 「ジーク=シュトロハイムがカラオケパーティーに見参だ」


 まずお前を始末してやるよ。

久しぶりの投稿。

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