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第8話 逃げる訳にはいかないのです

 ローズが…通り魔?嘘だ。そんな…。あり得ない。そんななわけあるか!だって当のローズは今、その通り魔に襲われて入院中なんだぞ?ローズは被害者なんだ。ローズは通り魔じゃない。そうだ。犯人じゃないんだ。


 「第2試合勝者、ルナ=フルール!二次試験合格とします!」


 でも、もしローズの自作自演だったとしたら?ローズはジークを恨んでいた。それでジークを刺した。或いは、選抜試験において厄介な存在になることを見越して、試験開始前に消そうとした。それをカムフラージュするために自分をナイフで刺した。そうは考えられないか?


 で、でも。ローズはあんなに献身的にオレに魔法を教えてくれた。これは紛れも無い事実だ。一次試験では何度ローズの魔法に命を助けられたか…。


 「第3試合勝者、レフト=ライダース!二次試験合格とします!」


 でも、もしそれがローズの策略だったら?ジークが通り魔に襲われてから迎えた一次試験。オレ達はヴィゼフの襲撃に遭った。実はローズとヴィゼフが裏で繋がっていて、オレだけを生き残らせるためにローズはオレに魔法の稽古をつけたんじゃないか?ヴィゼフはオレのブレイズバードを知っているような素振りを見せていた。不意をつけたのはローズに見せていない薔薇色の鳥(ローズバード)だけ。これらは本当に単なる偶然なのか?


 …ローズはオレに「好き」だと言ってくれた。ローズがそんな奴のはずがない…


 「第4試合を開始致します!リク=バレットさん、シルヴィア=レイズさん。準備をお願い致します。」


 ローズがオレに告白してきた時。


 オレ達は出会ってまだ2日だった…。


一目惚れ?冷静に考えればすぐわかることなんだ。オレは…ローズに嵌められた。あいつは…ずっとオレ達を騙していた。ヴィゼフと結託してみんなを殺そうとしていたんだ。






 「貴方がハルくんの友達の…」


 シルヴィアとリクが壇上で向かい合う。リクは腕を組み、仁王立ちしている。校庭にハルの姿は無い。しばらくの沈黙が続いた後、リクが答えた。


 「あいつは俺を友達だなんてカケラも思っていなかった。今は俺もそうだ。」


 リクは目を瞑り、息をふぅーっと吐いた。まるで、これまでのハルとの思い出を綺麗さっぱり吐き出してしまうように。


 「そんなこと…そんなことありません!ハルくんは貴方の事をこれまでずっと友達だと思っていました!そして、これからも。ハルくんは──」


 「そんな話信用できないな。そういうお前はハルの何なんだ?ガールフレンドか?」


 シルヴィアの言葉を遮るようにリクが問いかける。「ガールフレンド」という言葉に反応したシルヴィアは、きまりが悪そうに俯く。


 「…まあいい。俺はこんな所で二の足を踏んでいる暇はないんだ。何としてでも遠征隊に参加し、魔王を倒し、そして光の賢者(アルヴィス)を潰す。この世界に『革命』を起こすために。…悪い事は言わない。今すぐ降参すれば、命だけは助けてやる。」


 冷たく、憎しみのこもった声。そこからは只ならぬ決意が感じられる。しかしシルヴィアは、リクの言葉に抗うように腰を落として前傾姿勢になる。それを見たリクは少し笑みをこぼすと、機会に覆われた左腕に電流を流した。機械的なエネルギーのチャージ音が聞こえ始める。


 「大した奴だ。…お前のそういう所を、あいつは認めたのかもな。殺す気でいくぞ。」


 俯いていたシルヴィアが再びリクを見た。拳を力強く握りしめる。もうその顔に迷いはない。


 「ハルくんは決して諦めません。試験のことも…貴方のことも。だから私も逃げません。逃げる訳にはいかないんです!!!」


 リクの左腕が不気味な光を放ち始める。それに呼応するかのようにシルヴィアの魔力が高まり、銀髪が風になびくが如く、フワフワと浮き始めた。


 「それでは試合を開始します。レディ?──ファイッ!」


 リクの左腕からいくつもの白い光が撃ち出された。バラバラだった光の筋は緩やかなカーブを描き、シルヴィアの元で収束する。


 「水鏡(リフレクト)!」


 シルヴィアの前に円形の水が作り出される。光はシルヴィアの水に反射し、あちこちに散らばった。大理石の床に複数の穴が空く。


 リクは一度頷くと、今度はシルヴィアの方に物凄い速さで迫って行った。左腕が物騒な音を立てて変形し、鋭利な刃物に変わる。


 シルヴィアの手から水流が飛び出し、リクを縛り付ける。が、リクから発せられた電流が水を伝いシルヴィアの左手を焼いた。


 「いッ!!あぁぁぁッ!」


 怯んだシルヴィアをすかさず左手で殴りつけたが、瞬時に水のクッションを作り出したため、リクの刃はギリギリ届かなかった。床に打ち付けられるシルヴィア。大理石に血が滲む。


 「お前の力はこんなものか?」


 冷酷な眼差しでシルヴィアを見つめる。


 「まだです!」


 シルヴィアが床を叩くと同時に、床の溝から水が湧き出す。湧き出した水がリクの両脚に絡みつき、固定した。


 「雷に水じゃ相性が悪い。諦めろ。」


 「それは、使い方によるんじゃないですか?」


 リクの頭上に巨大な水鏡が展開される。太陽に照らされ、床に神秘的な模様が映る。


 「水が駄目なら…」


 リクの左腕から煙が上がる。


 「!?」


 水のレンズを通して集められた太陽光は次第に強くなり、リクの腕を溶かす程の熱線に変わった。


 「確かにこれならダメージを与えることができるな。脚も動かない。その機転は認めるが──」


 リクの左腕が変形し、機関銃が現れた。銃口がシルヴィアに向く。


 「これだけ大規模な魔法を使えば守りが薄くなる。詰めが甘かったな。」


 「はっ…」


 機関銃が乱射される。夥しい数の弾、弾、弾。もうダメだ。そう思ったシルヴィアの脳内にフラッシュバックした光景。それは、シルヴィア自身も知らない『誰か』の記憶であった。






 『大丈夫よ。泣かないで。きっとまた会える。』


『世界は私が救ってみせる。でもその前に…私が…心まで()()になってしまう前に…この力を明日に託す。明日を生きる勇者達に!!』


 「聞いたことのある声…知ってる人…この人は──」






 「はっ…はぁはぁ。私は…え?」


 気づけばそこは大理石の舞台の上。何も変わっていない。倒れているシルヴィアの横にはリクがいて、機関銃を撃ち続けている。銃弾がシルヴィアに降り注いでいる。そう。先程と何も()()()()()()()、全てがそこに在り続けていた。


 「時が…止まってる!」


 風も、光も、何もかも動かない。シルヴィアだけがその影響を受けず、呼吸し、動くことができている。


 「これは…一体…」






 ローズ…。お前の目的はなんだ?


 「ハル!」


 声の方向を見ると、病衣姿の真っ赤な髪の少女が息を切らして立っていた。


 「ハル!みんなはどこ?シルヴィア達の魔力が感じられないの…試験はどうなったの?」


 ローズ!目が覚めたのかよかった…。話したいことがたくさんあるんだ。ずっと待ってたんだ。あのな──


 「気安く呼ぶなよ犯罪者。」


 は?オレは何を言ってんだ?


 「は、犯罪者?その話は少し前にしたはずよ。今さら何を…」


 「しらばっくれんなよ。ジークや他の人を刺したのお前だろ。全部わかってんだよ。」


 やめろ。


 「オレが聞いたヴィゼフの声。その話をした時、心当たりがあるような顔をしたのはなぜだ?ジークが刺されたあの日、学校を休んだのはなぜだ?オレの炎魔法を把握していたヴィゼフが、お前に唯一隠していた魔法だけ知らなかったのはなぜだ?通り魔の凶器にお前の魔力の痕跡があるのはなぜだ?昏睡状態だったお前が何で今ここにいる?」


 やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ。


 「会って2日の奴に告白?オレに一目惚れだ?ふざけんな!騙そうったってそうはいかない。次は誰を殺すつもりなんだ?オレか?シルヴィアか?答えろよ!!」


 やめろ!!!こんなこと。オレはこんなことを言いたかったんじゃないんだ。


 怒鳴り散らすオレを見て、ローズは口を開けて呆然としている。


 「な、何の話をしているの?ねえ。私が…通り魔?違う…私じゃない!ねえハル…お願い…信じて…」


 ローズは膝をついて、ポロポロと涙をこぼし始めた。オレはなんてことを。白々シい。違う、白々しくなんかない。こイつはオレを騙ソウトしテいル。アヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!みーんナミーんナ、オレガ…何言ってんだオレ?


 「オレの前から失せろ。二度とオレ達に関わるな。」


 オレは泣き崩れるローズを置いて校庭へ向かった。






 「なんだこれ…。」


 オレは校庭に着いてすぐ、その異常に気がついた。命の気配がしない。人はいる。けれども皆、石像のように動かない。人だけじゃない。何もかもが止まっている。この校庭だけ、時間が止まっているようだ。


 「何が──」


 ブシュッ


 ん?なんの音だ?静寂に突如鳴り響いた音を疑問に思っていると、突然地面が上にせり上がった。いや、違う。オレが膝をついたんだ。


 ブシュッジュッジュッブシュゥ


 音に合わせて地面が赤く染まっていく。血だ。どっから流れてきたんだ?辺りを見渡そうとしても、体が動かない。手探りで確認すると手が真っ赤になった。


 「あー。これ…オレの血か…。」


 全身の力が抜けて地面に倒れこむ。ドクドクと背中から血が流れているのが分かる。


 カラン


 何かが顔のすぐ横に落ちて来た。なんだ。銀色。ナイフか。そうか。オレは通り魔に…ローズに襲われたんだ。でもよかった。シルヴィアじゃなく、ローズの次の標的がオレで。全く酷え女だったぜあいつは。


 オレはローズの悪人面を一目見ようと、最後の力を振り絞って振り向いた。だが、そこにいたのは


 「あっ。え。あ、どうして…。」

 

 狂気の笑みを浮かべた、見慣れた『銀髪の少女』であった。

もうすぐ春休みですね。

一年経つの早いなぁ

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