十四歩目【意識】
大分間隔空いてしまってすみません。
頻繁には難しいかもしれませんが、更新を再開させていただきます。
お付き合いいただければ幸いです。
書文の第一手は、結果を言えば大ハズレ。悪手もいいところの、言ってしまえば極悪手だった。
「え、うわっ!」
がくん、と書文の体が大きく傾いだ。下から強い力が加わり、それに上体が引っ張られる。
なにが起こったのか、書文にはすぐにはわからなかった。それを理解するよりも早く、がら空きになった後頭部と背中に強い打撃が加わったからだ。
「おぅるぁごらぁぁ!」
声とも音ともつかないなにかを張り上げて、花瓶以外の三人が書文を囲んで打ちのめしているのだ、とわかった。花瓶は書文の足元でえずいている。
襟を捕まれたまま殴ってしまったため、花瓶がうずくまるに合わせて書文の上体も引っ張られてしまったのだ。
故にこれは、悪手。
相手の胸倉を無警戒に掴むのも素人だが、それを正直に殴るというのもまた素人だった。しかも今回は相手が多いというのに、書文の一撃はそれを考慮に入れていない。
飛鳥なら胸元に伸びた手を掴んで残りの連中の足元に投げただろうし、冷人なら掴まれる前にフライングでもっと強く殴り飛ばしていただろう。
もっと言うなら、多人数を相手取る場合は相手の体が他の相手の障害になるように立ち回るべきなのだ。冷人らは当然それを知っていたが、あえて書文に教えなかったのは、書文を袋だたきに遭わせるためだ。
といってしまうとまるでイジメだが、無論手の込んだイジメを画策したわけでも、書文がそれにはまったわけでもない。これはつまり、書文が多人数相手の難易度を知るための、書文に知らしめるための武活なのである。
つまり、今書文がボコられているのは予定調和だということだ。
とは言えいつまでも殴らせているわけにはいかない。素人は容易に後頭部を殴るが、殴られる側は気楽には済まないのだから。
「うし、間引いてくる」
冷人が腕を回しながら前に出た。
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胸倉を捕まれたので殴ったら視界が塞がれて後頭部や背面をめった打ちにされ、気付いたら冷人が立っていて自分を殴っていた三人が地面に転がっていた。
それが書文の主観での出来事である。
なにが起こったのか、しばし理解が追い付かなかった。
そしてそれは書文の一撃で悶絶していた花瓶も同じようで、息を整えて身を起こした花瓶は路面に転がる自分の仲間を見て目を丸くした。書文も驚いた。
花瓶の主観では、今の一連の出来事はどう移っただろうか。
五人組が因縁を付けてきたかと思うと一番弱そうな男が相手で「一対四」だなどと言い放ち、その男を威嚇するつもりで胸倉を掴んだらなにやら腹に強い衝撃を受け、辛うじて起き上がったらそいつのまわりで仲間がぶっ倒れていた、という状況だ。
一番弱そうな男、この場合の武林書文が一瞬で四人に痛撃を与え、自分以外の三人は呆気なく気絶した。花瓶がそう勘違いしてしまうのも、混乱した頭ではまあ仕方が無いのかもしれない。冷静に考えれば、自分の手がいつまで襟元の布を掴んでいたのかを思い出せば、そんなはずはないと思い至れたのだろうが、
そんな思考に至るには、まず冷静さが足りなさすぎた。
他にもいろいろ足りなかったのだろうけれど。
花瓶はあからさまに鼻白んだが、勇気を振り絞ったのかなけなしのプライドを絞り出したのか、書文を睨みつけると吃りながら吐き捨てた。
「つ、ツラとせいふぅく、ぅおぼぉえたくらなぁあ!!」
これは書文にもわかった。面と制服覚えたからな、と、そう言ったのだろう。つまり書文の顔と着ている制服を覚えたから、今度報復してやるからな、と、そう脅迫しているのだろう。少なくとも書文はそう推測した。
「あれ、なんだよ、あいつ一人くらい書文にやらせようと思ってたのに」
呆気なく逃げ出した花瓶の背中を見遣り、冷人がつまらなそうに呟いた。燃児、飛鳥、刃月の三人も書文の側にやってきた。
「僕今の今までタコ殴りにあってたんだけど、他に言うことないの? 僕が目を付けられたみたいなんだけど、他に言うことないの?」
「筋力的には十分だと思うけど、やっぱり大人数を相手にするには経験が足りなかったね」
思案気に飛鳥。
「ああ。今回の武活は、実はそれを見る試金石のつもりでもあったのだ。山中以外に実践経験のない書文では、やはり足りなかったがな」
顎に手を当てて燃児。
「基本はずっとやってきたんだし、そういう意識は早い方がいいかと思って。武器を相手にするときは、また私が教えてあげる」
励ますように刃月。
「てか書文打たれ強いな。三人にめった打ちにされたのにピンピンしてるじゃん」
感心したように冷人。
「・・・いや、もういいや、うん、打たれ強さならね、排打功とかやってるし・・・」
何かを諦めたように、書文。
別に冷人らが薄情なわけではなく、これまで武術に関わってこなかった書文とは、微妙に常識が食い違っているだけだ。
「あ、じゃあ私これにサイン貰ってくるね」
どことなく釈然としない書文をよそに、刃月はハードカバーのような紙束を取り出した。
「なに、それ?」
「伝票」
「で、伝票?」
紙束には学校名や地域名、書文たちの名前(書文は書いた覚えはない。筆跡からすると冷人だろう)、本日の日付と天気、現在いるコンビニの支店名が書かれていた。『活動内容』と『依頼主署名』の欄が空欄になっていた。
活動内容の方は今まさに刃月が書き入れている。
「一応公的な活動だからな。こういうのがあるんだよ」
「へー・・・」
ちなみに一枚目が依頼先提出用、二枚目が所属団体控え、三枚目が本人控えとなっていて、四枚目以降はそのローテーション。一枚目と二枚目の裏がカーボン紙になっていて筆圧で写しが取れる。下敷きを使わないと結構な枚数が無駄になってしまうので注意が必要である。
刃月がコンビニに入って行った。依頼先署名、を貰い、依頼先提出用紙を提出に行くのだろう。
こうして書文のはじめての武活は終わった。スピード解決であったと言えるだろう。
結局書文は、負けただけだが。
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