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学生武林  作者: 灰色
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14/22

十三歩目【武活】

大分感覚が空いてしまいました、すみません。





わかりやすい人物紹介



僕――武林書文


オレ――大山冷人


俺――宝蔵院燃児


私――東郷刃月


あたし――植芝飛鳥


「武活って・・・・なに?」


 例によって、書文だけが知らない用語であるらしい。武林界隈の言葉だろうか。


 書文の疑問は、刃月が解消してくれた。


「武術を活かすから、武活。私たちみたいな武術学校の生徒って、将来は武侠か武術家か、あとは警官とか軍人とかでしょう? 武活は、その練習。インターンシップみたいなものかな」


「えっと・・・つまり、警察官のまね事ってこと?」


 冷人が苦笑した。


「言い方悪いな。まああってるけど」


「ここみたいに、世間から高い評価を貰ってる学校では、生徒の武活が許可されてるんだ。さすがに大きな危険とか事件は任せてもらえないけど」


 飛鳥の補足に、書文が重ねて質問した。


「僕弱いけど、いいの? 評価が高い学校の生徒、って言っても、僕の実力は間違いなく評価以下だよ?」


「それは心配ない。武活は複数人での取り組みが義務付けられているからな。武活参加メンバー、全員の実力をみて、教士が可否を出す。俺たちと書文、まず通るだろうさ」


 書文は弱いけど、冷人、燃児、飛鳥、刃月と一緒なら、できる。


「・・・・なんか、ネットゲームの寄生プレイみたいだね」


 思わず自虐的な意見が出てしまったが、仕方ないだろう。実力を自覚した上での、自己評価だ。


 しかしその自虐表現を、冷人はため息とともに笑い飛ばした。


「なに甘いこと言ってんだい書文クンは? オレたちが一緒に行って、活動すんのは主に書文だぜ?」


 飛鳥も満面に笑みを浮かべて冷人に続いた。


「そうでないと書文くんのレベルアップにならないしねー。パーティにいるだけで経験値貰えるほど甘くないよっ!」


「私たちは、サポートが主かな。頑張って戦うのは、書文だよ」


「刃月さんたちが、サポート・・・・?」


「うん。書文が戦う間、私たちがそこに邪魔が入らないようにする。毎日挑んでくる山中くんもいい経験だけど、もっと多様な人と戦った方がいいし」


「まあだからといって、全部が全部書文の為、ってわけじゃねーぞ? そこまでオレたちは優しかない。武活は内申上がるし、オレたちだってやって損はねーからな」


 冷人のノリとしては、普通の部活動に友人を誘うようなものだった。サッカー経験者が、高校の部活動にサッカー未経験者を誘う。その延長のようなものである。


「武活、か・・・・。うん、やってみようかな」


 武活にももちろん興味がある。誘ってくれた友達に応じたいとも思う。でもそれ以上に、書文は強くなりたかった。



     ●



 放課後、学校の敷地外を歩く同校生は、書文にとっては以外なほどに多かった。寮に入ってからの書文といえば、ずっと学校施設で修業鍛練に明け暮れていたから、外に出たのは以前本屋にいったとき以来だろう。


 買い食いやゲームセンターに立ち止まる他の生徒を尻目に、書文は武活の説明を受けていた。


「基本的に、武活は武術を嗜まない人からの依頼なの。刑事事件だったり専門的な対処が必要な場合は警察とか本業が動くけど、緊急性が少なくて、かつ根の浅い問題は私たちみたいな未熟者の研鑽に回る仕組み」


「あたしたちは、言っちゃえば素人だからね。払う報酬を低額で済んだり、頼む側も気楽なんだと思うよ。こうやって回ってくるのも、不良とかケンカ好きとかの相手くらいだし」


「今回は不良の駆除だな。武術経験のない人相手に、慣れたケンカではば効かせてる愚か者クン三、四人殴って終わり」


「武校が間近にあるというのに、この界隈には大小様々な不良グループが跋扈しているらしい。いや、武校の間近だからこそ、かな。こんな条件で存続できる、俺たちは強いんだ、そう誇示したいんだろう」


「・・・・・その一部が、人に迷惑を与えてるから懲らしめてくれ、ってこと?」


「そういうこと」


 武活のように公的機関を経由した場合、試合や立ち合いの場以外で人を殴っても、武侠が傷害罪に問われることはない。やりすぎなければ。


 現地住民や被害者からの陳情を警察が吟味し、緊急度は低くとも被害が継続している場合、今後も継続することが明らかである場合、今後被害のエスカレートが予想される場合に関して、このような特例がつく。


 もちろん申請や受理には複数の書類を要するし、これにかこつけて過剰な暴力が認められれば厳罰が待っている。武活内容はあくまでも、被害の縮小、沈静なのだ。


 しかし駆除とは、冷人も厳しい表現をする。武術をやっているからこそ、やっていない、心構えのない人に振るわれる暴力が許せないのだろう。許せなくとも、きっちり利用するあたり、ちゃっかりしている。


「場所はコンビニの前。毎日毎日、ろくに商品も買わずにたむろして、他の客に絡んだりしてる迷惑な連中だそうだ」


「いるんだね、そういう人って」


「いつの時代だっているさ。俺の聞いた噂では、この近辺にはスケバンも出るらしいぞ」


「スケバンって・・・・、それに、"出る"って・・・・」


 完全に珍獣扱いだ。確かに、目撃数では大差ないかもしれない。


「ところで、そのコンビニって?」


「うちの寮から、二番目に近いとこ」


「一番近いところは私たち武校生が利用するからね。ひとつ遠いところに現れるみたい」


「感覚的には肝試しみたいなものなんじゃない?」


「じゃあオレたちはお化けかよ」


 肝試しをしていたら本物のお化けが寄ってきた。まるで夏の怪談のようだ。書文はひとり苦笑した。


 苦笑であれ、笑うだけの余裕がある。今の書文は全くと言っていいほど緊張していなかった。初めての相手で、しかも複数人だと分かっているのに、書文の心中には恐怖も萎縮もない。


 それは、味方がいるから、ひとりじゃないから、そんな理由だけではないだろう。


 もっと多くのバリエーションと戦いたい。そういう欲求が、書文の興奮剤と為り得ているのだ。



     ●



 目的のコンビニエンスストアが近付いてきた。見える範囲にあるだけで、件の問題が目についた。出入口のすぐ横で四人の若者が座り込んでいる。


 スナック菓子のゴミやカップ麺のゴミやジュースのゴミを散らかして、ゲハゲハと大声で笑い、コンビニに入ろうとする人を威圧するようにちょっかいをかけている。その様子を見て、眉をひそめてコンビニを素通りする人も多い。近隣住民の迷惑にもなりうるし、営業の妨げになりそうだ。


「えっと、あの人たちが、件の不良、でいいのかな?」


 遠目にもガラの悪い四人を指差して、書文が言った。もしかしたらあの四人は別で、今日はたまたま違う人がたむろしている、という可能性も、決してゼロではない。


「あいつらだろうと別人だろうと、あの光景はまず注意するべきだろ」


 そう言うと、冷人はずかずかと四人の元へ歩を早めた。書文はそれに慌てて追随する。燃児も飛鳥も刃月も、数歩遅れて続いた。書文には乏しい行動力だ。


 武活には、教士の同行が要る場合と要らない場合がある。武活の申請を行った教士の裁量に任されることになるが、基準は距離や危険度を目安にする。今回の場合、教士の同行はない。問題行為がないかは、コンビニ店員や通行人が見てくれることになる。


 もし過剰な暴行などの事件が散発すれば、いずれ教士の同行が義務付けられるかもしれないが、少なくとも今回は書文たち、生徒たちだけの武活だ。


「よお兄ちゃんら。人の迷惑になってるって自覚ある?」


 真っ先に声をかけたのも、やはり冷人だった。


 近付いたことで連中の細かなパーソナリティが確認できた。書文はひとまず四人を『ホクロ』『ピアス』『茶髪』『花瓶』と覚えることにした。実に特徴を捉えている。


「はあ? おまぇないんかもんぐあのがぐろぁ!」


「いやゴメン、聞き取れねー」


「なむぇてぃぇんじぇねーずごりぁ!」


 恐らくは威嚇のたぐいだろうが、如何せん何を言っているのかまったくわからない。書文の理解力は、日本語と一部の外来語にしか及ばないのだ。


 連中の言葉(?)が理解出来ないのは、しかし書文だけではないようだ。書文の後ろで飛鳥と刃月が「何言ってるかわかる?」「え? あれって意味のある言葉のつもりなのかな?」などと話し合っている。確かに、同じ日本語というよりは音の羅列と言われた方がしっくりくるかもしれない。


 ただ問題は、連中同士ではあれで意思の疎通が滞りなく成立している、という点だ。もしかしたら独自の言語かもしれない。


 もしそうだとした場合、連中は連中で正当な理由があって、その理由に則ってこのような"迷惑行為"に及んでいるのかもしれない。


 なんてことはあるまい。書文は自分の考えを即時否定した。皮肉にもなりはしない。


「ケンンカぅってんぉかちぇめぇ!」


 ピアスが目を見開き、斜め下から冷人を見上げるように睨み上げる。それを冷人は両手を開いて「まあまあ」と制した。


「お前さんらと戦うのは、こっちのやつだから。な、書文」


 笑顔で促され、書文は未知の言語に多少おののきながらも前に出た。途端、四人の目が書文に向けられる。



「ぼ、僕が相手だ・・・・!」


 明確に敵意を向けられた。初めて試合をしたときとも違う、奇妙な害意が書文を包む。


 しかし、だからといって、怖くはない。刃月の方がよっぽど怖い。


「ぬぅぁめてぬぉんぬぉかぐぅぉぅるぅぁ!」


 書文の胸倉を掴みあげた花瓶の、みぞおちに立ち居から縦拳を打ち込んだ。しっかり腰溜めで打ったわけではないので威力で言えば高くはないが、鍛えてもいない男の油断した腹には十分重い一撃だった。


 この連中が問題の不良かわからない以上、少々フライングだが、花瓶には敵意があったし大声での恫喝もあった。胸倉を掴むという準暴力行為もあって、現在書文は武活中。書文が問題に問われることはないだろう。


 腹部の鈍痛に疼くまる花瓶の呻きが、書文の攻勢の狼煙である。




.

なんか僕、『コンビニの前でたむろする不良』ってシチュ好きなのかもしれません。特に思い入れはないはずなんですけど・・・・。

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