4.いえ、本当にそういうのはいいんで〜似たもの同士のタヴレンとミーウォン〜
「ネリアン様!大変です、アセリア様が体調を崩されたそうで、休憩室に担ぎ込まれたそうです!」
ある夜会の日。まだ私とアセリアの婚姻前、ミーウォンとタヴレンに付き纏われてうんざりしていた頃の話だ。
この頃にはもうあの二人の魂胆は私たちだけではなく、周囲の人間にも周知されていて、騙されて呼び出されたりすることはほぼ無くなっていた。とはいえこの日の話も最初は疑っていたのだが。
その時慌てて駆け込んできたのは、その日警備に就いていた我が侯爵家の家門のものだった。だからもしや、の可能性を考えてすぐに向かうことにしたのだ。
向かいながら呼びに来た家門のものに聞く。
「アセリアの様子はどうだった?」
「いえ、私は直接見たわけではなく、何人もの侍女が右往左往しているのを見て何事かと聞いたのです。そうしたらアセリア様が運び込まれたと…」
そこで足が止まった。
「アセリア本人を直接見ていないのか?」
その質問で、彼もハッとする。
「も、申し訳ございません!侍女たちが慌てふためいていて、しかもアセリア様のお名前が出たので私まで慌ててしまいました!」
なるほどな。アセリアの可能性は五分五分というところか。
「いや、お前の判断は間違っていない。複数の侍女まで慌てていたんだ、万が一ということはある。だがな。」
こちらも一応策を立てるか。
「お前は確か、まだ婚約者はいなかったよな?」
「え?ああはい。まだおりません。」
ならばまあ、良いか。
バン!大きな音を立てて扉が開かれた。
「アセリア!アセリア大丈夫か!」
ふふふ。さすがにガードの固いネリアン様も慌てたようね。
今回はタヴレンと一緒に綿密な計画を立てたの。
最近は騙し討ちで密室に連れ込もうとしてもすぐバレちゃうから。
事前にアセリア様のドレスの意匠を調べて色も形も似せたものを用意したの。
この格好で倒れて運び込まれたら!その時に"あれってアセリア様じゃない?"って言わせれば!
回り回ってアセリア様が倒れたってみんな思うじゃない?
わたくしってば頭も良いの。アセリア様なんかよりわたくしの方が絶対に侯爵夫人に相応しいわ!
え?アセリア様?あちらはあちらでね。ふふ。ふふふ。
被っていた毛布の隙間から確認したけれど、あの衣装はネリアン様で間違いないわ。
心配して近づいて来たところに、ほら!わたくしがあられもない姿で飛びつけば!
「うおーっっ!何を!何をするんだ!」
「逃げないで!もうこれで言い逃れできませんわよ!ネリアン様っ!」
「なるほどなぁ。そこまでするのか。恐ろしい女よのう。」
「ネリアン様!シンガルド様!助けてくださいよおー!」
「へ?」
間抜けな声を出したわたくしに残酷な声が降り注ぐ。
「よく見ろ。それはネリアンではない。」
えっ?ちょっ、ちょっ!
「やだ!アンタ誰よ!触んないで!!」
「なんだよそれ!急に抱きついて来たのはお前だろう!俺の貞操の危機だ!」
「ネ、ネリアンさまあ!わたくしをお助けくださいませえっ!」
「よく見ろ、俺もネリアンじゃないぞ。シンガルド・ヴァルハイン。侯爵家の次男坊でお前が陥れようと奮闘しているアセリアの兄だ。」
※※※
「貴方ねぇ、ちゃんと理解してますの?この状況を。」
「勿論だよ、アセリア。君はヴァルハイン家の姫なんだろう?お兄様方に大事に大事にされている。…君の夫となれば軍部での出世は約束されたようなものだ。」
「…なるほど。ですからこのような騙し討ちで無体を働こうと。」
ネリアンが薬を盛られて休憩室に運び込まれたと聞いたわたくしは慌ててその部屋に向かった。
またアイツらの仕業ではないかと疑ったのだが、目撃して教えてくれた令嬢が言うに、
「今日のネリアン様、モスグリーンのジャケットをお召しでしたでしょう?その運び込まれた方のジャケットもモスグリーンでしたの。ですから念のためお伝えしようと…。あの方達がお召し物まで考えるほど頭が回るとも思えないですし。」
令嬢に礼を言って確かめに行くことにした。
まあ、ネリアンの可能性は低そうだけど、万が一ということもあるから。
それに。
「衣装で誤認させて誘い込むまで来たら、もう潰せるでしょ。」
色んなことを考えながら彼と対峙していたが、だんだん面倒臭くなってきた。だから、
「無体だなんて、酷いなあ。君の婚約者が僕の婚約者に襲いかかったんだ。だから僕たちは僕たちで慰め合おうと…」
まっ、いっかぁ。
「トゥッ!」
グゲッ!変な音が聞こえたけどまあ仕方ないわね。こんな儚げな女性に無体を働こうとしたのだもの。
お兄様たちに叩き込まれた護身術を披露するまでもなく、鳩尾に決めた一発でタヴレンは再起不能になった。
「なぁにが儚げだ。お前のどこにそんな…」
「あら、お兄さま。シンガルド兄様ならともかく、普段から書類と睨めっこのリンガルド兄様なら一発で…」
「分かった、分かったから!とにかく警備を呼ぼう。」
こうして彼らの杜撰な計画は破綻した。そして…
「責任をとってお父上は侯爵位を返上したそうだ。兄である嫡男はタヴレンが継ぐはずだった伯爵位を継ぎ、タヴレンは…。」
※※※
「あれだけのことをしたのに、溺愛するお父上の尽力で貴族に残れたというのにね。」
まあどうにか男爵位を手に入れた、という程度だけど。
「ミーウォンの実家は悲惨だったよな。いやでもあれは仕方がないか。」
今回の件があまりにも悪質で調査が入ったのだが、ミーウォンの実家は家族揃って略奪を後押ししていたことが判明した。
兄が知り合いのお針子からわたくしとネリアンのその日の衣装について言葉巧みに聞き出し、母親が中古のドレスショップで買ったものを早着替えできるように改造し。
当日は別のドレスで夜会に出席し、いざその時にさっと着替えて事に及んだのだ。
ああそうそう。父親は野次馬役で。
「オイ、アノドレスノレイジョウハアセリアサマジャナイカ」
という役だった。家族内での立ち位置が伺い知れる配役だな。
ここまで一家総出だとは思っていなかったけれど、まとめて片付けられたのは幸いだったわ。
って、もうずいぶん昔の事になってしまったわ。だというのに本当にあの人たちは!
「あんな事があってもまだ我が家と対等なつもりなんだもの。現実逃避なのか、認知の歪みなのか、あそこまでくると腹が立つより恐怖が勝っちゃうわ。」
「まあ、流石に今回の件で爵位は維持できなくなるだろう。…そうじゃないと我が侯爵家としても検討しなければならないことが出てくるからな。」




