3.いえ、本当にそういうのはいいんで〜タヴレンの言い訳は続く〜
「いや、君の息子さんの事を少し勘違いしていてね、うちの妻が。」
アセリアの眉が上がる。
「少し勘違い?あんなに大きな声でボロクソに貶した癖に?」
「いや、まあ彼女は心配な気持ちを表すのが少し大きめだっただけで。」
「あらそうなの。じゃあそういえば良いんじゃないかしら。お叱りを受ける度に。」
途端に狼狽える。そりゃあそうだろう。あの日のあの女の失態はもうどうしようもないところまできている。
だからタヴレンは下げたくない頭を下げざるを得なかったのだ。
我が家に取りなしを頼むために。
「いや、そんな意地悪を言わないでくれよ。僕たちの仲じゃないか。」
「どんな仲なのかしら。それは貴方たちが20年前に仕掛けた悪事の事と関係ある?」
「っ、そんな昔の話、お互い水に流そうではないか。」
「水に流す?わたくしたちは被害者よ?それでも当時ちゃんと罰を受けたからと見逃していたのに。貴方の奥様はいまだにわたくしを陥れるために全力投球なさってるわよ?」
「ああ。アセリアの言う通りだ。君の奥方の嫌がらせは常軌を逸してるぞ。それを謝罪ならともかく、あーなんだっけ?"私自身が頭を下げに来てやった"だっけ?」
「下げられてもそれほど価値のない頭を、下げてさえいないのに、何をどうして欲しいのかしら。我が家も甘く見られたものね。」
「とにかく君が"私自身がわざわざ頭を下げに来た"と言っていたことは覚えておくよ。ん?でも何に対してのことなんだろうか。いまいち分からないなあ。…ああそうだ!君の兄上に相談してみよう!」
さっと青ざめたようだが、我が家もそろそろこのまま見過ごせない。それなりの制裁が必要であろう。
「ドゥーイー男爵がお帰りですよ。お見送りして。」
まあ、この後なかなか帰ってくれずに苦労する事になるのだが。
夜、寝室で語り合う。
「本当にあの夫婦は変わらないわね。あの二人のやらかしのせいでご実家は随分ダメージを受けただろうに。」
「ああ。しかも本人たちまで男爵に堕とされたのになあ。」
※※※
彼らは12歳の時に婚約した。
それなりに見目の良い侯爵子息、将来は伯爵になる予定の男に、当時から見栄っ張りでプライドの高かったミーウォンは大満足だったようだ。
彼女の実家は男爵だったから、玉の輿といって良いだろう。
だが、大勢の同年代が通う学園に入る事で彼女は"上には上がいる"ことに気づいてしまった。
目をつけられたのはわたくしたち。
ミーウォンは夫を狙った。今とほぼ変わらない手口でわたくしに嫌がらせをして、意地悪令嬢のレッテルを貼ろうとした。
唆されたタヴレンはわたくしを。意地悪令嬢として孤立したわたくしを慰めて寝技に持ち込む予定だったらしい。
だがわたくしたちは政略結婚でもあったが、5歳の時からずっと一緒に過ごしている幼馴染でもある。
彼ら如きの浅知恵に揺るがされることは無かったが、ある日彼らは超えてはならない一線を超えて来たのだ。




