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未来受信機  作者: 星降る夜


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9/18

9 エージェント瑠璃


 次の日塾に行くと高津君に声を掛けられた。


 「瑠璃ちゃん。終わったら塾の入り口で待ってて、大地と合流するから」

 「えっ、うん」


 教室に入ると一番後ろの隅に腰かける。体験だけの私は今日が最終日。皆さんの邪魔はしたくなかった。塾での後ろの席は人気がない。皆、前の席を陣取っている。だから隣に座る気配がして顔をあげた。


 眼鏡をかけたおさげの女の子と目が合う。会釈すると彼女が話しかけてきた。


 「あなた、田中さんよね」

 「あ、はいそうですが」


 誰かしら? 知っている人だっけ?


 「高津君と親しいの?」


 えっ? 高津君のこと?


 「あ、別に親しくはないです」


 何か頼まれるのかな?


 「でも、さっき廊下で話していたわよね」

 「あ、学校でクラスが一緒なので」


 入り口で話しているのを見られたんだ。やっぱり高津君は目立つんだ。


 「あの、それが何か……」

 「私、小林美恵子。よろしくね」

 

 手を差し出されて、思わず握手した。


 たぶん高津君と親しくなりたいんだわ。私じゃなくて直接言えばいいのに。


 「高津君は人気があるんですか」

 「あらやだ、知らないの? いつも彼は、模試でトップよ。全国でも五本の指に入るんですもの、憧れるわ」

 「ぜ、全国で五本の指に……」

 「そうよ。あなたはどのくらいなの?」


 きっと全国で後ろから五本の指に入るかも……。とはいえなかった。


 「あ、あまり勉強は得意じゃなくて……」

 「良かった、高津君とは釣り合わないわね」


 それだけ言うと、小林さんは安心したように笑った。カバンを持つと、前の方の席に移っていった。


 『はい、おっしゃる通りです。って言うか、最初からそのつもりはないので、ご安心ください』と言いたかったけど、何も言えずに黙ってしまった。


 ふぅ~、とため息が出た。


 場違いだわ。塾なんてやっぱり無理だわ。今日が最後で良かった。


 ノートだけは真面目に取ったけれど、何を書いているのか半分も分からなかった。授業が終わると、先生に呼ばれて入学案内書をもらう。感想を聞かれたから、曖昧な笑顔を返しておいた。


 「申し込み書は明日持ってきてくれればいいわ」と、先生はニッコリ笑う。


 「母と相談します」


 私はそう言ったけど、もう、先生にお目にかかることはないと思う。


 塾には縁がなかった。


 塾の出入り口では高津君と河野君が私を待っていた。


 周りをすばやく確認する。誰も見ていないわよね?


 高津君が「おや?」っていう顔をするけど、どこで誰が見ているかわからない。


 「知らんぷりして、ついてきて」


 すれ違いざまに小声で言う。


 「エージェント瑠璃か……?」


 河野君が後ろで何かつぶやいたけど、気にしてなんかいられない。私にも色々あるんだからね。


 駅前から移動してこの間の公園の方に向かった。


 「さすが瑠璃、エージェントが身についているな」

 「いや、本当だ。スパイ映画みたいだ」

 

 河野君と高津君が感心したように言う。


 高津君は悪くない。そう分かっているのに、さっきの言葉が頭から離れなかった。私が黙っていると河野君が私のカバンを引っ張った。


 「瑠璃?」

 「瑠璃ちゃん? どうかした?」


 2人に聞かれて思い出した。あの機械を持ってきたんだ。それに2人には罪はない。悪いことは何もしていないし。起きてさえいないんだもの。いけないいけない。反省ね。


 「なんでもないの。持ってきたよ」


 気持ちを切り替えてカバンからあの黒い携帯を取り出した。


 「機械なんて言うから大きなものを想像していたけど小さいな」


 高津君が言えば河野君も、


 「本当だ、手のひらサイズじゃないか」


 と言って自分の手に取った。高津君と交互に見ながら、「スイッチあるのか?」「電源はどこだ?」なんて言いながらチェックしていく。


 「瑠璃、これどこが光るんだ?」

 「表のつるつるしたところにメッセージが出るの」

 「表? モニター画面に見えないな」


 高津君が不思議そうに撫でていた。


 「こんなのは見たことがないな。今度何かメッセージが出たら教えて欲しい」

 「うん」


 私が頷くと、黒い機械を私の手に乗せてくれた。その瞬間だった。


 真っ黒だった表面に淡い光が走る。


 メッセージが浮き出てくる。


 『ロジ カツアゲ チユウガクセイ』


 3人で顔を見合わせた。


 「これか、メッセージは」


 河野君の言葉に頷いた。


 「これじゃあ、日時も、場所も、わからないな」


 高津君が冷静に言う。


 「瑠璃は今までどうしていたんだ?」

 「えっ? 私は何となく、動いていた」


 あまり気にせず。気になったからお父さんに聞いたり、川に行ったりしたんだ。日時なんて考えなかったかも。


 高津君は思考を巡らせるように人差し指をたてて頬につけた。シンキングポーズね。しばらくして高津君が顔をあげた。


 どんないい考えが浮かんだのかしら。期待を込めた眼差しをむけると、


 「つまり、瑠璃ちゃんの思った通りに行動すればいいんだ」

 「はいっ……?」


 熟考した答えがそれなの……。


 全国で五本の指に入る人が人任せって……。


 「そうだな。瑠璃はどう思う?」

 「えっ?」


 結局、私が考えるの?


 2人とも役に立たないじゃない!


 もうっ!


 あっ……待って。


 路地って、この近くにもあったような。


 公園の近くの路地よ、きっと!


 私は、思いついたまま口にした。



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