7 用事って?
「人が多いな」
高津君が呟く。今日は花火があるからたくさんの人が集まってきているんだわ。どうしよう。
「田中、花火行くだろう?」
河野君に聞かれて大きく頷いた。河野君の顔が輝く。
「大変なの!」
「んっ? 何がだ?」
河野君が不思議そうな顔をする。
「花火よ!」
「花火か?」
「大地待てよ。田中は話があるって言ってたんだろう。まず聞いてみないと」
「あっちで話そう」
高津君がそう言って連れてきてくれたのは、少し高台にある公園だった。3人でベンチに座る。
「話って、花火のこと?」
私は頷くと暴発があるというメッセージを見たことを話した。
「でもさ、田中の言う機械って何なんだ?」
「それに、今まで、当たったからと言って今回も当たるとは限らないな」
河野君も、高津君もしばらく考え込んだ。
「大地、とりあえずお父さんに言った方がいい」
「そうだよな。花火の暴発なんて、事件レベルだぞ」
河野君は高津君の言葉に頷くとポケットから携帯を取り出した。どうして河野君がお父さんに電話するんだろう?
河野君のお父さんは頼りになるのかな?
パンツいっちょの我が家のお父さんとは違うんだわ。
宅急便の受け取りだって、頼りにならないもの。「今、パンツしかはいていないよ~瑠璃頼むっ!」というお父さんの顔が浮かんだ。
河野君が電話している間に私は高津君からさらに質問された。
「その空き家って、田中の家の近くなのか」
私は頷く。
「取り壊しが決まっているなら、もう近づかない方がいいよ」
「そうだよね。でもあの機械はどうしよう……」
「様子見てみよう。今までも、危険というよりは危険を知らせてくれたわけだから」
電話を片手に河野君がこちらを見る。
「田中、父さんが3番目って何の3番目かわかるかって」
私が首を振ると、河野君は再び電話に耳を当てた。
「父さん。信じなくてもいいよ。僕は伝えたからあとは任せたよ」
河野君はそう言うと電話を切る。頬を膨らませながら面白くなさそうに、携帯をポケットにしまった。
「どうだった?」
「いたずらじゃないだろうなって」
ああ、確かにそうなるよね。信じてもらう方が無理がある。
「日頃の行いがこういう時に出るな」
高津君がちょっとからかうように河野君に言った。
「でも、それじゃあどうしたらいいの?」
なんかまたあの黒い機械に怒られそうな気がしてきた。
「警察のつてはないのか?」
高津君の言葉に耳を疑う。
警察のつてが小学生にあるわけないよね? お父さんが警察官ならまだしも。河野君は首を振る。
「医者のつてならある」
河野君はそう言って、高津君を真っ直ぐに見つめた。
「高津君のお父さんはお医者様なの?」
「ああ」
高津君は口角を少し上げて苦笑した。そんなことを言っている場合じゃないのに。
「いたずらだって、爆弾仕掛けたっていえば警察は動くでしょう?」
「後で、お縄だ」
河野君は両手を揃えて前に突き出した。
「それに、花火は中止になる」
確かに。皆が楽しみにしているのに。
「3番目だけよ。それだけ外せばいいのに……」
「じいちゃんに頼むか」
「警察官だったの?」
「じいちゃんの友達がな。もう引退しているけど顔がきくかもしれない」
河野君はまた携帯を取り出して電話をかけた。やっぱり、携帯は便利ね。
「じいちゃん。お願いがあるんだ。聞いてくれたら肩たたき100回プレゼントする。しかも3人分だ」
いつの間にか私たちの分も勘定に入れられている。聞いていないんですけど。思わず高津君と顔を見合わせた。
「いいのか? やったー!」
河野君はそう言うと親指を立てて私達に向けた。
まだお願いの内容を言っていないのにお祖父ちゃん安請け合いしちゃって大丈夫なの?
私の心配をよそに河野君はどんどんと事情を説明していく。「信用ある筋からの情報だ」なんて言ってるけど私のこと?
河野君と高津君には信じてもらえているんだ。そう思うとちょっと胸が熱くなった。
電話を切った河野君は、さっきとは違って頬が上気していた。
「さすが、じいちゃんだ。『それを聞いていたのに何もしないなんて男が廃る。何かあったら困るからお前たちは安全確保してろ』って言ってたぞ。安心しろ、もう大丈夫だ」
「さすがだな。今頃は警視総監でも動かしているんじゃないか?」
高津君の言葉にさすがにそれはないと思った。でも気になる。
「ねえ、河野君のお祖父ちゃんって、本当にそんなにすごいの?」
私が言うと2人とも頷いた。
「じいちゃんの、友達がな」
河野君はそう言うとニカッと笑う。
「花火見に行こう」
高津君の掛け声で、3人で仲良く花火見物となった。
川原へ向かう途中に何台もの消防車がすれ違う。いつもより多い気がする。警察の特別車両も止まっていた。
「おい幸助、あれ、爆弾処理班の車両じゃないか! すげぇ」
「不発弾でも出たんじゃないか?」
高津君、いくら何でも、このタイミングで出ないよね。不発弾は。
「河野君のお祖父ちゃんが呼んだの?」
私の言葉に、今思い出した! みたいに驚くのは止めてね。
「そうか、じいちゃんか! じじいなのに素早いな」
その時河野君の携帯が鳴った。
「誰だ? 知らない番号だ」
「詐欺じゃない?」
お母さんがいつも言っている。知らない番号には出たらだめだって。
「大地、出ない方がいいよ」
高津君の言葉も聞かずに、河野君が疑わしげに電話に出る。
しばらく話してから「そうです。3番目と言ってました。花火の台なのか、順番なのかはわからないです」
河野君はそう言って電話を切った。それを聞いて胸をなでおろす。
詐欺じゃなかった。調べているんだわ。
「もう大丈夫だ」
「ああ」
河野君の言葉に高津君も頷いた。
良かった。ほっとしたら思い出したことがある。
「河野君、用事があるんじゃなかった?」
「あっ? 用事?」
「大地、忙しいなら、先に帰っていいぞ。2人で見るから」
高津君が言ったその時、後ろから声がした。
「高津君、河野君も」
振り向けば、浴衣姿の佐藤さんと鈴木さんがにこやかに立っていた。
「花火に来てくれたのね。4人で回りましょうよ」
そう言って佐藤さんが高津君の腕を取った。さりげないしぐさが慣れている。仲良しなんだわ。今4人って言ったけど私は入っていないのね。
当たり前か……。
私が入っていないのは、いつものことだ。
黒い機械のメッセージは、もう、済んだもの。きっとこれでお役御免よね。
「私、用事があるから」
私はそう言って後ろを向くと足早にそこを立ち去った。
……つもりだった。




