6 ハナビ 3バンメ?
「瑠璃、起きなさい朝よ」
昨日はなかなか寝付けなかった。黒い機械に出てきたメッセージが気になったから。お父さんに聞いてみようかな。眠たい目をこすりながら下へ降りていく。
「お父さんは?」
「もう出かけたわよ」
「お母さんは、今日は休みなの?」
「そうよ、明日は夜勤だからね」
「明日は塾の帰りにお友達と用があるんだ」
「お父さんから聞いたわ。花火見に行くんでしょう?」
えっ? そうなの? 聞いていないけど……。
「あっ、たぶんそうかな」
「何人で行くのかしら」
図書館で話していた、佐藤さんや鈴木さんを思い出した。私は一緒じゃないけど嘘でもないか。
「6人くらいかな? クラスの友達と行くから」
お母さんには適当に話を合わせた。私は花火に行くかなんてわからない。
ただ、河野君と2人だけで行くことはないと思った。誘われていないし、あの時河野君は先約があるって言ってたから。
「ふふ、良かったわね。お友達沢山いて」
お母さんはそれ以上何も聞かずにテレビのスイッチを入れた。朝のドラマの時間だ。
河野君はどうやらお父さんに、花火に行くと言ったみたいだ。
確か、河野君は用事があるって言ってたはずだけど……。
お父さんは、河野君が花火に行くのを、私も一緒に行くって勘違いしたのかな? まっいいか。
それよりも、花火! 思い出したわ。暴発するのよ!
「お母さん、花火って危険じゃない?」
「危険?」
お母さんの袖を引っ張るとちょっと嫌そうにこちらを向く。「今いいところなのよ」と呟いている。こっちはそれどころじゃないのに……。
「花火って暴発するんでしょう」
「瑠璃は怖がりね、暴発なんてそう簡単にはしないわよ」
「そうなの? でも、もし暴発したら?」
お母さんは少し考えてからにっこりと笑う。
「見ている人は安全だから。大丈夫よ」
「火をつける人が危ないの?」
「最近は自動だったりコンピュータ制御されているから安心なのよ」
「ほんと?」
「はいはい、もういいでしょう? それよりちゃんと塾に行ってね。もう本当に心配性なんだから」
そうだった。今日は塾の初日だ。気が重いはずなのに、私の頭の中には花火がぐるぐる回っている。暴発するんだろうか? するよね、絶対にね。今までの流れから見ればそうなるんだ。どうしよう。
3番目って何だろう。
3発目の花火? 3つ目の打ち上げ台?
いくら考えてもわからない。
ドキドキしながら塾に行くと体験は私を含めて6人だった。
皆学校も違うし知らない人ばかりで、少し気が楽だった。
特進クラスが廊下の一番奥にあると聞いた。私が受付で手続きをしていると後ろから声がかかる。
「田中、よろしく」
振り向くと高津君が手をあげていた。急いで会釈する。高津君も同じ塾だったんだ。河野君のお友達もいるって言ってたし、皆ここに通っているのかな?
まさか佐藤さんとかも?
思わず周りを見回したけど他に知り合いの姿はなかったから、ほっと胸をなでおろした。
高津君は廊下を奥に向かって進んでいくから特進クラスみたいだ。
やっぱり頭いいんだわ。凄いわ。
塾に来ると少し頭が切り替わった。
花火の件は、今回ばかりはどうにもできないわ。私には無理。
お巡りさんに言ったところで、いたずらだと思われるのがおちだ。それに、お母さんの話なら、そんなに被害はなさそうだもの。
悶々としたものを抱えてその日は過ぎていった。
机の上の黒い機械も大人しくしていてくれた。きっと大丈夫。私は自分に言い聞かせる。
朝起きると何気なく、黒い機械を確認してしまった。機械が明るくなりまたメッセージが浮かんだ。
『ボウハツ フショウシャ タスウ』
はいっ!?
まるで私が動かないと思っているのを見透かされたようで、背筋が寒くなった。
まずいまずい。どうしよう……。
どうすることもできず、塾に行った。授業はまったく頭に入らなかった。
誰かに話さないと不安でたまらなかったから、帰りに塾の玄関で河野君を見つけると、思わず駆け寄った。
「話があるの」
私がぎゅうっと河野君の手を握ると河野君は驚いたように目を見開く。
「た、田中。お前、せ、積極的だな」
はい?
河野君は何を言ってるの。今はそれどころじゃないのに。他に知り合いと言えば……。
そうだ。
高津君だわ。
特進クラスよ、しかも、学級委員だし……。
「ごめん、人、間違えた」
「はぁっ? 何言ってんだ?」
高津君が向こうから来るのが見える。
「高津君!」
私が大きな声で呼ぶと「あちゃ~」と、河野君が頭に手をやった。
「待て、話聞くから。幸助、来るな」
「幸助? 高津君のこと?」
私の声に気がついた高津君が、向こうから走り寄ってきた。
「大地、お前、こんなところでどうしたんだ。ここは邪魔になるから、行こう」
どこまでも冷静な高津君が頼もしく見えた。




