5 図書館で……。
夏休みの図書館は学生がいっぱいだ。
皆宿題をしに来ているのかしら……。
そんなことを考えながら、本棚の陰になっている目立たない席へ座り、大好きな二年間の休暇を手に取った。この本の何が好きって、分厚いところがいいのよね。それに、無人島なんてワクワクしかないものね。
いつの間にか本に夢中になっていた。目立たないところっていうのは、入ってきた人からも見えないのだと気がつかなかった。近くで女子の声が聞こえた。
「ねえ、田中さんてさ、雰囲気暗いよね」
「わかる、なんかいつも、うつ向いていて、きもいよね」
「そうそう、返事もしどろもどろだし。この間の帰りさ、面白かったよね」
「みんなの荷物持って、あの電信柱ってどれ?なんて聞いちゃってさ」
田中さん……私のこと?
胸の奥がちくりと痛んだ。
聞かなかったことにしたいのに、耳だけが勝手に声を拾ってしまう。
顔をあげて声がする方を見れば、同じクラスの女子が4人で机を囲んでいた。間の悪いことにそこへ河野君が入ってきた。
「私語厳禁。って読めないのか、お前ら」
机に拳固を一つドンと叩いた。め、目立つよ! そのあとまさかこっちに来ないよね。私は慌てて本をたてるとその陰に隠れた。
「河野君、火曜日に川原で花火があるんだけど良かったら一緒に行かない?」
佐藤さんの声が聞こえた。私はひたすら小さくなる。どうかこっちに気がつきませんように。願わくば河野君もあっちへ行ってくれると助かるんだけど。
「悪いな、先約があるんで」
河野君は辺りを見回すと、本棚の奥へまっすぐ歩いてきた。
まずいっ! 私は慌てて顔を伏せた。
「おいっ」
河野君の声が聞こえたと思っていたら目の前の本が取り上げられた。
「「田中さん!」」
悲鳴に近いような、佐藤さんと、鈴木さんの声がかぶった。仲いいね。ってか気まずい……。私は軽く会釈する。
「ほら、行くぞ」
河野君はそう言うと素早く私の手を取った。ひきつった笑顔が顔に張り付く。私は気まずい雰囲気の中、河野君に手を引かれて図書館を後にした。
あっ、本机の上に置きっぱなしだったけど……司書さん、ごめんなさい。
夏休みが終わるころには皆、忘れていてくれるかしら……。
希望的観測を胸に秘めたまま……。
「お前さ、もう少し分かりやすいところに座れ」
私もそれは思った。最初から目立つところにいれば、佐藤さん達もあんな話をしなかったかもしれないもの。
「うん、河野君は図書館に用事あったんじゃないの?」
「ああ、ある」
「じゃあ、私、帰るからさ、行っておいでよ」
河野君は相変わらず私の手を掴んだままだ。男の子と手をつなぐなんて幼稚園以来で気まずい。
「いや、お前に用事がある」
「私に?」
「ああ、火曜日に言う」
「火曜日?」
「明後日だ。お前、何をしている?」
「あっ、私、明日から3日間塾の体験なの」
お母さん、ナイスタイミング。塾の体験ありがとう。これ以上河野君と一緒は無理よ。男の子は苦手だもの。
「塾って駅前のビルに入っているところか?」
「うん、たぶん」
「幸助と同じか……」
幸助? 誰かしら……。
「わかった。迎えに行く。火曜日、親に言っとけよ。あっ、俺から言うか」
えっ? 俺から言うって、どうやって?
「よし、これからお前の家で勉強な」
「ちょっと、待って。お父さんいるから」
「ちょうどいいな、ご挨拶だ」
まってよ! 挨拶だなんて。何を考えているのよ。私は手をつないだまま、連行された。すれ違う人がほほえまし気に見ているのは気のせいだと思いたい。
カップルじゃありませんから。顔に書きたい!
いい加減手を離してよ~
仲良く(一見だけど)手をつないで帰宅した私達。
お昼間から、リビングでパンツ一丁にうちわ姿。野球中継を見ているお父さんは、一瞬目を白黒させたけど、河野君の見た目とは違う礼儀正しい言葉遣いに、慌てて挨拶をしていた。
お父さん、大人なんだからしっかりしてね。
同じチームのファンだということで盛り上がり、いつの間にか2人で夕方までしっかりと野球中継を見ていた。
お~い、勉強はどこへ行ったの、河野君。
柿の種や、麦茶などを用意しながら、簡単なきゅうりとちくわも切ってあげた。
河野君はうまいうまいって食べてくれたけど、いいんだろうか、そんなもので。ケーキなんてないからね。
河野君が帰った後は、お父さんが「男の子もいいな」なんて言いながら冷蔵庫からビールを出すと、早速、プッシューと開けていた。
恐るべし、河野君!
そして、その日の夜。机の上で、黒い機械が、また明るくなった。
あっ、いけない、捨てるのをすっかり忘れていた。
今度は何かしら……。
見たくないけど、見ても後悔、見なくても後悔、よね。私は諦めて画面をそっと覗いた。そこに出ていたのは。
『ハナビ 3バンメ ボウハツ』
……3番目?
3番目って何。
……。
無理だわ~~~!!!
心の中で絶叫した。




