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未来受信機  作者: 星降る夜


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3/16

3 勝利の女神?


 あれ以来、謎の機械は静かだった。何度見ても、もう明るくなったりはしなかった。


 昨日の『ハナマルヒャクテン』って何だったんだろう。気になる。


 リビングでお父さんを待っていた。


 夏休み最初の土曜日。休日だから、お父さんはまだ眠そうだった。


 「おはよう、お父さん、ねぇ、花丸百点って知っている?」


 大きなあくびをしながらお父さんがリビングのソファーに座る。


 「おっ、瑠璃、100点取ったのか? 凄いな。見せてみろ」


 スマホをテーブルに置くとお父さんがこちらを向いた。


 「違うの、他の意味はないかなって」

 「花丸百点の他の意味か?」

 「うん」


 私は期待を込めて頷いた。


 「花丸百点なんて他に聞いたことないなぁ」


 頭をポリポリかきながら、お父さんは携帯を開くと検索を始めた。


 「おっ、あるぞ」


 しばらくするとお父さんが嬉しそうに呟く。


 「えっ、なになに?」


 お父さんの携帯を脇から覗くと競馬の画面になっている。


 え? 競馬? ただ競馬見たかっただけじゃないの?


 「馬の名前だ。今日のレースに出るぞ。第3レースか……」


 ホントかしら? お母さんに見つかった時の言い訳だわ。


 お父さんはもうレースの画面から目を離さなかった。「勝利の女神の言うとおりにするか」なんてぶつぶつ言っている。


 勝利の女神って誰よ? 本当に、お父さんは役に立たなかった。


 私はため息を一つつくとお母さんに目をやる。朝食の用意で忙しそうだわ。私の視線を感じたのか突然こちらにやってきた。


 「瑠璃、塾の体験に申し込んでおいたから」


 お母さんがトーストにバターを塗りながら何気ないことのように言う。


 「えっ、塾行くの?」


 そういえば机の上にチラシがあった。あれはお母さんが置いたのね。


 「あなた、成績良くないし。花丸なんてもらったことないじゃない」


 自由な夏休みに塾行くなんて……。


 「夏期講習は高いだろう」


 スマホから顔を上げてお父さんが助け舟を出してくれた。


 「そうなのよ。高かったから、3日だけの体験なのよ」


 お母さんが申し訳なさそうに言う。


 3日だけ? なら我慢できるわ。お友達出来たのとか色々聞かれることもないよね。


 「いつ行くの?」

 「来週の月曜日からよ。ごめんね。体験だけで」


 私は少しだけ残念そうな顔をして頷いた。


 「お母さん、無理しなくていいよ。ありがとう」


 本当は助かった。塾なんてイヤだものね。


 「瑠璃はいい子だ。わからないことはお父さんが教える。何でも聞け」

 「うん」


 お父さんは大きな手で私の頭を撫でた。


 へへぇ、まっいいか。3日間の我慢。

 ちょっと呆れた顔のお母さんは見なかったことにしよう。


 部屋に戻るときに「あなた、適当なことばかり言って……」とお母さんがお父さんに何か言っていた。


 我が家ではお父さんはお母さんに敵わない。


 腕力も、脚力も、経済力だって、お酒の量まで負けていた。


 私はお父さんに似ているらしい……。


 その日の夜、お父さんが上機嫌で私に言う。


 「瑠璃、当たったぞ」

 「当たったの? 何が?」

 「ハナマルヒャクテンだ。競馬だよ」


 ハナマルヒャクテンが当たったの? 


 また当たるなんて……。偶然?


 得体の知れないものを感じて少し背筋が寒くなった。


 ううん、違うわ。あの機械のせいじゃない。


 きっと、偶然なのよ。心に浮かんだ疑念をそっと、胸にしまう。


 それに良いことばかりだしね。悪いことは起きていないもの。


 キッチンにいたお母さんがお父さんの声を聞きつけて飛んできた。


 「あら、あなた、いくら当たったの?」


 お父さんはしまったというような顔をして私を見る。


 私は小さく首を振った。


 もう、お母さんに聞かれちゃったんだもの。


 「あっ、さ、30万……」

 「あなた、無駄遣いはダメよ。よく考えなきゃ」

 「夏休み、どこか行けるかな?」

 「温泉が良いぞ」

 「温泉ねぇ」


 お母さんの声がちょっと乗り気だ。これはいけるかも。


 部屋に戻ると机の上の機械の下に本を重ねて、もう一段高くした。


 ご利益あるかもしれない。横にある塾のチラシを伏せた。これは不吉よね。


 その時また機械が明るくなる。


 今度はなんだろう?


 『マイゴ リキ カワ』


 それを目にした途端、心臓がドクンと跳ねた。


 ……迷子?


 リキ?


 川?


 迷子が川にいるの?


 まさか……ね……。


 でも、もし本当だったら?


 私はそこまで考えると、塾のチラシを機械に被せた。


 もう、見ない。


 見ていないから。



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