2 花丸百点?
終業式の今日は皆、浮足立っていて、クラスがざわざわしていた。
皆で夏休みはどこに行くか話している。誰かに話しかけてもらえるはずもなく、自分から話しかける勇気もなかった。
「高津君、一緒に帰らない?」
佐藤さんが教室を出ていこうとした高津君に声を掛けていた。2人で学級委員をやっているからよく話しているのを見かけていた。
「ああ」
短く高津君が答えると佐藤さんは鈴木さんに声を掛けて3人で教室を出ていった。
私が荷物をまとめている間に、教室は少しずつ静かになっていった。
人の少なくなった教室の窓から外を何気なく眺めると、校庭を歩いていく3人が目に入る。
まさか、あのじゃんけんをやるのかしら。
思わず、3人を目で追ってしまう。高津君は背が高いから遠くからでもよく見えた。
「高津君は男の子だし今日は荷物も少ないから、昨日の私みたいにはならないよね」
呟いていると河野君が隣で声を掛けてきた。
「お前、何言ってんだ?」
えっ!?
誰に言っているのかと後ろを振り返るけど誰もいなかった。
私に!?
突然話しかけられて、なんて言っていいのかわからない。それに男子は苦手なの。
私は一気に顔が火照り、あっという間に耳まで赤くなったのがわかった。
「あっ、あのぉ~帰らなきゃ」
赤くなったの、見られてないよね。うつむきながら言うと、カバンを肩にかけなおした。
「俺、昨日、見ていたんだ。お前、荷物全部持っていただろう?」
河野君の言葉に心臓がはねる。
「ゲ、ゲームだから」
「んなわけないだろう。嫌なら嫌って言えよ」
私はその言葉を背に逃げるように教室を後にした。
河野君の言葉が胸に刺さった。
河野君の言うことは正しい。でも出来ない。出来るはずがない。そのあと気まずいに決まっているし、もう2度と声なんかかけてもらえない。
クラスでグループ分けする時だって、入れてもらえなくなる。
どうして、先生はいつも「お友達と一緒になりましょう」と言うんだろう?
気づけば逃げるように家に帰っていた。
途中、あの空き家の前に数人の人がいた。
暑いのに黒い背広にサングラスなんて大変ね。映画やドラマに出てくる人みたいだわ。
なんだろう? 撮影があったりして、まさかね。
少し気になった。
「ただいまぁ」
玄関には鍵がかかっていなかった。
夜勤明けのお母さんがもう起きている。まだお昼過ぎなのに、めずらしい。
「瑠璃、おかえり。空き家の前に人がいなかった?」
洗面所で手を洗っているとお母さんが覗いてくる。
「あっ、男の人達がいたけど」
「今度、取り壊すらしいのよ、工事の人が挨拶にタオル持ってきたから起こされちゃったわ」
「壊すの?」
「そうよ、危ないから近づいちゃだめよ。食卓に置いてあるタオル欲しければあげるわよ」
お母さんの言葉に頷いた。
テーブルの上に水色のタオルが折りたたまれて置いてあった。『みらい工房』工務店の名前が印刷された紙がまいてある。
本当に、取り壊されちゃうんだ……。
時々冒険に出かけていたあの空き家がなくなるのはさみしかった。
イチジクの木もなくなっちゃうの?
「お庭もなくなるの?」
「あら、当たり前じゃない。良かったわ。虫も多くて嫌だったのよね」
お母さんはそう言うとキッチンへ入っていった。
「おやつは、テーブルの上よ」
キッチンからお母さんの声がする。おやつを食べる気になれなかった。
私はそのまま2階まで上がった。
机の上の黒い機械が目に入る。これは誰のだったのかしら。貰っちゃっていいのかな? あの家もなくなっちゃうんだしね。
明日からは夏休みだから何をしようかな? 兄弟もいないから暇なんだ。この間貰った塾の夏期講習のチラシが目に入った。
5年生にもなると、そろそろ塾に通う人も増えているみたいだった。
私には縁がないな。学校の授業でさえよくわからないものね。
そうだ、昨日の宝くじは当たったかな?
お父さんが帰ってくると一目散に玄関までお出迎えをする。
「おかえりなさい」
「おう、瑠璃、当たったぞ!」
「えっ! やったぁ!」
「見事、五等だ」
お父さんはネクタイを外すと携帯をみせてくれた。そこには”あたり”って出ている。
「もしかして、大金持ち?」
わくわくする気持ちを抑えきれずに聞いてみる。いったいいくら当たったんだろう?
「千円当たったぞ」
「千円?」
なんだ、千円なの? ちょっとがっかりだ。
「山分けだな」
「山分けね……」
お父さんは意外とケチだった。
臨時収入には違いない。まっしょうがないか……。
「瑠璃は勝利の女神だな」
なんて言っているお父さんがちょっと憎たらしかった。
けちんぼ。
お父さんからもらった500円玉を机の上の機械の脇に置いた。ご利益あったんだもの。お供えしないといけないわ。
機械を本の上に置いて一段高くした。すると、機械のモニターがまた明るくなり、カタカナが現れた。
『ハナマルヒャクテン』
今度は数字じゃなかった。機械がお供えに答えてくれたみたいで、少しうれしかった。
でも、花丸百点? テストの点?
自慢じゃないけど100点とは縁がなかった。
何か他の意味があるのかなぁ~?
明日お父さんに聞いてみようかな。
なんだろう……。




