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未来受信機  作者: 星降る夜


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1/15

1 最初は、グー じゃなかった……。


 


 「ねえ、田中さんも一緒に帰らない?」


 放課後、めずらしく佐藤さんと鈴木さんが声を掛けてきた。声を掛けられるなんて珍しかった。私は嬉しくて小さな声で返事をする。


 「うん」


 夏休み前の荷物は多かった。ロッカーの荷物を全部カバンに詰めるとチャックを締めるのが大変だった。


 校門を出てしばらくすると佐藤さんが鈴木さんに何か耳打ちしていた。


 「ゲームしながら帰らない?」


 楽しいかも。そんな期待を込めて私は小さく頷いた。


 「じゃんけんで負けた人があの電信柱まで皆の荷物を持つのはどう?」


 2人はパーを出して私はグーだった。


 最初はグーじゃなかったんだ。でも次があるからいいや。


 3つになったランドセルと、みんなの荷物をひとりで抱えた。


 どこまで歩いても、あの電信柱には辿り着かなかった。


 2人は時々振り返って笑っていた。


 あの電柱はどれだったの? 今更考えても仕方なかった。


 分かれ道に来た時、「またね」と手を振り、2人は元気よく走っていった。


 赤くなった腕をさすりながら、手を振った。


 家に帰る途中、道端の雑草に目が行く。こんな道路の脇でもきれいに咲いていた。少し行くと空き家の庭が目に入った。ここに住んでいた人はお庭をきれいにしていたのに、今は鬱蒼うっそうと茂っている。


 そういえば、うちの裏庭に空き家の枝が伸びてきて邪魔だってお母さんが言ってたわ。あれはイチジクの枝だった。後で見てみようかな。


 実がなっているかしら。そんな考えが浮かんだ。


 家に帰ると食卓のメモを確認する。お母さんは夜勤みたいだ。


 部屋に荷物を置くと、冷蔵庫を開けてプリンを出す。さっきの空き家が気になった。イチジクがなっているか確かめなくちゃ。


 鍵をかけると家を出る。一昔前は鍵っ子って言ったらしいと、隣のおばさんが言っていた。両親共働きなんて普通なのにね。


 家の裏に回るとブロック塀によじ登って歩いていく。お母さんの言ったようにイチジクの枝が張り出していた。


 周りを確認すると、塀から空き家の方に飛び降りた。イチジクはまだ小さな実を付けたばかりだ。美味しいのかしら? お父さんが好きみたいだけど。


 それよりもお花を摘んで行こうかな。表に回ろうとして何かが落ちているのに気が付いた。黒くて四角い。


 携帯かしら? スマホじゃないみたい。


 「小学生にはまだ早いわ」と言って、お母さんはなかなか買ってくれない。お父さんは家にあるタブレットを貸してくれるから、それを触るくらいだ。不便は感じないけど、クラスメイトからは置いてきぼりにされている感じがしていた。


 使えるのかな? 充電しないとダメかな? そんなことを考えながらスカートのポケットに入れる。


 脇に咲いていたシロツメクサやピンクの花を摘むと、そそくさと切り上げた。空き家とはいえ人の家にもぐりこんでいるのはまずいよね。誰にも見られないうちに帰らなきゃ。


 家に帰ると、持ってきた黒い携帯を眺めてみる。電源は入らないのかな……。スイッチがわからなかった。ティッシュペーパーでキレイに拭いて机の上に置いた。


 機械には詳しくなかった。でもなんだかいいものを見つけた気がする。


 触っていると急に画面が明るくなり、そこに数字が現れた。『34・8・11・9・12・3』……数字が6個?


 しばらくすると数字は消えてしまった。


 そのまま、機械の画面は暗くなった。


 あれっ? 見間違いじゃないよね。何だったんだろう……。


 壊れているのかな?


 何度見てももう機械は明るくならなかった。


 接触が悪いのかなぁ……。


 お母さんが良く言っている、電波がないとか?


 まっいいや。拾ったものだしね。


 そのまま机の上に機械を置き、下のリビングでテレビをつけた。


 キッチンでお弁当を温めて食べているとお父さんが帰ってきた。


 「瑠璃は夏休みか。いいなぁ」


 お父さんがしきりにうらやましがった。


 「宿題が沢山出たんだよ」

 「それでも休みはいいだろ」

 「うーん、どうかなぁ」


 テレビを見ながらお父さんと話していると、お父さんがスマホの画面を見つめ、「また外れた」と言う。


 「何が外れたの?」

 「ああ、宝くじだ。瑠璃も買って見るか?」

 「うん」

 「ここに数字を選んでいくんだ」

 「数字?」


 頭の中にさっきの数字がよぎる。


 えっと12? 後は……。何だったっけ?


 思い出そうとしたけど、無理だった。仕方ない後は勘ね。適当に、押して行く。


 「34と12と8と7と10と24と」


 お父さんは私からスマホを受け取ると決定を押す。


 「明日の夜に抽選だぞ。楽しみだな」

 「一緒に見ようね」

 

 お父さんは頷くとスマホの画面を閉じた。


 冷蔵庫からビールを出している。今日はもうおしまいね。


 私は黙って席を立つ。どうせ野球中継を見るんだもの、つまらないわ。


 ベッドの上に寝転ぶとマンガを読む。夏休みはどこか行くのかな。


 お母さんは忙しいって言ってたから行かないかも。


 ぼんやりとそんなことを考えた。


 拾ってきた黒い機械なんてすっかり忘れていた。



 少し遅くなりましたが、この夏に読んでいただきたい物語を書き上げました。

 夏休みのちょっとした息抜きとして、楽しんでいただけたら嬉しいです。

 土日は2話、平日は1話ずつ投稿予定です。

 本日は夕方に、もう1話投稿します。

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