24 『タナカ ルリ』
高津君のお兄さんが地図を頼りに来賓控室に向かおうとすると、数人の警備の人とすれ違った。私は一瞬立ち止まる。
「瑠璃?」
河野君が不思議そうに振り返った。
「今の人達なんだか変……」
「変って?」
河野君が後ろを振り返る。
「他の警備の人と違うような気がするの……」
「今は先に控室を探そう」
高津君に言われて頷いた。そうよ、そこは重要じゃないんだわ。それよりも控室を探さなきゃ。
「大地!」
向こうからお祖父ちゃんが数人の警察の人とこちらに駆けて来る。
「じいちゃん、控室だ!」
「……控室?」
お祖父ちゃんは肩で息をつきながら膝に両手をついていた。
高津君のお兄さんがお祖父ちゃんに説明をしている。
お祖父ちゃんは「お前ら……。どうしてそんなことを思いついた」と言いながら、横のお巡りさんに指示を出した。
お祖父ちゃん、まるで警察の人みたい。
カッコイイ!
そこでさっきの警備の人達を思い出したの。
「警備の人って、野球帽をかぶるんですか?」
「野球帽? どういうことかな、お嬢ちゃん」
お祖父ちゃんの後ろから背広姿のおじさんが現れた。誰!?
「瑠璃ちゃん、この人は警部さんだから。顔は怖いけど悪い人じゃないから」
そう言われても、ドスの効いた声はドラマの中の悪役みたいだった。
「さっきすれ違った警備の人達だよね」
高津君が助け舟を出してくれる。
「なんだか、変な感じだなって思ったんです。野球帽だし、すごく急いでいるみたいだったし」
「その人達はどっちへ行ったのかな?」
警部さんは低く落ち着いた声で聞いてくる。
「向こう側の角を曲がっていました」
高津君のお兄さんが指さした。警部さんはマイクでどこかに指示を出した。
「君達、ここはもう良いから、向こうの出口から避難したまえ」
警部さんにそう促され、私達は来た道を少し引き返すことにした。
「瑠璃ちゃん、念のために、あれを確認して」
高津君のお兄さんが私に機械を確認するように言う。
そっとカバンを覗くけどなにも光ってはいなかった。そんな私の様子を見ながら河野君が口を開いた。
「じいちゃん。ジョン・スミスって誰だ。誕生日プレゼントのケーキが爆弾だったりしないよな?」
それを聞いていた、警部さんが固まった。
「それは、どういうことかな?」そう言いながら警部さんは、急いで確認するように、周りの警察官に指示を飛ばしていた。
「君は、それが、何の爆弾か知っているのか?」
「知らないな」
河野君が言うとお祖父ちゃんが河野君の肩に手を置いた。
「大地、知っているなら話すんだ。時間がない」
河野君は私と目を合わせる。私は首を振った。知るわけがない。
「神宮寺様、後は我々にお任せください。安全なところへ」
お巡りさんが1人私達を先導してくれる。
お祖父ちゃんは頷くと河野君の手を取った。
「大地、行くぞ。お前達も付いてきなさい」
お祖父ちゃんはお巡りさんの後をついて、皆が避難しているのとは反対の関係者入口の方へ向かった。
こちらにも関係者用の出入り口があるらしい。
廊下の壁に、関係者以外立ち入り禁止の文字が目に入った。
「すみません、お届け物なんですが」
「だからっ、立ち入り禁止だって言っているでしょう。わからないかなぁ~」
黄色い規制線のテープが張られている入り口でのやりとりが聞こえてきた。何気なく見ていると野球帽をかぶった男女が箱を手にしていた。
見覚えのある黒い野球帽。
「皆、黒い野球帽をかぶっているんだわ……」
知らず知らずのうちに呟くと高津君のお兄さんが聞き返す。
「皆って?」
「あっ、さっきの警備の人も同じ色だったから」
私が言うと、高津君のお兄さんは怪訝な顔をして横のお巡りさんに聞いた。
「あの、お届け物はケーキじゃないですよね?」
お巡りさんはピンマイクで「関係者の入口へ2名追加」と短く応援を頼む。
「確かめましょう」
そう言うと配達に来た男女に声を掛けた。
「ケーキの配達ですか?」
「そうなのよ、生ものだからどうしても渡さなきゃいけないのに何とかならないの!」
と、女性の方が食って掛かる。
「それってジョン・スミスさん宛ですか?」
すかさず高津君のお兄さんが聞くと配達の2人は疑わしそうな顔をした。
警戒させたんじゃない? お兄さんの服を少し引っ張る。
「ああ、さっき、今日がお誕生日だってテロップが流れていたんで」
悪びれもせずお兄さんが言う。さすがだわ。
「そういうことなら箱を持ったまま来てもらおう」
と、今到着したお巡りさんが口を挟んだ。
2人は顔を見合わせて「まずいっ」と呟いている。
男性が箱を置いて逃げようとしたところを、お巡りさんにガシッと掴まれた。
女性は「関係ないのよ!」とわめいている。
きっと爆発物なのよ、あの箱の中身は……。思わず高津君のお兄さんを盾にした。背中に隠れちゃった。その様子を高津君に見られていた。
配達の男性は「俺達は配達だけだから、関係ないんだ!」と叫んだ。
「何が関係ないのかを聞こうか」などと言われながら、いつの間にか集まってきたお巡りさんに囲まれ、連れていかれた。
「終わったな」
ポンと肩に手が置かれて後ろを見ると河野君が立っていた。河野君、もしや、私を盾にしてないよね。
自分を棚に上げて疑いの目で見てしまった。
「よし、皆でディナーに行くか」
お祖父ちゃんが機嫌良さそうに言う。そこへどこからか取材の人が現れた。
「すみません。お話を聞かせてください」
高津君のお兄さんに声を掛けていた。
「未成年なんで、保護者を通してください」
いつの間にか囲まれた高津君のお兄さんはそう言うと、私達と一緒にそこを抜け出した。お祖父ちゃんを置いて。
「ディナーはお預けだな」
色々な人に囲まれていくお祖父ちゃん。その様子を見て高津君が呟いた。
皆で顔を見合わせて笑った。
皆がほっと息を吐いた。やっと終わった。
「ハンバーガーにポテトを食べよう!」
河野君の提案に皆で頷く。
「瑠璃ちゃん、あの機械光っていない?」
聞かれてカバンを探る。機械の入ったポシェットがなかった。
落とした……。
ど、どうしよう……。
「カバンの中にポシェットがない……」
青くなって顔をあげると高津君のお兄さんが私のカバンを一緒に探してくれた。
「無いな」
「落としたかも……」
振り返るけど、黄色いテープが張られたあのビルには戻れそうになかった。
「どうせ、拾ったんだろう?」
河野君の言葉に頷いた。
「なくて、もともとだ」
高津君も言う。
「でも……」
泣きそうな私のお腹が……ギュルルル~と鳴った。
空気を読まない私のお腹。今度は真っ赤になって皆の顔を見回した。
「とりあえずは飯だな」
お兄さんが言う。
またみんなで笑った。
♢ ♢ ♢
「おい、あれは今日届けられた落とし物だろう?」
「あっ、そうです。急に避難とかで結構いろいろなものが届いていたんですよ。それが何か?」
「光ってるぞ。それ、スイッチ切っとけ。」
そう言うと先輩は部屋を出ていった。
こんだけあるのにいちいちスイッチなんか確認できるか。
ぼやきながら光っている機械を確認する。
画面に出ていた文字は
『タナカ ルリ』




