23 どこよ? ジョン・スミスさん。
朝起きると今日持っていくものをカバンに入れる。
お財布にハンカチ、ティッシュペーパー。いつもの消毒液に絆創膏。それから、ポシェットに入れた黒い機械。カバンを斜めにかければ準備万端だ。
黒い機械を手に取るとまたメッセージが出てきた。
やだな、私一人だもの。最近は4人で見ていたからなんだか心細かった。
メッセージを書き留める。
「正確な内容を知りたいから」と、高津君のお兄さんに言われていたのだ。
『バクダン 5コ』
爆弾って……。ゲームじゃないよね? 爆弾5個もあるの?
ビル燃えちゃうよ……。危ないじゃない!
お父さんは今日はあのビルに行くっていってたし、河野君のお祖父ちゃんもてっちゃんもいるはずだ。
私は荷物を持つと高津君の家へと急いだ。約束の時間は午後だった。まだ朝の9時だ。
私が行くと高津君が驚いたような顔を一瞬したけど、すぐに勉強部屋に通してくれた。
「瑠璃ちゃん。何があった」
高津君のお兄さんが落ち着いた声で聞いてくる。その声で少し心が軽くなった。一人じゃないんだ。
私はメッセージを書き留めた紙をみせた。高津君のお兄さんは一瞬絶句した。
「爆弾は5個もあるのか……。多いな。幸助、大地に伝えてくれ」
高津君は頷くと携帯のメッセージを打った。
「警察や消防に連絡した方がいいのかな……」
私が言うと高津君のお兄さんは優しく頷いた。
「そこは大人に任せよう。大地のお祖父さんとてっちゃんが連絡を取ってくれている」
「てっちゃん? お祖父ちゃんの釣り仲間?」
「ああ、頼りになる」
そう言えば、竜巻が来た時もテキパキと指揮をとっていた気がする。任せて安心なんだよね?
「瑠璃ちゃん、もうすぐ大地も来るから、お祖父ちゃん達の様子も分かる」
高津君にも言われて頷いた。テレビのニュースで外国からの要人が銀座のビルのオープニングセレモニーに出席すると流れている。
「これが、狙われているかもな……」
高津君のお兄さんがテレビを見ながら呟いた。
つまり、テロとかっていうこと? 背筋がぞっとする。
「瑠璃、また機械が光ったのか?」
河野君が額に汗をかきながらやってきた。
「じいちゃんから電話が来たんだ。ケーキの搬入があるらしい。それと、もう3個見つかったって」
えっ、もう見つかったの? やっぱり爆弾はあったんだ……。
背筋に寒いものを感じながら、高津君のお兄さんの顔を窺った。お兄さんは私に頷くと、口を開いた。
「まずいな、大地、まだ爆弾2個はあるって、お祖父さんに言うんだ」
「まじか……。わかった」
そう言うと河野君は、お祖父ちゃんに電話をかけた。
「大地? お祖父ちゃんは何て?」
高津君が聞くと、河野君が少し難しい顔をした。
「なんか、安心しているみたいなんだ。もう見つけたから」
「セレモニーは中止にならないのか?」
高津君の言葉に皆不思議そうに首を傾げた。
「現場周辺、封鎖されるよな?」
高津君のお兄さんが言う。
「じいちゃんが言うには、まだマスコミに知られたくないってことらしい……」
河野君の言葉に高津君のお兄さんは時計を見る。
「まずいよな。それ」
「じいちゃんから『5個あるってどうしてわかるんだ?』って聞かれたけど」
そうだよね。3個も見つければ十分だと思うよね。
「お祖父さん達は何て言っている?」
「要人警護の方に人員が回されているから、少し待ってくれって、場所は特定できないかって」
場所? 黒い機械を見るけど何もメッセージは出なかった。
「ケーキの搬入が怪しいな。そこに1個あるとしたら残りは?」
高津君のお兄さんがビルの地図を机に広げた。いつの間にこんなものを用意したんだろう。
「大地、3個見つかったのはどこか聞いているか?」
河野君はポケットからメモを出して見ながら、地図を指していく。
「地下の駐車場に1個、セレモニー会場に1個、後は電気のパネルがあるところだって言っていた」
「いずれも工事関係者が入れるところだな。もしケーキの搬入に爆弾が1個入るとしたら、レセプション会場だな……」
高津君のお兄さんがビルに丸を付けていく。丸がビルの四隅に付けられた。
「几帳面な犯人だな」
高津君の呟きに頷く。小学生にもわかりやすかった。もっとも、犯人は自分たちがばれていることを知らない。
東西南北と綺麗に配置されている。となると残るは……。
「ビルの真ん中か……」
高津君の呟きにお兄さんが頷く。
「ビルの中心が怪しいな。大地、とりあえずお祖父さんにはその辺りが怪しいと伝えてくれ」
河野君が急いで電話を掛けた。
「じいちゃん。わかった。ビルの真ん中だ。後は頼む」
そう言って電話を切った。真ん中って……。お祖父ちゃんわかるの? ちょっと不安だ。
「たぶん金属探知機とかいろいろあるんだろう」
高津君がポンポンと私の肩を叩いた。
ただ問題はまだ残っていた。
本当にケーキに爆弾が入っているのかどうかなんだ。推測でしかない。
15時が過ぎて、私達はオープニングセレモニーの会場へ向かった。何もかもが無事に終わることを祈って。
会場に着くと蝶ネクタイをしたお祖父ちゃんがこちらに走ってきて河野君を隅に引っ張っていった。
しばらくして戻ってきた河野君は難しい顔をしていた。
「大地、どうだった?」
高津君が聞くと河野君は首を振った。
「天井には爆弾があった。もう回収したそうだ。ケーキには爆弾はなかった。ケーキの搬入自体取りやめたんだって」
「4個回収済みか、あと1個だな。セレモニーはやるのか?」
河野君が首を振る。
「セレモニーは中止になったから、帰れって、じいちゃんが」
「でも、まだもう1個爆弾があるわ」
お父さんもこのビルに来ているし、皆で避難しないと……。
「まだ爆弾があるかもしれない。それでもビルは、封鎖しないのか?」
高津君のお兄さんが冷静に聞く。
「今、検討中だって」
河野君は再びお祖父ちゃんと電話を繋ぎながら話している。
「噂だけじゃ封鎖は出来ないらしい」
噂ってどういうこと?
「噂じゃないよね? 爆弾見つかったのに?」
「ダミーもあったらしい。いたずらじゃないかって」
えっ? 私達の情報が疑われているってこと?
「瑠璃ちゃん。機械確認してみて」
高津君に言われて機械を見る。静かだった機械の画面が明るくなり、メッセージが現れた。
『ケーキ バクハツ』
どういうこと? 河野君の顔を見た。
「ケーキ 他にもあるのか?」
その時、ビルの大型モニターに『本日は外国からの要人がお見えになります』と紹介のテロップが流れた。
オープニングセレモニーは中止なのにテロップだけはまだ通常通りに流れていた。
まさかあそこに『爆弾5個危険!』なんて出たらパニックだものね。
『本日お誕生日を迎えるジョン・スミス氏は……』音声と映像も流れ始めた。
「お誕生日……」
その言葉がひっかかった。
お誕生日の時ってサプライズでケーキ出さないかしら……。
「サプライズってしたりしないかな?」
高津君のお兄さんが顔をあげた。
「誕生日のか……」
私が頷いた。でも、今日のお誕生日って……。
ビルに映し出された画面を見上げる。そこには本日の来賓の紹介が次々と映し出されていく。
『ジョン・スミス氏 本日55歳』
「大地、とりあえずお祖父さんに情報上げろ」
画面を凝視した高津君のお兄さんが言う。
「来賓控室なら別口でケーキを準備する可能性があるな」
「兄さん、それだ!」
「ああ、これかもしれないな……」
高津兄弟が頷き合う。
私達は一斉に走り出した。
どこよ? ジョン・スミスさん。




