22 行かなきゃいけない
皆が息をのむ中一番最初に口を開いたのは高津君のお兄さんだった。
「まずいな」
そう言うと玄関に置いてあったカバンを取りに行ってから机に置いた。
「兄さん、塾は」
「休む」
高津君の言葉に、兄さんはノートと筆記用具を出しながら短く答えた。
「整理しよう。皆座れ」
「でもこれじゃあ、いつ、どこでかわからない」
誰かの呟きに、高津君が答える。
「銀座だろう」
「銀座は広いよ」
河野君の言葉に高津君が言う。
「今までのことから、だいたいのことは推測できる」
「あっ、俺はわかる。瑠璃関連だろう」
「大地、その通りだ。今回は瑠璃ちゃんが銀座のビルのオープニングセレモニーのチラシを持ってきた。そこから始まっている」
「兄さん、まさか、ビルの爆発?」
高津君のお兄さんはペンを止めた。
「最悪、考えられるな。物事は最悪の事態を想定しないといけない」
「そんなの無理だろう!」
河野君が勢いよく立ち上がった。私も彼の言うとおりだと思う。
小学生の私達に爆弾の処理なんて出来るはずもない。
「無理だ。ならどうする?」
「起こる前に防ぐ」
高津君が答える。
「どうやって?」
「犯人を警察に突き出せばいいんだ」
河野君が言う。
「犯人の方が大人だ」
「それにどうやって犯人を見つけるんだ?」
高津君の言葉にお兄さんはしばらく黙って考え込んだ。高津君が手を叩く。
「兄さん、僕達の方が犯人より、有利だ」
「そうだ、僕達はその事実を知っている。犯人は自分たちの計画がバレていることに気づいていない」
お兄さんも顔をあげた。
「大地、お祖父ちゃんには早く言った方がいいんじゃないか?」
高津君の言葉に河野君は急に慌てたように言う。
「まずい、じいちゃんはテープカットに来る」
今、思い出したの?
「えっ、お祖父ちゃんがテープカットするの?」
凄いわ。ああいうのはお偉い人達の仕事だと思ってた。
「ああ、高齢者枠で呼ばれたって言ってたぞ」
「高齢者枠?」
私が小さく呟くと高津君がフォローしてくれる。
「年を取った人が優先的に呼ばれたりするんだよ」
つまり、先が少ないからなのかしら……。
「でも、そしたらお祖父ちゃんも危ないわ」
河野君は大きく頷いた。
「まずは、じいちゃんに言う」
「よし、大地、お祖父さんには爆弾が仕掛けられた可能性があることを伝えるんだ。ビルだけじゃなくセレモニーが行われる会場全体に」
「わかった」
河野君はカバンから携帯を出すと電話をかけ始めた。
「そっちは大地に任せて、僕達に出来ることを考えよう」
お兄さんの言葉に、私と高津君は頷く。
「瑠璃ちゃんならどう動く?」
急に話題を振られて戸惑った。
えっ? 私なの……。
「私……?」
「今までのことから瑠璃ちゃんの勘が一番だな」
高津君が言うとお兄さんも頷いた。
「その機械、構造はわからないが、今までは瑠璃ちゃんの行動に沿って動いている気がする。勘で構わない」
私はカバンからチラシを出すと広げて確認する。明日の17時からセレモニーが行われる。暑い時間帯を避けたみたいだった。夜にはレセプションもあるらしい。招待客のみとなっていた。
私なら、セレモニーの後レセプションを覗いてみたい。
「セレモニーの後はパーティーとかあるのかな?」
「そこか、007みたいだな」
私の言葉に高津君が付け加えた。
「ルパン三世だと大きなケーキの中に悪い人や爆弾が隠れていたりするのよ」
お父さんと見た映画を思い出す。
「よし、大地、お祖父さんにレセプションにケーキは出るか聞いてくれ。荷物の搬入が怪しいな」
結婚式じゃないからケーキは出ないと思うけど……。
いいの? そんな私の推理で……。
「真司、塾はどうしたの?」
高津君のお母様が呼んでいた。
お兄さんは部屋を出ると、「宿題を忘れていたから今日は休む」と伝えた。
宿題って、このことだよね……。
そのあとは河野君が「バッチリじいちゃんに頼んだ」と自信ありげに言うから、逆に不安になった。お祖父ちゃん、大丈夫なんだろうか?
私達は当日2人一組で現場を見回ることになった。
主に私が怪しいと思うところを見ていいらしい。河野君と高津君が組んで、私と高津君のお兄さんが組むことになった。
その日はお父さんを捕まえて、明日のオープニングセレモニーに行くことを伝えると、「お父さんは瑠璃と一緒に帰れないぞ」と心配そうに言う。
チラシくれておいて今更な気がする。自慢したかっただけなのかしら?
「大丈夫。高津君のお兄さんも一緒だから」
すると安心したみたいで頭を撫でてくれた。
「遅くならないようにな」
私は黙って頷いた。
寝る前に黒い機械を確認する。今日はもう光らなかった。
光らないと寂しい。光るとドギマギして困る。そんな複雑な気持ちだった。
明日は銀座。
誰かが爆弾を仕掛ける日。
黒い機械は静かなままだった。




