21 行けたら行く
「瑠璃、今度銀座に新しいビルがオープンするんだが、オープニングセレモニーに行くと先着で何か貰えるらしいぞ」
玄関で靴を履いていると、パンツ一丁にうちわ姿のお父さんがチラシをくれた。今日は久々のお休みらしい。
お父さんの顔を見るのは久しぶりだ。最近お父さんは新しいビルに入る店舗のお手伝いで大忙しだ。毎日、帰りも遅かった。
「全然ナイターが見れないじゃないか」とぼやいていた。
「何がもらえるの?」
銀座かぁ、ちょっと遠いな。この暑いのに銀座まで行きたくないし、電車賃もかかるよね。
何か良いものがもらえるのかしら? タダでもらえるとなると、長蛇の列かもしれない。長い列に並んで、ペットボトル1本もらうぐらいなら、買った方がいいもの。
「んっ? それはわからないぞ。遊びがてらお友達と行けばいいんじゃないかな」
お父さんは、小学生が銀座で遊ぶと思っているんだろうか? ズレているよね……。
お母さんは銀座なんて行かないだろうな。お金がかかることは嫌いだから。
「ありがとう、行けたら行くね」
そう言ってチラシをもらうと、カバンの中に入れて高津君の家に向かった。
「瑠璃ちゃん、最近その機械は光らない?」
高津君の家に着くなり高津君のお兄さんが聞いてくる。
そうなんだ、最近はこの機械もおとなしい。
「うん」
「そうか、もうおしまいなのかな?」
そう言って笑うとまた机に向かう。
お盆も過ぎて夏休みももうあとわずかだ。高津兄弟のおかげで今年は夏休みの宿題に泣かされることもなかった。嬉しい。
高津君のお兄さんは塾が始まり、夕方から塾に行く。皆ものすごく勉強していたから、頭がいい人は集中力が違うんだなと感心してしまう。
私には無理だな。
高津君の家には本もたくさん置いてある。私は本を読んだり、高津君のお母様のお手伝いをしたりしながら過ごすことにも、すっかり慣れてしまった。
「学校が始まっても遊びに来てね。寂しくなるから」
お母様にそう言われてもあいまいに頷くばかりだ。先のことはわからない。
おやつの用意をして、勉強部屋へ運んだ。私の姿を見ると河野君が手を止める。
「瑠璃んちの近くの空き家、まだ工事していないな」
「お盆で休みだったんじゃないか」
河野君の言葉に高津君のお兄さんが答えた。
「それにしても、工事の人が挨拶には来たんだろう?」
私は頷いた。
工事の人が挨拶に来たとき、お母さんがタオルをもらったと言っていたからだ。
水色だったから、私がもらっちゃった。
「タオル貰ったよ」
「どこの工務店だった?」
「えっと……。みらい工房だったかな?」
「みらい工房? 変わった名前だな」
高津君が考えるように眉根を寄せた。
「なんだか最近っぽい名前だ。今の流行りかな……」
河野君の言葉にだんだんと不安になってくる。そう言えばいつか道端で見た人達は、黒いサングラスを掛けていた。
怪しい人達なんだろうか?
家に帰ったらもう一度タオルを確認してみよう。
今までは工務店の名前までは、気にも留めていなかったから。
カバンから、さっきお父さんにもらったチラシを出すとみんなに見せた。
「お父さんからもらったの。銀座に新しいビルが建つって。オープニングセレモニーに行くと記念品貰えるみたいだよ」
「あっ、それ、うちの父さんも持ってたぞ。行かなくても、欲しければもらってきてやる」
「えっ? 行かなくても貰えるの?」
「あぁ、たぶん……。きいてみるな」
「いいよ、別に、いらないから」
私がそう言って手を振る。欲しいわけじゃないから。
「じゃあ僕は行くから、瑠璃ちゃんまた明日ね」
高津君のお兄さんが手を挙げて玄関へ行く。
河野君はつまらなさそうに本を閉じると私の横に座った。
「そうか、ならいいんだ。んっ? 今、瑠璃のカバン光らなかったか?」
えっ? カバン?
まさか……。
急いでカバンから黒い機械を取り出した。久しぶりに黒い機械が光って、メッセージが現れた。
メッセージを見るなり、思わず悲鳴をあげた。震える手で機械を机の上に置いた。
「えっ? なっ、なに? これ……」
高津君も私の声を聞いて集まってきた。
「どうした!」
出かけようとしていた高津君のお兄さんが、カバンを玄関に置いたまま駆けつけた。
4人で机の上の黒い機械を見つめた。しばらく誰も声が出なかった。
機械に現れたメッセージには、
『ギンザ バクダン』と出ていた。
……どうする……の、これ?




