19 なんか誕生日会じゃないぞ
「公子、お友達が見えたわよ」
「はぁい。今行く」
私は慌てて、昨日作ったウェルカムカードを持って、お母さんからお菓子と飲み物のペットボトルを受け取る。
「下まで持っていこうか?」
お母さんの言葉に首を振った。
「大丈夫、佐藤さんに手伝ってもらうから」
「学級委員をしている子でしょう。偉いわね、夏休みまでクラスの交流を大事にしているなんて」
お母さんは感心したように言うと玄関に追加の飲み物とおやつを置いてくれた。
「こんにちは、今日はお邪魔します」
佐藤さんと鈴木さんが元気よくお母さんに挨拶をしている。「家で良かったらいつでも言ってね。下の集会所はクーラーも入っているから」母はそう言って笑うと、機嫌良さそうにおやつの袋を渡していた。
一昨日、急に電話が来て、クラスの交流会をやりたいって言われた。うちのマンションの集会所は借りられるかっていうことと、メンバーは佐藤さんが集めるからっていうことだった。
なんとなく知っている人がいないと不安だったから、同じマンションの岡本弥生ちゃんを誘ったの。佐藤さんに言うと、嫌そうに「まっ、仕方ないわね」とだけ言っていた。
何故か、私の誕生日会名目だった。理由は、「プレゼントもらえるわよ。いいじゃない」とだけ言われた。場所や、食べ物提供するからだということだけど、なんだかだましているみたいで気が進まなかった。
何かあるのかな。
そんな気がして、少しだけ胸がざわついた。
♢ ♢ ♢
高津君の家から長谷川さんの家は少し距離があった。
いけない、遅れちゃう。急ぎ足で向かう。
こんな時に限ってマンションの集会所の場所がわからなかった。もっと、ちゃんと聞いておけばよかった。
長谷川さんの住んでいるマンションの入り口で集会所を探していると同じクラスの岡本さんに出会った。同じマンションに住んでいることもあって2人はよく一緒にいたような気がした。
「岡本さん、こんにちは。長谷川さんのお誕生会に行くんでしょう。一緒に行こう」
私が言うと岡本さんは戸惑ったような顔をした。まさか呼ばれていないとか……。
「わ、私は今日から出かける用事があって……。集会所ならその先だから」
それだけ言うと逃げるように行ってしまう。変ね……。
急に決まったって、長谷川さんも言っていたから、都合が悪かったのかも。
岡本さんに聞いた通りに少し先に行くと集会所があった。中に入ると、佐藤さんと鈴木さんが飲み物とおやつを並べていた。うわっ、ここで一緒になるとは思わなかった。野村さんも来ている。長谷川さんて、この人達と交流あったんだっけ……。
このメンバーはどちらかと言うと佐藤さんのグループだった。
隅でカードを並べている長谷川さんにプレゼントを持って行った。
「お誕生日おめでとう。急だったから色々用意できなくてごめんね」
そう言うと、さっき買ったプレゼントを渡す。席順が決まったカードを見て、席に着いた。5人しかいない。皆都合が悪かったのかな。夏休みだものね。
お誕生日席には何故か佐藤さんが座っていた。私の隣は長谷川さんだった。向かいに鈴木さんと野村さん。
「さっき、岡本さんに会ったけど用事があるって言ってたわ。残念ね」
私が言うと長谷川さんは驚いたように顔をあげた。知らなかったの?
「聞いていなかったの?」
「えっ、うん」
「急に決まったのかもしれないわね」
私達が話していると、佐藤さんが口を挟んだ。
「私は連絡を貰っているから」
「え? どうして佐藤さんに?」
長谷川さんが思わず声に出した。
それってどうなの? 主催者が知らなくて佐藤さんが知っているって……。疑問はそっと胸にしまう。突っ込んでも良いことなんてないから。
「では始めます。今日は交流会に参加してくださりありがとうございます。長谷川さんのご自宅の集会所をお借りしました。長谷川さんのお誕生会も兼ねています」
交流会? 初めて聞いた……。
「5年1組で最近、自分勝手な行動をとる人が多いのでそのことで意見を聞きたいと思います。まず田中さんについて意見がありますか」
佐藤さんの言葉に野村さんが手を挙げた。
「どうぞ」佐藤さんが野村さんを指す。
「あの、田中さんは一緒に帰ろうって声を掛けても無視します。いけないことだと思います」
続けて鈴木さんが手を挙げる。今度は鈴木さんを佐藤さんが指した。
「田中さんは私のことも無視しました」
「田中さんは意見がありますか?」
「私は……」
覚えていなかった。誘われたのは荷物を持たされた日ぐらいだった。他にあったんだろうか……。
「田中さんは、私が消しゴムを貸したときありがとうって言いませんでした」
鈴木さんが言う。そんなことあった?
「覚えていなくて……」
私が言うと、
「田中さんは、夏休みの宿題を一緒にしようって言ったのに、出かけていました」
「そうです。私達はわざわざ予定を空けていたんです」
佐藤さんも鈴木さんの言葉に頷いた。なんなんだろう、この交流会。まるで不思議の国のアリスみたいじゃない。何を言っても悪者だもの。私は下を向いて下唇を噛みしめた。
「田中さんの行動は目に余ります。最近は女子を無視して男子にベタベタしているし」
鈴木さんが言うと野村さんも頷いた。
「田中さんベタベタしているの?」
長谷川さんが聞く。私は黙って首を振った。その時鈴木さんの携帯が鳴って、鈴木さんが携帯を確認する。
「えっ?」
と小さく驚いたような声を上げると携帯を急いで隠した。
「鈴木さん?」
その行動を佐藤さんがとがめる。
「何が来たの?」
佐藤さんの言葉に鈴木さんは首を振る。
「な、何でもないから」
そう言う鈴木さんの手から野村さんが携帯を奪った。
「ちょっと、なにこれ!」
野村さんが佐藤さんに携帯の画面をみせた。
佐藤さんが悲鳴を噛み殺すように両手で口を塞いだ。長谷川さんと一緒に携帯の画面を見ると
『2人だけで、話がしたい。高津』
SMSのメッセージが出ていた。




