18 急に決まった誕生会
次の日、お母さんには図書館でお友達と勉強すると言って家を出た。なんとなく高津君の家に行くって言えなかった。
悪いことをしているわけじゃないんだけど、皆に言わない方がいいような気がして……。
高津君の家にはちゃんと勉強部屋があって、本棚には本がぎっしりと並んでいた。ちょっとした図書室みたいだ。
「へぇー瑠璃ちゃんは応用問題が苦手なんだね。ここはこうするといいよ」
高津君のお兄さんがスラスラと問題を解いていく。さすが中学生だ。
私はお邪魔虫な気がする。2人の勉強を邪魔していないのかな? 息抜きに冷たいゼリーを高津君のお母様が持ってきてくれた。
「はかどっている?」
私が頷くとお母様が笑う。「教えるのも勉強になるのよ」そう言って高津君の肩を叩いた。
「兄さん。次は僕が教えるから」
高津君が言うとお母様はまた笑った。「頑張ってね」最後にそう言って部屋を出ていった。
私の夏休みの宿題は、ほとんど終わっていた。こんなに早く終わるなんてすごい。
「大地のやつ、僕達が宿題終えたって言ったら悔しがるな」
高津君の言葉に思わず河野君の『くそっ』と窓のほうを向いて言っていた横顔を思い出す。
「本当だわ」
和やかに時間が過ぎていった。
最近は肌身離さず持っている黒い機械は、ここのところ光ることはなかった。
「瑠璃ちゃん。その機械はまだ光らない?」
高津君のお兄さんに聞かれて頷いた。
「和歌山で光ったのが最後みたい」
「あれ以来何もないとなると、電池切れかもしれないな」
お兄さんは機械を手に取ると「電源はないよな……」と呟く。何度見てもつなぎ目もない不思議な機械だった。
「電波の受信が不安定とかあるのかな?」
高津君の言葉にお兄さんが眼鏡を掛けなおす。
「あり得るな、でも普通の電波じゃないと思う。どちらにしろ僕たちの手には余るだろう」
お兄さんの言葉に高津君も続ける。
「光らないと寂しい?」
高津君の言葉に首を振った。機械が光る方がドキドキしてしまう。何かをやらなきゃいけない気がして。
「機械が光るとどうしようって思っちゃうから、光らない方がいいの」
私が言うと高津君のお兄さんが笑った。
「いつでも相談してくれ。なっ、幸助、お前もそう思うだろう?」
高津君も力強く頷いた。心強いなって思えて、胸が熱くなる。一人じゃないんだ。
家に帰ると玄関のモニターが光っていた。留守の間に誰かが来たんだ。
何気なくチェックすると、佐藤さんと鈴木さんが映っていた。『まだいないみたいよ』そんな声が入っていた。
何の用があるのかしら? やだな。その画面を削除する。またお母さんがよけいなことを言いだしそうな気がした。仕事で良かった。
数日後、家に帰るとポストに封筒が入っていた。
差出人は5年1組 長谷川 公子。
長谷川さん?
同級生の女の子だ。大人しい子であまり話したことはなかった。絵が上手でいろいろな挿絵を頼まれたり、展覧会で賞をもらったりしていた。
何だろうと思って中を見ると、お誕生会の招待状だった。
初めてもらった招待状だった。
なんだか嬉しかった。長谷川さんは8月生まれだったんだわ。
明日の午後1時から長谷川さんの住んでいるマンションの集会場だった。
明日は一度高津君の家に行って、勉強会には出られないって言わないといけないわ。そんなことを考えながら、手紙に書いてあった長谷川さんの家に電話をすると、出席の返事をした。
今からだとプレゼントはどうしよう? 行く前にキャラクターショップに寄ろうかな。そんなことを考えながら当日を迎えた。
プレゼントを買って、高津君の家に寄る。長谷川さんのお誕生会があることを伝えると「随分と急だな」と高津君がいぶかしげに眉を寄せた。
昨日の電話で長谷川さんも「急に決まって……」なんて言っていたけど、お誕生会ってそんなに急に決まるものなのかな、と少し不思議に思った。
「機械はもってる?」
奥から顔を出したお兄さんに聞かれて頷くと「出してみて」という。
カバンから取り出して手のひらにのせると、機械が光った。
「ツルシアゲ ゴニン」
「吊し上げ?」
なんだろう?
「瑠璃ちゃん、うちに帰りに寄れる? 皆で考えよう」
「あっ、大地も後で来るって言ってた」
「ハワイから帰ってきたの?」
「ああ、昨日の夜に着いたらしいよ」
久しぶりに河野君に会える。楽しみだわ。
「うん、行ってくるね。また後で」
私はそう言うと足取りも軽く、お誕生会へ向かった。
♢ ♢ ♢
「瑠璃! 土産があるぞ!」
玄関から大地の声が聞こえてくる。人の家に着くなり瑠璃ちゃんを呼ぶとはなんだ、あいつ……。
「大地、瑠璃ちゃんはいない」
「幸助、ただいま。瑠璃はまだ来ていないのか?」
「ああ、長谷川さんの誕生日会に呼ばれたって」
パイナップル型のクッキーが入った箱を僕の手に置いた。
「長谷川って、クラスのか?」
「そう言っていた」
勉強部屋に入ると大地は兄さんに挨拶をする。この辺はきっちりとしているんだな、こいつは。
「あっ、そう言えば、またあの機械が光ったよ」
兄さんが大地にさっきの話をしていた。
「ゴニンって何を誤認したのかな?」
兄さんも気になっているみたいだった。大体何をつるすんだ? サカナじゃあるまいし……。兄さんと2人でさっきから考えているけど、まだ何も思いつかなかった。
「長谷川ってさ、6月生まれじゃないか?」
大地の言葉に顔をあげた。6月?
「大地、なんでお前長谷川さんの誕生日知っているんだ」
「ああ、あいつ、展覧会に出展するときに年齢を書くからさ、確か6月生まれだとか言っていたのを聞いたことがあった」
「つまり、誕生会自体が誤認?」
「違うな、5人じゃないか……」
大地の言葉に、僕は一気に背筋に寒いものが走った。
――まずい。吊し上げって、まさか……。
大地と顔を見合わせた。
いつも読んで頂きありがとうございます。次は明日投稿します。




