13 ここは、神社じゃない
私は高津君のお兄さんの手に機械を押し付けると、そのまま背中を押して部屋の外へ追い出した。
「あっ、ごめん」
お兄さんは急いで部屋を出る。
「瑠璃! なにかあったか?」
ドアの向こうで河野君の声がする。
「着替えてから行くから」
それだけ言うと急いで着替えて髪をとかしていく。やだ、寝起きの顔を見られちゃった。お兄さん目が悪いといいんだけど……。
下に降りていくと高津兄弟と河野君が3人で話をしている。
「瑠璃ちゃん。また機械が光ったんだって?」
高津君の言葉に私が頷く。
「くそっ、見損なった」
河野君と高津君が悔しがっていた。
私はこの機械が光る度にドキドキするのに2人は楽しみなんだ……。
「神社か、じいちゃんに今日は神社巡りをするって言わなきゃな」
「神社巡り?」
私が言うと河野君が頷いた。
「この辺、田舎だから神社が多いんだよ」
「一番近くのでいいんじゃないの?」
私の言葉に高津君のお兄さんが地図を広げる。
「地図で見る限り、この3か所の距離はだいたい同じだな」
高津君のお兄さんが指さした地図を見ると東、西、北に神社が同じ距離ぐらいであった。あれま、本当だわ。これじゃあどこだかわからないわね。
「瑠璃の勘は?」
河野君に聞かれて首を振る。この辺の土地も知らないし、さっぱりわからない。
「順番に行こう」
高津君のお兄さんの言葉に皆で頷いた。
朝食が終わると、河野君が言う。
「火の用心に神社を回ることにした」
河野君が学校の宿題だとか言って、お祖父ちゃんに泣きついた。かなり苦しい言い訳だよね。火の用心が神頼み? みたいなことになっているよ河野君!
「火の用心に神社か……? 季節外れじゃな。だが、学校の宿題なら仕方ないな。最近山火事もあるしな」
お祖父ちゃんはそう言うと、拍子木を私達に配る。お祖父ちゃんは何の疑問も持たなかった。
「これを鳴らして回るんじゃ。いいな?」
コチコチと鳴らしてみる。火の用心の雰囲気が出ている。ペットボトルの水を持って、加奈子おばさんの運転で神社を回ることになった。
「暑いのに、ご苦労様ね。お水は1人1本でいいんじゃないかしら?また買えばいいんだし」
という加奈子おばさんの言葉を無視して1人2本ずつ持った。火事だとこれでも足りないと思う。
最初の神社は平坦なところにあって人通りも多かった。高津君のお兄さんが神主さんとお話をして、「タバコの吸い殻に気を付けましょう」と注意を促してくれた。
見ている限りタバコを吸っている人はいなかった。ここは違うと思う。そんな気がした。
私達は次へ向かう。
次の神社は高い山の上にあって、ふもとに車を置いた。
「私はここで待っているから」と加奈子おばさんが車の中から手を振ってくれた。
見上げれば、頂上が見えないほどの長い階段に気が遠くなりそうだった。
長い階段を上り始めた。何段あるんだろう? 考えない方がいいよね……。
途中まで行くと肩で息をしながら木陰にしゃがみこんだ。元気のいい男子のペースにはこれ以上ついていけなかった。
「先に行ってて、ここで休むから」
「わかった。幸助、お前は瑠璃ちゃんについていろ」
ずっとそばにいてくれたお兄さんは、高津君に声を掛けると、かなり先まで登って行ってしまった河野君を急いで追いかけて行く。高津君がこちらに戻ってきてくれた。
「ごめんね」
「そこにベンチがあるから、ここで待とう」
周りを見ればここは丁度中間地点になるらしくて、木で作られたベンチがところどころにあった。
ベンチに腰掛けると、高津君は水のペットボトルを開けた。
「水分補給。大事だよ」
渡してくれたペットボトルに口をつける。優しい。
上の神社へは河野君とお兄さんが行ってくれたから大丈夫ね。
「ありがとう」
そう言って高津君を見ればにっこりとほほ笑んでいる。こういうところがモテるんだね。
周りには高い木が茂っていてさわやかな風にさわさわと木々が揺れる音がした。
ふと、なにか焦げているような臭いがした。
横を見ると向こう側の木々の間の景色がゆらりと揺らいだ。蜃気楼?
なんだろう?
気になってよく見れば、横に小さな道があり、その先に煙が見える。
「高津君。あそこ、煙?」
「えっ? どこ?」
高津君が私が指さした方を見る。
「向こうか……」
私達は立ち上がるとわき道に入った。
小さな祠へと続く道。すぐそばなのに見えていなかったみたい。
「本当だ、煙だ!」
高津君の言葉に息をのむ。
「燃えているの?!」
近寄れば祠の脇の茂みから煙が立ち上っていた。
高津君と2人で慌てて水をかける。高津君が足で茂みを踏んだ。
すると白い煙だけが細く立ち上り、それもすぐに消えた。
小さな祠でまだ煙が出始めたばかりだったから、すぐに消し止められたけど……。
「あそこで足を止めなかったら気が付かなかった」
私の言葉に高津君が頷いた。
「瑠璃ちゃんはどうして、足を止めたの?」
どうしてって……。
ただ疲れて、息が苦しかったからで、この祠があるとわかっていたわけじゃない。
しかも、燃えていたなんて……。
「偶然……」
「そうだよ、たまたまだ。それにこれは神社じゃないよ」
高津君はそう言うと私の肩をポンとたたいた。
そうよね。ここは神社じゃないもの。
「瑠璃? 幸助?」
河野君が呼んでいる声がした。私達がわき道から顔を出すと、お兄さんが心配そうに待っていた。
「どうした」
お兄さんの言葉に高津君が説明していく。祠の周りを念入りに見て吸い殻を見つけたみたいだった。
「瑠璃はどうしてここだと思ったんだ?」
どうして……?
首を振った。
「わからない。ただここで休んでいたら、焚火みたいな匂いがしたの。上の境内はどうだったの?」
「特にタバコの吸い殻はなかった。境内は禁煙らしいから」
「禁煙なの?」
高津君のお兄さんが頷く。
「つまり禁煙だからここに吸い殻を捨てたってことか」
高津君が言う。
「でも、ここは神社って言えるか?」
河野君が吐き捨てるように言う。
「最後の神社も回ってみよう。何もなければそれでいいじゃないか」
お兄さんが、皆を力づけるように言う。「最後のひと踏ん張りだ」と掛け声をかけていた。
「そうだね」
私は頷きながらも、何となく、もうミッションは終了したような気がした。
最後に西の神社へ向かった。そこは一番大きくて人が多かった。入り口には赤い太鼓橋があって記念写真を撮っている人も見かけた。
なんだか都会の神社みたいだった。
「ここも大丈夫だった。神主さんにさっきの祠の話をしたらお礼を言われたよ。あそこは木が多いから山火事になる危険があったらしい」
「本当か、良かったな、瑠璃」
「うん。ミッション終了だよね」
「ああ、終了だ。だけど、不思議だね」
高津君のお兄さんは、何かに気づいたような言い方をした。
「なにが不思議なの?」
「瑠璃ちゃんの周りだけで起きている」
「瑠璃があの機械を拾ったからだろう?」
河野君が突っかかるように言った。
「そうだね」
お兄さんはそれ以上何も言わなかった。私は途方に暮れるばかりだ。でもみんなでこのことを考えられてよかった。1人じゃないから……。




