12 青い海、白い砂浜
夏休みに入って数日後。
大きな旅行バッグを前に、私は何度も持ち物を確認していた。
水着を持って来いって言ってたけど……泳げないから忘れたことにしようかな……。迷った挙句にスクール水着を入れておく。
後は着替え、洗面道具に宿題。それから、一番奥には黒い機械。
あれ以来、一度も光っていない。皆が待っているからじらしているんだろうか? 高津君のお兄さんが楽しみにしているのに悪い気がしてくる。
「忘れ物ない?」
麦わら帽子をかぶると、お母さんの声に「うん」と返事をして家を出た。
その日の午後、私の目の前にはどこまでも青い海が広がっていた。
高津君兄弟に河野君、それに私で河野君のお祖父さんの家にお邪魔していた。
「幸助、1週間は大丈夫なんだろう?」
河野君の言葉に高津君が頷く。
「ああ、兄さんがめったにない機会だからって父さんに掛け合ってくれた」
「僕も今のうちだけだから、羽を伸ばせるのは」
高津君のお兄さんはそう言って笑った。中学生になると勉強も大変みたいだった。
これから1週間はこちらでお邪魔になる予定だ。
1週間、無事に済みますように。黒い機械も気になるけど、にわか友達の私達、っていうか、私ここにいていいんだろうか? そんな疑問が浮かんでは消えていく。
河野君のお祖父さんの家は地元の名士みたいで、広い敷地の日本家屋だった。オシャレな日本庭園には水も流れていて、時々『コンッ!』という竹筒の小気味よい音が響く。よく映画とかで見るやつだった。
高津君のお兄さんはすごく優しくて面倒見のいい人みたいで、男の子達に置いて行かれそうになる私を待っていてくれたりする。迷惑をかけている気がした。ごめんなさい。
着いて早々、釣りに行っているお祖父さんを迎えに浜辺にやってきた。男の子達はあっという間に海パンに着替えていた。
河野君のお祖母さんが「瑠璃ちゃんはどうする?」って言うからしっかりと首を振った。
「泳げないから」
そう言うとお祖母さんは笑いながら小さなシャベルとバケツをくれた。
「何か拾っておいで」
麦わら帽子をかぶって家の前の道を下っていくと、あっという間に浜辺に出た。プライベートビーチみたい。人は誰もいなかった。
海はどこまでも青くて、はしゃぎまくる男の子達を遠目に私は貝殻を拾っていた。
海に来たのは初めてかもしれない。お母さんは日に焼けるのが嫌だって言ってホテルのプールで暑いのにバスタオルにくるまっていた。ミノムシみたいで変だった。そんな人は他にいなかったものね。
「瑠璃ちゃん~」海から高津君が手を振っている。それに河野君が水をかけている。波は穏やかで水は透き通っていた。
「じいちゃ~ん」
河野君の声に顔を上げると向こうから歩いてくる人がいる。あれが河野君のお祖父さん? 2人連れだけどどっちだろう。
「すまん、すまん。待たせたな」
「じいちゃん。何か釣れたの?」
「いいや、今日はさっぱりだった。大地、明日は船を出すか」
「やったー! でかいの釣ろうぜ、なっ!」
河野君が私の顔を見るから思わず頷いた。
「大地、お前友達って、女の子か?」
「じいちゃん。瑠璃は男に見えないだろう? 目が悪くなったんじゃないか」
「あっ、いや、そういう意味じゃないがな」
お祖父さんはそう言いながら私の肩に手を置いた。
「大地は口は悪いがいい子じゃ。仲良くしてやってくれな」
そう言って肩をポンポンと叩いた。それから高津君兄弟に話しかけていく。「久しぶりじゃな。背が伸びたか?」なんて言いながら高津君のお兄さんの頭をなでていた。
中学生の頭をなでるって……。お兄さんは私と目が合うと照れくさそうに笑っていた。
お庭にはコテージみたいな木造の建物があった。
今日から私達はそのコテージで一週間暮らすらしい。
木で作られた山小屋風の建物は、まるで秘密基地みたいでテンションが上がる。
それぞれ一人部屋になっていて東京から来たという河野君のおばさんも1階のお部屋に泊まってくれるそうだ。子供達だけじゃ危ないからってね。
「加奈子よ。よろしくね」
そう言って笑うスラっとした美人。
河野君のおばさんは東京暮らしで、河野君のお父さんの年の離れた妹さんなんだって。海外と日本を行き来しているらしい凄い人だ。30歳なんだって。
なぜか、私に「お父さんには独身の弟とかいないかしらね?」なんて聞いてくるんですが? 知らないっていうか、「お父さんには、お姉さんがいるだけだと思います」
夜寝る前に皆で黒い機械をチェック。特になし。最近は指さし確認みたいな感じで、習慣になってきた。次の日は船に乗るとかで早めにお布団に入った。
「瑠璃ちゃん。起きた?」
部屋の外で呼ぶ高津君のお兄さんの声で目が覚めた。
「起きたら下で待っているよ」
「はーい」
寝ぼけ眼をこすりながら返事をすると、カバンの上に置いておいた黒い機械が光ったような気がした。
「お、お兄さん。来て!」
慌てて叫ぶと、お兄さんが驚いたように部屋に駆け込んできた。
「どうした!」
私が手に持っていた機械を指す。そこには文字が出ていた。
『ジンジャ』
何だろうと思うと、また文字が現れる。
『タバコ』
『カジ』
三つの言葉が順番に点滅すると、画面は静かになった。
こんな表示の仕方は初めてだった。
「えっ!」
お兄さんが驚いたように機械の画面と私の顔を交互に見る。
「これか?」
私は黙ってうなずいた。
あっ、私、寝巻のままだった。しかも髪には寝癖が付いたまま……。
(きゃぁ~!)
心の中で盛大に叫んだ。
次の投稿は明日になります。




