11 夏休み作戦会議
高津君の家は我が家の三倍はありそうな鉄筋コンクリート建てだった。
門をくぐると、高津君は玄関ではなく勝手口の方へ向かった。
「大きな家だね」
私が言うと高津君が笑う。
「お祖父ちゃん達も一緒だからね」
「二世帯なの?」
「そうだよ」
「まっ、うちよりは小さいな」
河野君が強がりを言う。絶対にこれより大きい家なんかじゃないと思う。こんなに大きな家、この辺じゃ見たことないもの。
私は「そうなの」と小さく言うと突っ込むのはやめておいた。お母さんが『男の子にはプライドがあるのよ』なんていつも言うから。
ご家族用のリビングに通された私達は高津君のお母さまにご挨拶をする。リビングが2つある時点でびっくりなんですけど。
「あら、あなたがさっちゃんの娘さんなのね」
さっちゃん? お母さんのこと?
「あの、母とお知り合いですか?」
「さっちゃんは学生時代の友人よ。瑠璃ちゃんだったかしら? お父さん似ね。お父さんはイケメンでしょう。モテたのよ」
そんな話は初めて聞いた。パンツ一丁でうちわ姿のお父さんに、イケメンなんて言葉は似合わない。
「はぁ……」
私の返答に高津君のお母さんは笑う。
「今日は皆でお夕飯を食べていってね。瑠璃ちゃんちにも連絡入れておくから」
そう言うと高津君のお母さんは行ってしまう。お夕飯か。知らないおうちで食べるのも緊張する。苦手なシイタケが出てきたらどうしよう……。
私の不安をよそに、今日あったことを高津君がお兄さん達に説明していく。
「へぇ、瑠璃ちゃんその機械見せてくれる?」
高津君のお兄さんに言われてカバンから機械を取り出すと渡した。いつの間にか高津家全員が私のことを名前で呼ぶようになっていた。これは諦めるしかなさそうだわ……。年上の人に田中って呼んでなんて言えるはずもない。
高津君のお兄さんはさっき助けた優一君と話しながら丁寧に機械を見ていった。
「ありがとう、不思議だな、つなぎ目がない」
そう言いながら私の手に機械を返してくれた。
「瑠璃は明日から塾行くのか?」
河野君に聞かれて首を振る。
「体験だけだから」
「なら、明日から夏休みの打ち合わせだ。幸助も、じいちゃん所に行く約束したからな」
そうだった。肩たたき100回の約束をしたんだったわ。
「大地の祖父ちゃん家ってどこだった?」
「和歌山だよ」
「はいっ? 日帰り無理だよね?」
私は固まった。和歌山だったの……?
お母さんに何て言おう……。
どうやって行くのかしら? あまり遠くには行ったことがなかった。
「まじか、塾の日程変更しないとな。母さんに相談する」
「幸助、約束しているんだったら俺からも母さんに頼んでおくよ」
「うわっ、兄さん助かる」
あっ、いいなぁ。うちの母もお願いしたい。
「その代わり、俺も混ぜてくれ。その機械が光ったら教えて欲しいんだ」
高津君が私の顔と、河野君の顔を交互に見た。
「瑠璃、いいよな」
私は頷く。その方が心強いもの。なんだか少し不安だったから。この機械は、良い知らせだけじゃない。危険を知らせることもある。判断を誤れば大変なことになるもの。
「うん。お願いします」
「よし、ライングループ作ろう」
お兄さんの言葉に私はまた固まった。
「あっ、瑠璃はスマホないから」
河野君の言葉に、お兄さんは一瞬驚いたように目を見開いたけど、それから頭をかいた。
「ごめん、ごめん。まだ小学生だものな。連絡は幸助か大地だな」
「すみません」
私は頭を下げる。お兄さんが頭を撫でてくれた。
「大地君のお祖父さんの家に行くのはうちの母から言っておいてもらうから。心配しないでいいよ」
そう言って笑う。
あっ、なんか顔に出ていたかしら。パンッと頬を叩いた。ちょっと恥ずかしい。
でも、男の子達と一緒に行くのも緊張する。子供だけだなんて、ましてや男の子達だし……。
どうする私……?
皆で囲むお夕飯は、ことのほか楽しかった。
グラタンにデザートのババロア。自家製のプラムジャムまで添えられていて、オシャレで、シイタケは出てこなかった。
「美味しい……」
私が感激していると高津君のお母さんは嬉しそうに微笑んだ。
「女の子もいいわね。うちも欲しかったのよ。赤ちゃんの時は幸助にスカートはかせたりしてね」
「母さん!」
高津君の声が飛ぶ。
「あら、ごめんなさい。幸助見せないから大丈夫よ」
「見せない?」
「母さん! 瑠璃ちゃん聞かなくていいから」
「あらあら、この子ったら……」
「瑠璃、遅くなるから送っていくぞ」
河野君が立ち上がる。
「送るって、いいよ近いから」
「あら、ダメよ。車出すからみんな送っていくわね。優一君はどうする?」
「あっ、僕も今日はもう、お暇します」
「じゃあ行きましょう。瑠璃ちゃんちからね」
高津君のお母さんの運転で家まで送ってもらった。
玄関の前まで来るとお母さんが中から出てきて高津君のお母さんと挨拶を交わしていた。知り合いって本当だったんだ。長くなりそうだったから先に中に入った。
「瑠璃、明日な」
河野君の言葉に手を振った。なんだか友達みたいだ。不思議な気がした。しばらくして家に入ってきたお母さんに呼び止められた。
「河野君のおじいさんの家に行くんですってね。よかったじゃない」
「えっ、あ、うん。温泉はいつ行くの?」
お母さんは少し困ったようにリビングの方に目を向けた。お父さんがテレビを見ている。
「お父さんが忙しいみたいなのよ。銀座に新しくビルがオープンするんだけどね。お手伝いがあるみたいなのよ」
「お母さんも忙しいの?」
「ごめんね。お休み取れなくて」
いつものことだもの。
「ううん。大丈夫。お友達と宿題するから」
頭の中には黒い機械が浮かんでいる。宿題というよりは機械に振り回されそうな気がした。
お母さんは私の頭に手を置くとニッコリとほほ笑んだ。
「河野君もいい子だわ。礼儀正しいし、それに高津君のところなら安心だから、よろしく言っておくわね」
河野君って、猫かぶるんだ。違うんだけどなぁ……。まっいいか。
今年の夏は賑やかになりそうだ。
そんな予感がした。




