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剣聖ロップスの伝説  作者: 未羊


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第92話 暴走魔物と刀使い

 クワイエ子爵領の領都散策中、お昼を食べたと思ったら、突然発生する魔物の襲来。カオルは居ても立ってもいられずに、街の外へと走っていった。

 前方からはけたたましい足音と砂埃が舞い上がっている様子が見て取れる。

 どう見ても普通の様子には見て取れない。カオルはそっと左の腰に下げている刀に手をかける。


「抜兎術・空っ!」


 一閃を放ち、風魔法を発動する。

 その瞬間、視界が良好になり、魔物の姿が露わになる。


「なんだ、ありゃ」


 カオルの視界に入ったのは、羊のような牛のような、妙な妙な魔物だった。


「ブルシャーフだ!」


 カオルの後ろにいた兵士が叫んだ。

 だが、名前だけではよく分からない。しょうがないので、カオルは突進を止めるために二度目の構えに入る。


「抜兎術・地!」


 殺していいのか分からないので、とにかく動きを止めることを優先する。

 そのため、続いて放ったのは土魔法だ。

 ブルシャーフと呼ばれた魔物の行く先に、高さ五メートルほどの土の壁を発生させる。厚さも二メートルほどあるので、簡単にはぶち破れまい。

 目の前に急に現れた土壁だが、ブルシャーフたちの動きは止まらない。

 土壁にそのまま激突して、ものすごい衝撃が走っている。その衝撃の強さには、カオルも思わず顔を引きつらせるくらいである。


「すげぇ……。あの数の魔物たちを食い止めている……」


 土壁の強さには、報告にやってきた兵士も驚きを隠せなかった。


「悪い。一体何があってこんなことになっているんだ?」


 どうにか時間稼ぎをできているとあって、カオルは兵士に事情を確認している。

 それにしても、あれだけ暴走する魔物たちに追いかけられて、この兵士はよく平気だったものだ。


「よく分かりません。私はこの先にある見張り台にいたのですが、上がって遠眼鏡で見張りをしていた仲間から知らされて、領主様に助けを求めに来ただけです」


「つまり、その西側の先で何かが起きているってわけか。こりゃ、放っておけないな」


 兵士から話を聞いたカオルは、ぎりっと歯を食いしばっている。

 カオルの出した土壁は、まだものすごい衝撃を受けており、このままでは破られかねないと思われる。

 詳しくは聞いていられないと判断したカオルは、自分が発生させた土壁へと走っていく。

 ロップヴォーパルの体の跳躍力で、カオルは土壁の上へと飛び乗る。正直、ここまで身体能力が高いと思っていなかったカオルは、驚きの表情を浮かべている。

 だが、ぼさっとしている状況ではない。何が原因で、西側からブルシャーフたちが走ってきたのかを突き止める必要があるのだ。

 しかし、じっと見つめようにもさっきからブルシャーフが土壁に激突しまくって揺れているので、集中して眺めることができない。


「……悪いが、ちょっと眠っててくれ」


 カオルは軽く跳び上がって、ブルシャーフの群れに向けて抜兎術を放つ。


「ブメェェ……」


 興奮して暴れるブルシャーフの群れが、カオルの抜兎術一発で大部分が気絶してしまう。このことがあってか、残るのブルシャーフは恐怖で冷静さを取り戻していっている。


(おっ、静かになったな。これなら、ゆっくりと向こう側を見られるな)


 たった一発でブルシャーフを静かにさせてしまったカオルは、冷静に西側を眺めている。だが、ロップヴォーパルの視力をもってしても、その向こう側を見ることはできなかった。

 元の場所に戻ろうかと思った瞬間だった。

 落ち着きを取り戻したブルシャーフたちが、なんとカオルの方をじっと見つめている。その目はまるで何かを訴えているかのようだ。

 戻ろうと思ったカオルだったが、同じ獣系の魔物がベースになっているせいか、他人事のようには思えなかった。仕方なく、ブルシャーフの群れの中に飛び降りている。


「まったく、どうして放っておけないんだろうな」


『ああ、強い魔物さん、助けて下さい』


「え?」


 降りたところで、急に声が聞こえてきてびっくりするカオルである。

 だが、周りを見てみても、そこにいるのはブルシャーフのみ。つまり、この声はブルシャーフの声ということになる。


「もしかして、今話しかけてきたのはお前らか?」


 カオルが近くにいた気絶していないブルシャーフに声をかけると、なんということだろうか、ブルシャーフがこくりと首を縦に振った。

 本当にブルシャーフが話し掛けてきたのである。

 信じられない気持ちではあるものの、カオルはブルシャーフの話を聞くことにする。それで問題が解決するのであるのなら、その方がいいに決まっているからだ。


「分かった。とりあえず話を聞かせてくれ。何があって、こんな風に暴走をしてきたのかをな」


『私たちの話を聞いて下さるんですね、ありがとうございます』


 ブルシャーフたちがカオルに群がってくる。牛の頭に羊の体を持つブルシャーフたちはカオルの身長くらいの体高がある。なので、集まられるとはっきり言って怖いものだ。

 だが、話し合いで解決するとあれば、カオルは我慢するしかない。

 もう一度ブルシャーフたちを落ち着かせて、カオルはその話をじっくりと聞くことにしたのだった。

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