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剣聖ロップスの伝説  作者: 未羊


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第90話 クワイエ子爵との駆け引き

 食事に呼ばれたカオルたちは、クワイエ子爵邸の食堂に移動する。

 部屋に入ると、すでにクワイエ子爵たちは席に着いている。長いテーブルの正面にいるのがクワイエ子爵で、右側には息子、左側には夫人と娘が座っている。着いた時はさらりとしか確認できていなかったが、息子は二人、娘は一人とこの世界の貴族からしたら理想的ともいえる家族構成になっていた。


「クワイエ子爵様、お待たせして申し訳ございません。お呼び出しに応じて参りました」


「ああ、気にしないでくれ。それよりも席に着いてくれないかな」


「それでは、お言葉に甘えさせて頂きます」


 カオルはクワイエ子爵の正面、その左右に陣取るようにライツたち五人が席に着く。


(やっぱり俺が子爵の正面に座るのか。一応、この団体のリーダーだからな)


 席配置に少々疑問を感じたカオルではあったが、オーロイス伯爵の代理人権限を持っているのは自分なので、この位置になったことには納得がいっているようだ。

 ひとまずは食事を始めることにする。

 せっかく作った料理が冷めてしまっては、もてなしの意味がないのでしょうがない。

 しばらくの間は黙々と食事をしている。

 だいたい半分くらいは食べ終わっただろうか。その頃になると、クワイエ子爵がぽつりと話を切り出した。


「それにしても、なにゆえオーロイス伯爵殿ではなく、代理人を寄こしたのですかな」


 ずいぶんといきなり切り込んでくるものだとカオルは思った。


「その質問にお答えする前に、クワイエ伯爵様は俺たちの領地について、何か伺っておいででしょうか」


 カオルは淡々と質問を返している。この確認をしないことには、まともに答えるのは危険だと判断したのだろう。ロップヴォーパルの勘がそう告げたのだ。

 質問に答えずに質問を返されてしまったクワイエ子爵だったが、あまり嫌そうな表情はしていない。すぐに答えなかったことはいい判断だと評価していると見られる。


「見た目の割に、ずいぶんと頭の回るウサギじゃないか」


「お褒めいただき光栄でございます」


 答えてはいないが、褒める言葉が出たので、カオルは素直に返しておく。


「イダンカ帝国から攻撃を受けたとは聞いている。正直食い止めてくれて助かったとは思っているよ、突破されれば、次の標的は我々だろうからね」


 クワイエ子爵はほっとした表情を浮かべながら話している。やはり、カオルの睨んだ通り、帝国からの攻撃を受けたという情報自体はいっていたようだ。

 返答を聞いたカオルは、ようやく安心して最初の質問に答えることができる。


「旦那様は、その戦闘の復旧の指示にあたっております。俺たちは動けない旦那様の代わりに、戦闘の際に破壊された橋の影響について調査にやってきたのです」


「橋が壊されたというのは本当の話だったのか」


「はい、半分ほどが爆破されました。今は王都から職人がやって来ておりますので、もう二十日ほどあれば完全に修復が終わるかと思われます」


「そうかそうか。ならば、我が領への影響はそう多くはないだろう。帝国から攻撃を仕掛けられたと聞いた時には、我々は生きた心地がしなかったよ」


 カオルの報告を聞いて、クワイエ子爵は本当にほっとした表情を浮かべている。

 確かに、子爵であれば資金面の問題もあり、それほど兵力をそろえられないだろう。となれば、北部へ侵攻されれば、そのまま蹂躙されてしまう可能性が高いというわけだ。


「北隣のヒルランド侯爵家を頼ろうにも、そちらはエランペ皇国とずっと睨み合っているしな。限界というものがある。よく食い止めてくれた、感謝するよ」


「いやまぁ、みんな優秀でしたからね」


 感謝を述べるクワイエ子爵に対して、カオルは頬をかきながら謙虚な風を装っている。


「謙遜するな。報告ではウサギの魔物の姿をしたメイドが帝国兵を片っ端から吹き飛ばしていたと聞いている。そんな特徴を持つ者が複数いてたまるものか。君で間違いないわけだね」


「あはは、そ、そうですね……」


 あまりにも特徴的すぎる自分の姿を、これほど恨めしく思ったことなどあるだろうか。ごまかそうとしても秒で看破されてしまうカオルである。


「とりあえず、影響は少ないわけですね。では、旦那様にはそのように報告させていただいます」


「信じられないというのなら、うちの騎士を同行させて領地も見ていくといい。我が領地が平和なのは、オーロイス伯爵の力添えもあってのことだからな」


「承知致しました。では、明日にでも街を見させてもらいます」


 なんとか穏便に話し合いが終わる。

 ダイゴの街で聞いた懸念は、子爵の見立てでは起きるような可能性はないらしい。この件はどうやら杞憂に終わりそうである。

 それでも安心はできないと感じたカオルは、翌日に領都などを見せてもらうことを約束した。


 どうにかこうにか、クワイエ子爵邸における初日を無事に終えたカオルは、部屋に戻るとメイド服を脱いで寝巻に着替える。

 さすがのカオルも子爵との話で緊張したせいか、その解放感からつい大きなあくびをしてしまう。

 翌日には子爵領内を見て回ることになる。カオルはしっかりと備えるために眠気を感じたことでさっさと眠ってしまったのだった。

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