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剣聖ロップスの伝説  作者: 未羊


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第85話 屈服と忠誠

 正式に帝国の間者であった下級文官を屋敷に雇い入れたオーロイス伯爵は、夕食の席に四人を呼んで一緒に食事を取らせる。

 オーロイス伯爵の視線にびくびくとした態度の四人だが、ライツに背中を叩かれれば、しゃんと背筋を伸ばしている。


「とりあえず座ってくれ。一応いろいろ洗いざらいを一度吐いてもらったが、私としてはまだ聞いておきたいことがあるのでな」


 目の前に座るオーロイス伯爵は、ものすごく厳しい視線を四人に向けている。

 普段は温厚で知られるオーロイス伯爵のこれだけの厳しい表情は、なかなか見たものではない。付き合いの短いカオルとライツだって、そんなに見た覚えがない表情である。


「今回、このサズー川へと攻撃を仕掛けた理由は、何なんだ?」


「それは知らない。上部から作戦に加われと言われて、俺たちは言われるがままに参戦しただけだ」


「逃げきった連中の方がよく知っている。私たちは捨て石にされただけなんだ」


 ぎろりと睨まれながらも、四人は口々に知らないと証言している。これだけ言い切るあたりは、本当に知らないと見た方がいいのだろう。

 だが、これには別のところから証言が出た。いわずもがな、ライツだ。


「サズー川の左岸の地域は、俺たちの国イダンカ帝国と陸路でつながっている。実際、こっちの街から南に下っていけば、イダンカ帝国に到着できるわけですからね」


「つまりは、ライツたちはこの左岸地域を全部自国領土にするためにやってきたってわけか?」


「その通りだよ、カオル。で、リバーファングを持ち込んだのも、俺と一緒にやってきた連中だ。下流域にこっそりと監視所を作って、そこで様子を見ていた。多分、今行ってももうなくなっていると思うけどな」


 説明に反応したカオルの言葉を、ライツは強く肯定している。さすがは下っ端とはいえ、実力行使を行う側である。作戦の内容はかなり伝えられていたようだ。

 下級文官たちが驚いている顔をしている。つまり、本当に知らなかったということだろう。

 この状況には、オーロイス伯爵も厳しい表情を浮かべている。


「ライツ。お前に改めて聞くが、なんでこの時期に戦争なんて仕掛けてきたんだ?」


 オーロイス伯爵は、ライツに問いかけている。


「多分、王国の戦力が落ちたと考えているからでしょうね。今から何年か前だったかですかね。王国で名の知れた女魔法使いがいなくなったって話があるじゃないですか」


「ああ、確か、名前はプレセアだったかな。国家反逆罪で指名手配されていたと聞いている。冒険者ギルドには長らく貼り紙がされていたな。先日はがされていたが」


「プレセア?」


 オーロイス伯爵の口から出てきた名前に、カオルが強く反応している。

 以前に伯爵たちとは話をしていたが、改めて名前が出てくると、カオルはどうしても反応してしまう。普段は師匠と呼んでいたこともあってか、魔女の本名にはまだまだ慣れないようだ。


「実は、この戦争はそのことと関係しているんですよね。強力な魔法使いがいなければ、王国の戦力は大きく落ちているだろうということでね」


「なるほどな。ずいぶんと甘く見られたものだが、カオルがいなかったらその目論見通りに事が運んでいた可能性は否めない」


 ライツの話す内容に、オーロイス伯爵は考え込みながら自分の推測を語っている。

 実際、アイーデ将軍はカオルと互角に渡り合った人物だ。他の騎士たちの実力からすれば、アイーデ将軍一人の手で街が陥落していた可能性が考えられるのである。今思うと、なんとも恐ろしい話である。


「えっ、アイーデ将軍が撤退なされたのって、まさか……」


「そうだよ。このカオルがアイーデ将軍と一騎打ちをやって勝ちやがったんだ。牢屋で話を聞かされた時は、俺は膝から崩れ落ちたさ」


 四人の下級文官の驚きを見て、ライツは自分の過去の話を恥ずかしげもなく話している。

 こういった態度からしても、カオルが打ち倒したアイーデ将軍の強さがよく分かるというものだ。


「やっぱりすごいやつだったんだな、あのおっさん」


 当のカオルはこの通りの反応である。

 だが、このことは下級文官四人の心を折るには十分だった。


「頼むから殺さないで下さい」


「これからはオーロイス伯爵様のために尽力しますから」


 カオルを見て震えながら、命乞いをしている。

 これには、カオルはどういう反応をしていいのか困っていた。


 だが、この話を聞いて、カオルは自分の師匠のすごさというものを改めて実感していた。

 隣国のイダンカ帝国が攻め入れないように抑止力となっていたとは、さすがに鼻が高いというものだ。

 同時に、そのプレセアをお尋ね者にしてしまったネンインへの恨みが強まっていく。

 現在の自分は、まだしがない伯爵邸で働くメイドにしか過ぎない。今の状態ではネンインへと恨みを晴らすには、立場が弱すぎるというものだ。

 一度は接近したことがあるものの、あの時はまだ恨みを晴らす相手として認識できていなかった。カオルとしては悔しい限りである。


 こうして、四人の下級文官を交えた夕食は無事に終わった。

 有益な情報が手に入ったと、オーロイス伯爵は満足そうである。

 食事の最後に、四人の文官は改めてオーロイス伯爵に忠誠を誓い、イダンカ帝国から寝返る。

 そう、カオルとライツの同僚が正式に増えた瞬間なのであった。

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