第84話 教育と更生
ライツの説得と、カオルの脅しにより、捕まった帝国の下級文官たちはオーロイス伯爵領の領都で働くことになった。
本来ならば攻め入ってきた敵国の人間なので、それなりの処罰を与えるものだろう。だが、この文官たちは頭を地面にぶつけるような土下座を見せてきたので、困ったオーロイス伯爵は好きにしろと許したというわけだった。もちろん、それなりに監視がつけられることになる。信用がないのだからしょうがない。
「で、俺がお前らの面倒を見ることになった」
「げぇ、ロップヴォーパルぅっ!」
きちんとした服装に着替えた下級文官たちは、目の前に現れたカオルに対して大騒ぎである。
次の瞬間、屋敷で先にお世話になっているライツからげんこつが落ちる。
「あだっ!」
「ら、ライツ、何をするんだよ」
「いいから黙れ。お前ら四人は、今日からここで働くんだ。俺たちは先輩だから、逆らうんじゃねえぞ」
殴られた四人は、ライツに対して恨みがましい視線を向けている。とはいえ、言われた通りライツたちは先輩にあたるので、逆らうに逆らえない。というのも、隣にいるカオルがにこやかに刀に手をかけているからだ。逆らったら殺される。ロップヴォーパルという種族のことも相まって、恐怖でしかないというわけだ。
「ちょうど伯爵様は、戦争の後のごたつきとも手伝って、人が欲しいと思っていたところなんだ。罪滅ぼしだと思って、しっかりやってくれよな」
ライツにこのように言われると、四人は互いに顔を見合ってから、渋々という感じで首を縦に振っている。実質捕虜という立場なのに、四人はまったく理解していない。
その時、カオルは笑顔のままで刀をそっと抜いている。
「なあ、ライツ」
「なんだよ、カオル」
急に呼ばれたものだから返事をするライツだが、カオルの右手を見てぎょっとした顔をしている。
すでに刀がしっかりと抜かれているのだから、驚いて当然だ。
「おいバカやめろ。こいつらの態度が気に入らないのは分かるんだが、勝手なことをすれば伯爵様に叱られるぞ!」
「分かってるって。こいつらが自分たちの立場を理解しねぇから、ちょっくら脅すだけだよ」
カオルは笑っている顔をしているが、目も声も笑っていない。なので、ライツはとにかく慌てて辞めさせる。
「ホントにやめろ。この態度を更生させるのが俺たちの役目だろうが。頼むから、メイドのくせにやる前から仕事を放棄しないでくれ!」
必死のライツの説得が功を奏したのか、カオルは刀を鞘に納めている。
分かりやすいくらいに音を立てて納めていたので、その瞬間に四人の文官は体をびくつかせていた。
「しょうがねぇな。てか、俺はメイドの服装を着ているが、それほどメイドの仕事はできねぇぜ? むしろ、この刀を使ったことの方がメインだからな」
「だから、それをしまえ。お、おい、早速始めるからな。お前らにはまず信用がないから、雑用中の雑用から始めるからな、覚悟しておけよ」
「わ、分かった……」
あまりにもカオルの雰囲気が怖いので、四人はライツの言葉にもまともに反応できる状態ではなかった。
だが、仕事を教えてこなしてもらわないことには、この四人はただ飯食らいのお荷物である。
帝国にいた頃も下っ端でろくな仕事をさせてもらえていなかった。そういう過去があるので、ちゃんと教えればきっと仕事をこなしてくれる。ライツはそう考えて、とにかく仕事を教えることにした。
カオルの目が光る中、ライツの指導で四人は仕事を覚えることになる。
もちろん、帝国からやってきたスパイである以上、機密に関わるような仕事には携わらせてもらえない。それこそ、建物掃除とか本当に下っ端の仕事からのスタートである。
四人もこういう仕事は嫌だろうが、命を助けてもらった上に、住まわせて食事も食べさせてもらっている。恩義がある以上、きちんと教えられたことを必死に覚えていっている。どうせ帝国に戻ったところで、今やっていることと大して変わらない仕事しかさせてもらえないのだ。四人は歯を食いしばって仕事をこなしていく。
あまりにもさっきまでとの態度が違うので、カオルも感心した様子で、四人の仕事っぷりをずっと見守っている。
「そこは違う。こうするんだよ」
間違った仕事をしていれば、カオルはすかさず誤りを正している。
カオルの顔を見た瞬間に四人の誰もが顔を引きつらせているが、明らかにさっきまでとは態度が違っていた。おとなしく聞き入れて、教えられたとおりに仕事をこなしている。
「ご苦労。これで今日の文の仕事は終わりだ」
四人はすっかり疲れてしまっているようで、その場に座り込んでいる。
やはり、元が文官ということで、体力はあまりなさそうだった。
「それじゃ、同郷のよしみってことで、俺があとは見ておきます。カオルは伯爵様に報告をお願いしますよ」
「分かった。変な気は起こすんじゃねえぞ」
「それはしないから安心しろ。ちゃんとこいつらをこっちに引き入れるからよ」
「はいはい。俺の地獄耳を忘れないようにな」
カオルは釘を刺してオーロイス伯爵へと報告へ向かう。
カオルが出ていくと、ライツは四人へと視線を向けてると、これから四人が使うことになる部屋へと案内するのだった。
かつては帝国の下級文官だった四人は、伯爵邸でどう生まれ変わるのだろうか。これからが見ものである。




