第81話 シーディスと謎の女性
突然声をかけてきた魔法使いのような服装に身を包んだ女性に、シーディスは完全に目を奪われてしまっている。
見た目はどう見ても少女のようにしか見えないのだが、その全身からなんともいえないカリスマ性があふれ出ているのだ。
(な、なんなのですか。なぜ、目が離せないというのですか)
思いもよらぬ状況にシーディスは動揺を隠せないでいる。
「やれやれ、魔法使いがその様に動揺を見せていてはいかんぞ。いかなる時も冷静でいるのが、魔法使いの務めだというのにな」
「こ、この言葉は……」
シーディスは震えている。
目の前の女性が言い放った言葉は、シーディスが仕え、師匠として尊敬しているネンインもよく使う言葉だからだ。それゆえ、シーディスは畏怖の念をもって目の前の女性を見ている。
「ふむ……。お前さんからはあの男の力を感じるな」
女性はちらりと店員の方へと視線を向ける。何を言いたいのかをすぐに察知した店員は、あまり使うことのない個室へと二人を案内してくれた。
だが、シーディスは個室に移動してからも、目の前の少女のような姿の女性に対して強く出られないでいる。下手に手を出そうものなら、間違いなく返り討ちにされそうだからだ。
「私の力を、正しく感じ取れてはいるようだな」
「それほどの強大な魔力を有しておれば、大抵の魔法使いは感じ取れると思うのですけれどね」
女性の言葉を受けて、シーディスはそのように言い返している。さすがに頭の回転はいいようだ。
「はっはっはっ、さすがは私のライバルであるあの男の弟子よな。心配はしたが、あの男もちゃんと弟子を育てておるのだな」
シーディスの態度を見て、女性は大声で笑っている。
弟子という言葉を聞いて、女性が言うあの男というのは、シーディスが仕えるネンインのことだろう。だが、あの男などという抽象的な言い方をしているのが気になるシーディスである。
訝しそうに自分を見つめているシーディスの視線を感じ、女性は複雑そうな気持ちでシーディスに視線を返している。
「やれやれ、あの男の弟子であるのなら、私の魔力くらいすぐに見抜くと思ったのだがな。ちょっとばかり買いかぶりすぎたか?」
女性はじっとシーディスの顔を覗き込んでいる。
あまりにも凝視をしてくるために、シーディスは慌てて顔をそらしている。
「おぬし、あの男に弟子入りしてから何年経つ」
どうにも納得がいかないのか、女性はシーディスに質問をぶつけることにした。
本当なら答えるべきではないのだろうが、女性から放たれる魔力気圧されてしまっているシーディスには、答えないという選択肢は取りづらい。少し怯えるような態度を示しながら、シーディスは質問に答えることにした。
「私は、五年ですね」
シーディスから出てきた素直な答えを聞いて、女性は何かが納得いったようだった。
(五年前に弟子となったのなら、私を知らなくても不思議ではないか。いや、手配書を見ているはずだから顔は知っている方が自然なのだが……?)
女性は納得しつつも別の疑問が出てきて、ちょっと混乱しているようである。
「何をぶつぶつ言っているのですか。話があるのならばさっさとしたらどうなのですか!」
シーディスは少々我慢が利かなくなったのか、女性に対して声を荒げている。
ところが、女性はその程度の怒鳴り声などどこ吹く風。まったく気にしないで考え込んでいる。
「用事がないのなら、私は去りますよ。同行人を待たせてしまいますからね」
「ああ、すまないな。それにしても、なぜ王都で働くような貴殿が、このような辺境までやって来ているのだ」
立ち去ろうとする素振りを見せるものだから、女性は慌てて反応をしている。そして、すかさず帰さないとばかりに質問を投げかけている。
シーディスは驚いている。
確かにシーディスの身なりはそれなりに整っているわけだし、それなりの身分であることは分かるだろう。
だが、それを王都で働くとピンポイントで指摘しているので、驚いているというわけだ。
シーディスの女性に対する警戒心が一気に強まる。
「まあ、そんなに警戒されるのも当然よな。あやつの弟子であるなら、なおさらその方が正しい反応だ」
「さっきからずっとわけの分からないことを……。一体お前は何者なのですか!」
思いっきり指を差された女性は、にやりと笑みを浮かべている。
その笑みが出た瞬間、シーディスに悪寒が走っている。
こいつは怒らせては絶対にいけないやつだと察せるほどの強い悪寒である。
人差し指を突き出したまま、シーディスは顔を引きつらせて震えている。
「私のことをライバル視しておきながら、罠にかけて追い出せたと思ったら油断をしておったようだな。ネンインらしい大ポカではないか」
「師匠のことを知っているのか?」
ネンインの名をはっきり出すと、シーディスはさらに食いついている。この反応を見た女性は、満面の笑みを浮かべてシーディスに顔を向ける。
「知っているも何も、私とネンインはライバル関係だと言うたであろう? 人が研究に構えけているところを、妙なでっち上げの罪をなすりつけて追い出しおってからになぁ。だが、弟子は真っすぐ育っているようで安心したぞ」
「お、お前は、まさか……」
「名は聞いたことくらいはあるであろう。私はプレセア。魔女と名乗っているしがない魔法使いよ」
驚くシーディスに、魔女は自分の名前を名乗るのであった。




