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剣聖ロップスの伝説  作者: 未羊


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第76話 魔法使いと冒険者

 その頃、ミリスリーナ伯爵の治める街にとある人物がやって来ていた。


「まったく、ネンイン様のお申し付けとはいえ、なぜ私がこのような真似を……」


 旅人を装ったその男は、ネンインの部下であるシーディスである。その傍らには男女一組が一緒にいる。

 どうやら、ネンインが仕掛けたカオルの調査を行う一行のようだ。その手の依頼を受ける連中のところに行ったのだが、シーディスはネンインに言われて同行することになってしまったのである。

 はっきり言ってこの状態は、シーディスにとっては意外で不服のようである。

 なぜなら、このシーディスもほとんど王都暮らしをしている人間ゆえに、あまり王都の外に慣れていなかったからだ。このような形とはいえ、王都を離れずにいられなかったことは、彼にとってかなりの不満となっているのである。


「シーディス様、あまりそのような顔をなさらないで下さい。今の私たちは冒険者ですから、そのような態度を取っていては怪しまれます」


「まったくですよ。今回のことを成功させれば、たんまりと報酬がもらえるからって引き受けたんです。そんな態度を取られては、俺たちも仕事がやりづらいですよ」


 依頼を受けた男女がシーディスに意見をしている。これにはシーディスは嫌な表情を浮かべている。

 ネンインほどではないものの、シーディスも魔法使いとして優れているので、少々ばかりプライドが高い。そのためにこんな態度を取ってしまいがちなのだ。

 王都暮らしをする彼にとってこのような状況は屈辱ゆえに、依頼を出した二人の同行者に対しても、ずいぶんと高圧的な態度を見せている。集団行動をする状況では、とてもじゃないが好ましい態度ではない。雰囲気は最悪である。


「ええい。なぜ私がお前たちのような連中に指図されなければならないのですか。くそっ、オーロイスの領地まで行こうにも、通行制限のせいで足止めを食らって……。ああ、くそっ!」


 シーディスはかなり苛立っているようだ。

 そう、ミリスリーナ伯爵のところまでは実に順調だったのだ。

 だが、ミリスリーナ伯爵の街とオーロイス伯爵の街との間では、橋の復旧工事が行われており、その関係で橋の通行には制限がかけられている。それに伴い、一日の通行量が半分近くまで陥っているために、現在は順番待ちとなってしまっている。

 自分の立場を使えば割り込めるかもしれないが、オーロイス伯爵たちに自分たちの正体が割れるわけにはいかないので、やむなく順番待ちをしているのである。

 そんな状況ゆえに、シーディスは苛立ちを募らせているというわけだ。


「まあまあ、落ち着いて下さいよ、シーディス様」


「そうですよ。こういう時こそ、ここまで持っている情報を再確認して、どのような行動を取るべきか考えませんと」


「うるさいですよ!」


 何とかしてなだめようとする二人の冒険者だが、プライドの高さが邪魔してこのありさまである。

 二人はやむなく、自分たちだけで依頼の情報を確認することにした。


「えっと、今回の依頼で受けたのは、カオルとかいううさ耳メイドの素性調査だったわね」


「ああ。現在はオーロイス伯爵のところでメイドをしているということだったな。どこで生まれてどのように育ってきたかというのを調べるんだったな」


 完全にヒステリックを起こしているシーディスを放置して、二人の冒険者はテーブルを囲んで話をしている。

 自分たちのここまで仕入れた情報では、先日の戦闘の報告のためにオーロイス伯爵たちと同行している変わったメイドという情報しか得られなかった。実際、カオルはそのような行動しか取っていないので、これ以上の情報を得ることはできなかった。


「ここまでの情報が乏しすぎる」


「となると、川を渡ってからってことになるわね」


 テーブルの上にマサエウ王国の地図を広げながら、二人の冒険者は川の方向へと視線を向けている。

 二人が至った結論から、完全に意識が川向うへと向いたからである。


「なんにしても、これからの行動は、あれをどうにかしなきゃいけないってことだよな」


「お城に住まわれている魔法使いであるネンイン様の部下の方でいらっしゃるから、無下にできないところがつらいわね」


「だな。変に報告をされたら、俺たちの首がこうだ」


 男の方の冒険者は、引きつった表情で自分の手を首に当てながら話している。それだけちょっと皮肉ったということだろう。

 女の方の冒険者も笑っているが、実はまったく笑えない話である。


「今日はもう渡れないだろうから、ひとまず休むことにしようか」


「そうね。それじゃ、私は部屋に戻るわね」


「ああ、また明日な」


 話を終えると、女の冒険者は宿の別の部屋へと戻っていく。

 二人だけなら同じ部屋で済ませるところだが、シーディスがいるために念のための警戒のため、部屋を分けているようだ。

 女の冒険者を見送った男の冒険者だが、寂しそうな表情ばかりはしていられない。自分が同室にしているシーディスの相手があるからだ。

 さっきからずっとイライラしているために、はっきりいって居心地が悪すぎる。


「シーディス様、明日には川が渡れるでしょうから、もう備えて休みましょう。一度落ち着かれた方がいいですよ」


「うるさいですね。言われなくても分かっています」


 シーディスは不機嫌バリバリの返事をしてくる。さすがにこれには男の冒険者も呆れるばかりだ。

 こんな調子で、ネンインからの依頼を無事にこなせるのか、甚だ疑問というところだ。

 路銀はまだ余裕があるので、男の冒険者は余計な体力を使わないために、この日は休むことにした。

 だが、シーディスのヒステリックな独り言に、なかなか休めなかったのだった。

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