第72話 街と戦後処理
いろんな人物に目をつけられたカオルは、オーロイス伯爵の治める街にまで戻ってくる。
サズー川に架かる橋は、相変わらずカオルの使った土魔法の応急処置でつながっている状態だ。川幅がかなりあるとはいえ、所々で川の流れを遮っているので、いつまでもそのままというわけにはいかなかった。今回、王国からの支援を取り付けられたので早いうちに修繕を行う予定である。
街に戻ってきたオーロイス伯爵は、自分の部屋に腰を落ち着ける。
「ふぅ、戻ってこれたな」
「お疲れ様でございます、旦那様」
伯爵の言葉に、カオルは使用人らしく声をかけている。
二人はそろって、ライツの方へと視線を向ける。
「うっ、なんですか。そろいもそろって」
ライツは唐突に視線を向けられて、思いっきりたじろいでいる。
「なんでそうなるか、自分の胸に聞いてみたらどうなんだよ」
「なんで君を、王都まで連れて行ったか分かるかな?」
二人揃って、理由をはっきりといわない。
とはいえ、ライツもそこまで頭が悪いわけじゃない。二人のいいたいことはすんなりと理解したようだ。
「はあ、信用がないってことですよね。そりゃまあ、俺は敵国の人間だったわけですからね。うぐぐぐ……」
なぜかライツは不服そうだ。
「まあ、そういうな。信用がないからこそ、君を私のそばに置くのだかな。当面は、カオルと一緒に行動してもらうぞ」
「分かりましたよ」
オーロイス伯爵の指示を、ライツは意外とすんなりと受け入れている。
少し休んだオーロイス伯爵は、街の現状をすぐに収集して回っていた。報告に来てもらうのはもちろん、自らも出向いて情報を集めている。
イダンカ帝国との戦闘は街の外で終わったこともあってか、街の中にはほとんど被害がない。ただ、街道には戦闘の跡が残っているために、その影響は当面あるということだった。
特に、南側の街道は穴ぼこだらけで、埋め戻した上で地面を平らに直すのにまだ手間取っているようだった。
その話を聞いたカオルは、自分にやらせてもらえないかと進言してきた。その申し出に、オーロイス伯爵もライツも首を傾げている。ただ、伯爵はその許可を出していた。
そんなわけで、すぐに南側の街道へと向かう。
「うわぁ……。結構日数が経っているのに、まだ荒れてますね」
「話によると応急処置はしたそうなのだがね。それだけ騎馬隊と魔法隊が暴れたということだろう」
「いや、なんだかすみませんね」
カオルとオーロイス伯爵が話していると、同じイダンカ帝国の人間としてライツが責任を感じているのか謝っていた。まあ、間者として潜り込んでいたから、ライツのせいであることも間接的には間違いではないだろう。というわけでカオルたちはスルーしている。
とりあえず、カオルはまだでこぼこの残る地面を目の前にして、ゆっくりと歩み出ていく。
足を開き、腰を落として、左の腰に差している刀へと手をかける。目を閉じて淡々と呼吸を整えながら、精神を集中させていく。
「抜兎術……地っ!」
目を見開いたかと思うと、抜兎術を発動させる。カオルの魔法はほとんどが刀を介した魔法なのでしょうがない。
鋭く振り抜かれた刀から魔法が発動し、目の前の地面へと放たれる。
刀から放たれた魔法は、目の前の地面を次々とまっ平らにしていく。
「おおっ、これはすごいな」
「マジでバケモンだよなぁ、この魔法は」
広範囲の地面がきれいに整えられていく様に、その様子を見ていた伯爵たちは驚きを隠せなかった。
なんといっても、あれから二十日ほどは経っているというのにきれいにできなかった地面なのだ。それがたった刀の一振りで解決しているのだから、驚くなという方が無理なのである。
「ありがたいな、カオル」
「いえ、この程度どうってことはありませんよ。それにしても、いろいろと調査をしているとはいっても、ここまで修繕が遅れているっていうのは気になりますね、旦那様」
「まあ、そうだろうな。ライツ以外にも間者がいくらか紛れ込んでいたみたいでね。その割り出しにも時間を割かざるを得なかったようだよ」
「なるほどね。それだけ、ここを落とすのに準備をしてきていたってことですか」
「まあもっとも、ほとんど非戦闘民で、前日にはほとんど脱出していたようだったがね。取り逃してしまったことは痛恨の極みだよ」
街の状況の確認をして得た情報に、オーロイス伯爵は本当に悔しそうな表情を浮かべていた。
「それじゃ、そっちの処理も、俺の抜兎術で始末していきますか」
「ああ、頼むよ。なんだか複雑な魔法で、手に負えないようだからね」
なんともまぁ、イダンカ帝国による侵略工作は、思ったよりも手の込んだもののようだった。
その置き土産となる様々な罠も、カオルの抜兎術・閃によってすべて破壊された。ライツによれば、街に攻め入ってから発動させるタイプだったようで、その関係で未発動で済んだということらしい。カオルの活躍のおかげで、全部回避できたというわけだった。
そんなわけで、ほとんどカオルに頼るような形で、街の戦後処理もほぼ片付いたようだった。後は、橋の完全なる復旧だけである。
せっかく街に戻ってきたというのに、もうしばらくは落ち着けそうにないカオルなのであった。




