第6話 魔女と刀作り
魔女は、家の外で急に立ち止まる。
「うん? どうしたんだ、師匠」
突然のことに、ロップスは首をひねりながら声をかけている。
「火の魔法を使うゆえにな、家の中では難しい。それで、ちょっとここに小屋を建てようと思うのだ。はあっ!」
質問に答えたかと思うと、魔女は唐突に気合いを入れている。次の瞬間、目の前には土魔法でできたそこそこ大きな小屋が出現した。
「うおっ?! こ、これも師匠の魔法なのか?」
「うむ。これでもまだ本気ではないぞ。その気になれば、城くらい建てるのも造作もないというものだ」
「ど、どんだけたくさんの魔力があるんだよ……」
あまりにも規格外の魔女の発言に、ロップスは顔を歪めてしまっている。
驚き戸惑っているロップスをしり目に、魔女は小屋の中へと入っていく。
土魔法の急ごしらえの建物とはいえど、きちんと窓は完備されており、換気の点では問題なさそうだ。
「さぁ、入ってくるといい。おぬしがおらねば作るのは難しそうだからな」
「わ、分かったよ」
魔女に声をかけられたロップスは、おとなしく小屋の中へと入っていく。
同じように土魔法で作られたと思われる椅子があり、魔女はそこに座ると再び土魔法を使い始める。
ぽんっと石の棒きれのようなものが出現して、魔女はそれをしっかりと握りしめている。
「鍛造ということであるのなら、これくらいがちょうどいいだろう。さて、ロップスよ」
「はい、師匠」
「カタナとやらの作り方をもっと詳しく教えておくれ」
「分かりました。それで刀が完成するのであるならば、いくらでも教えてあげますとも」
魔女が作る刀は、どうも本格的な感じである。そう感じ取ったロップスは、ものすごくやる気になっている。
こうして、魔女とロップスの二人三脚で、刀作りが始まった。
もちろん、自分たちのやらなきゃいけないこともやりながらである。なので、思ったよりは時間が取れないだろう。それでも、魔女はロップスの願いを叶えるために、極力時間を作ろうとしていた。
「ロップス、こういう感じでいいのかな?」
火の魔法で熱した土魔法の塊を別の土魔法で叩き、それを水魔法で一気に冷やす。この工程をワンセット行うたびに、魔女はロップスに状態を確認してもらっている。
「ああ、いい感じだ。これを繰り返して、このくらいの長さまで伸ばしてほしい」
「ふむ、ロングソードくらいの長さだな。それでいて、少し反ったサーベルほどの太さの片刃剣か。なんとも不思議な形状よなぁ」
「まぁ使ってみればわかるって。とりあえず、その状態になるまで、ひたすら熱して叩いて冷やして鍛えていくんですよ、師匠」
「分かった分かった。あまり急かすな。失敗しては困るというものだぞ。私は鍛冶師ではないのだからな」
ちょっと興奮気味のロップスを、魔女は落ち着かせようとしている。見た目こそ子どもっぽい感じの魔女ではあるものの、精神年齢は相当に高いようだ。
ロップスだって転生前は四十代が近かったというのに、刀が目の前で作られているとなると、まるで子どものように興奮してしまっている。どうにも落ち着かないロップスを見て、魔女もやれやれと諦めたようである。
試行錯誤を繰り返して、ようやく魔女は刀を鍛え上げていた。ただ、数本ばかりの失敗作もあったようで、少しだけ魔女は悔しそうな表情をしていた。
「おおおおっ! これぞ刀だ!」
ロップスはかなり興奮をしているようだ。
「柄はサーベルのものの流用ですまないが、それで一応完成だな。力いっぱい振り回してもすっぽ抜けはせんよ。なにせ、私の魔法でガッチガチに固めてあるからな」
「ありがとうございます、師匠!」
でき上がった刀を手にして、ロップスはこれでもかというくらいに喜んでいる。どのくらいかというと、両手で持ち上げて、その場でスキップをするくらいだ。前世の年齢を思えばはしゃぎ過ぎというものである。
「とりあえず、早速試してみるといい。形だけはできたとはいえ、おぬしの望むものとどのくらいのずれがあるのかということを確認したいからな」
「はい。では、あそこにある細めの木を斬ってみようと思います」
「また、ずいぶんといきなりの難易度からいくな……」
ロップスが指し示した先にあるのは、ロップスの腕くらいのまだまだ細い木である。程よい試し斬りのものがなかったので、魔女はやむなくそれを許可している。
目的の気の前までやって来たロップスは、メイド服を着たまま、左の腰の位置ででき上がったばかりの刀をじっと構えている。
すっと目を閉じて、ロップスは神経を集中させている。その後ろでは、一体どのような結果になるのかと、魔女が興味深そうにじっと立って見つめている。なにせ、初めて作った武器だ。その結果を早く見たくて仕方ないのである。
「キエエエエエッ!」
目を見開いたロップスは、奇声とも思えるような声を上げると、素早く刀を振り抜く。
ところが、木には何の変化もない。確かに刀は命中したはずである。
ロップスは黙ったまま、刀をすっと自分の腰の位置に戻していく。再びロップスが直立すると、驚くことが起きる。
目の前の木が、ずずっと遅れてずれ落ちていったのだ。
ズズーンという音を立てて木が地面に落ちると、ロップスはとても満足した表情を浮かべたのだった。




