第5話 魔法と抱く期待
ロップスは魔女に魔法を教えてもらえることになった。
ただ、さすがに不思議な力のない世界で生きてきたロップスにとって、その鍛練は一筋縄でいくようなものではなかった。
魔法を使うための魔力というのは、ちょっと特殊なものだ。体の中に存在はしているものの、その多くは感じられずに魔法を使うことはできない。たまたまか、誰かから教えてもらうかしないことには、感じ取ることはできないのだ。
「魔力を感じ取ることはできておるようだからな。だが、まだまだ未熟ゆえに、鍛練を積んでしっかりと感じ取れるようにならんと話にはならん」
「はい、師匠」
魔女が魔法を使う上での心を話し始めると、ロップスは元気に返事をしている。これだけ熱心に聞いてもらえるのは久しぶりなのか、魔女の表情はどことなくほころんでいる。
魔女もちょうど研究の手詰まりをしていたところなので、気分転換になると、それは気前よくロップスの魔法の鍛錬に付き合っている。
いくら魔力を感じられるようになったとはいえ、魔法になじみのない魔物であるがゆえに大変苦労するだろう、魔女はそう思っていた。
ところがだった。
「師匠、こんな感じですかね」
「おお、もう魔力の流れをものにしおったか」
教え始めてから二日で、ロップスは魔力というものをしっかりとコントロールできるようになっていた。
どうやら、前世で積んでいた鍛練が影響しているようだった。
ならばと、魔女はすかさず魔法について教えることにした。
「ちょっと待っててくれんかな。お前さんの適性を調べるためのものが必要なのでな」
「分かった、待ってるよ」
魔女の言葉を受けて、ロップスはその場でじっと待っている。
時間にしてどのくらい経っただろうか。慌てた様子で魔女が戻ってくる。
「すまんすまん。お前さんが片付けてくれたおかげで、少し探してしまった。だが、すぐ見えるようにしてくれていたので、簡単に見つかったよ」
簡単なのかてこずったのか、どっちなんだと突っ込みたくなるロップスだったが、自分が原因と聞いたので言葉をぐっとこらえていた。
だが、逆にいうのなら、魔女が普段から適当に置いているのが悪いともいえる。ロップスはただ静かに苦笑いを浮かべていた。
「師匠、それはなんですかね」
魔女が手に持っているものが気になったので、ロップスは思わず尋ねてしまう。
「ああ、これは属性の適性を調べる魔法盤だよ。この手前にある魔石に対して魔力を流してもらうと、適性のある属性の力を持った魔石が光るようになっておるのだ。中央にある白と黒の魔石が光と闇、周囲にある魔石が土、水、火、風のそれぞれに対応しておる」
「ほうほう。ゲームなんかでよく聞く属性の組み合わせだな」
「げぇむ? カタナといい、妙な単語を口走るものだな」
「ああ、気にしないでくれ。こっちの話だから」
魔女が表情を歪めるさまを見て、ロップスは言葉を濁してごまかしていた。
謎の発言をするロップスのことが気にはなるものの、魔女はまぁいいかと属性の適性を調べることにする。
言われた通りにロップスは魔石に手を当てる。そのまま魔力を流すように言われたので、ロップスは当てた右手に魔力を集中させる。
魔力を流すと、流された魔石がほんのりと光る。
「うむ、もういいぞ。話してもらえれば、あとは勝手にこの板が属性を判定する」
「そっか。じゃあ、結果が出るまでのんびりさせてもらうかな」
ロップスはその場にあぐらをかいて座り込んでしまった。魔女の方はその姿に首を傾げていたが、すぐさま魔法盤が反応を示したので、そちらへと意識を向ける。
結果、すべてで七つある魔石のうち、魔女から遠い方の魔石と左側の魔石、それと魔力を流してもらった魔石の三つが光っていた。
「どういうことだ?」
「うむ。茶色、緑、白と光っておるな。これは土、風、無という属性に対応している。つまり、ロップスの得意属性は土と風ということになるわけだな」
「へえ、土と風かぁ。俺には合ってそうな属性だな」
「そう話す理由は分からんが、お前さんの元の魔物のことも考えれば、違和感のない属性だ。私はすべての属性が使えるから、教えてほしいものがあったら、いくらでも教えてやるぞ」
ロップスの反応を理解できないというわりには、魔女の表情は嬉しそうである。それだけ教えがいがあると思っているのだろう。
一方のロップスも、魔法を教えてもらえるとことが決まったとあって、心の中でガッツポーズを決めている。
「ありがたいな。でも、そのためには刀が欲しい。武器があった方が、俺の力はより発揮できるだろうからな」
「……そうか。変わったことをいうものだが、それも一つかな。イメージだけではうまくコントロールできないこともあるゆえ、何かの動作と結びつけるというのは、いい方法だと思うぞ」
ロップスの発言には驚いているようだが、魔女はその内容には同意している。
得意なもの、興味のあるものと結びつけることは、ただ教えるだけと違って上達の速度が違うと分かっているのだろう。
「ならば、これからちょっとカタナとやらを作ってみようと思う。手が空いているのなら、ロップスも見に来るとよい」
「分かった、そうさせてもらうよ」
どうやら今までカタナには着手していなかったようだ。
だが、ロップスの嬉しそうな表情を見ていると、その期待に応えてあげないといけないと感じたようである。
いよいよ、魔女によるカタナ作りが始まる。
はたして、思い描くような刀はでき上がるのだろうか。ロップスは期待に胸を膨らませるのであった。




