第68話 報酬と爵位
謁見の間に戻ったカオルは、思いっきり身震いをしている。
「どうした、カオル」
オーロイス伯爵が問いかけている。
「いや、なんか寒気がしましてね。なんか、よくないことが起きそうな気がしますよ」
「なるほどな。ここはマサエウ王国の王都の中だ。同じ国の連中とはいっても、貴族たちはいろいろ腹に抱えた連中がいるからな。カオルのことを見て、何かを企んでいるのかもな」
「やめて下さいよね、そういうのは。俺は基本的には風来の身。今でこそ旦那様のところで働いてますけど、気ままにぶらぶらしているのが一番性に合ってるんですよ」
オーロイス伯爵とのやり取りをしながら、カオルはこんなことを言っている。オーロイス伯爵は少し首をひねりながら話しかける。
「おや。王国騎士団に入るとか言ってたのは嘘なのかな?」
「ぐっ……」
唐突なオーロイス伯爵の指摘に、カオルは痛いところを突かれたと、思わず顔を歪めてしまう。その際、垂れている耳がぴょんと飛び跳ねていた。
その様子を見たオーロイス伯爵は笑っている。
「お、王国騎士団に入るのは、目的があるからですよ」
「そうか。そういえば言っていたな。だが、今は陛下の前だ。あとで部屋に案内されてからその話は改めて聞くよ」
「ええ、それでお願いします」
二人は、状況から考えた結果、一度会話を打ち切ることにした。
「さて、此度の活躍を考えるに、そこのメイドには何かしらの褒美を与えた方がよいと考える」
「陛下、ここはやはり爵位が一番ではないでしょうかな。メイドという立場である以上、法衣爵位が一番でしょうがな」
「私もそう思うな」
こそこそと話をしていたカオルとオーロイス伯爵の前では、国王と元帥が話し合っている。なんだか、雲行きが怪しくなってきているようである。
じっとその様子を見守っているカオルだったが、急に振り向いた国王とばっちり視線が合ってしまう。
「カオルと申したな。フルネームはあるか?」
「カオル・ロップスと申します」
名前を尋ねられたので、カオルは魔女の元から旅立った際に付けた名前を名乗る。
カオルのフルネームを聞いた国王は、元帥と顔を見合わせ、こくりと頷いている。
「よし、此度のイダンカ帝国の撃退の活躍を評価し、貴殿に男爵の爵位を与える。これからは、カオル・ロップス男爵と名乗るとよいぞ」
「は、はあぁ?!」
国王の言葉に、思わず顔を歪めてしまうカオルである。
「カオル、ここはちゃんとしないといかんぞ」
隣で跪くオーロイス伯爵に肘で突かれるカオル。はっきりいって迷惑な話ではあるものの、ここは受け取るしかないかと諦めたようだ。
「あ、ありがたく頂戴いたします」
カオルもしっかりと跪いて、頭を深く下げて答えている。
この反応を見た国王はとても満足そうである。
「男爵の地位を授けたが、これまで通りオーロイス伯爵の側仕えをしてもらって構わない。男爵や子爵の中には、領地も持たぬ者もそこそこ存在しておるからな。国から特別な目をかけているという証だ。必要な時には、その地位、大いに利用するとよいぞ」
「ありがたき幸せでございます。不肖カオル・ロップス、マサエウ王国のために微力ながら尽力させていただきます」
国王の言葉を受けて、カオルはしっかりと宣言をしている。こういうところは、時代劇で鍛えた演技がうまく活きているといったところだろう。
カオルの反応に、国王も元帥も満足そうにしている。
こうして、無事に国王との謁見を終えたカオルは、オーロイス伯爵とミリスリーナ伯爵とともに、客間へと通される。事後処理の話し合いもあるために、どうやら数日間の滞在を余儀なくされるようなのだ。
この対応について、伯爵たちは重々承知のようだ。だからこそ、出てくる前に部下たちに事細かく指示を出していたというわけだ。
「こんないい部屋に、他国の人間である俺も泊まっていいんですかね……」
客間に通されたライツが、部屋の中を見て驚いている。
「何をいうか。お前はイダンカ帝国を裏切って、正式に私の部下になったのだ。だから、私の部下としてこの部屋に一緒にいて構わないのだぞ」
「いやぁ……。そうは申されましても、やはり一度命を狙ったわけですから、俺の心が落ち着かないんです」
「そういうな。俺だって、こんな豪華な部屋は落ち着かねえ。落ち着かねえ者同士、部屋の隅っこで小さくなってようぜ」
「それはお断りですよ」
オーロイス伯爵の言葉には遠慮がちに反応していたライツも、カオルのからかいには全力で否定を入れてきた。これだけ反応できるのならば、まあ問題もないだろう。
少し落ち着いたところで、オーロイス伯爵はミリスリーナ伯爵に声をかけ、今後の両岸の街の運営について話し合いを始める。
なんといっても、両方の街を結ぶ橋が被害を受けているのだ。カオルの魔法で仮設状態なのだから、早急に対応をしなければならない。必要に応じて、国に要請を出すことになるだろうと思われる。
二人の伯爵が話をしていると、唐突に部屋の扉が叩かれる。
一体誰が来たというのだろうか。
その時、カオルたちに緊張が走るのだった。




