第65話 国王と謁見
オーロイス伯爵とミリスリーナ伯爵の治める街で起きた事件に関しての報告で、カオルたちはマサエウ王国の国王と会うことになった。
やってきた謁見の間。その扉の大きさにカオルは圧倒されていた。
元帥が近衛兵に声をかけると、ようやく謁見の間の扉が開く。
中からは、ものすごい気迫に満ちた空気が漏れ出てくる。
床に敷かれた赤じゅうたんの先にある壇の上、そこに座する者こそが、このマサエウ王国の国王である。
(逆光でよく顔が見えねえな)
国王が座っている玉座の後ろには窓があり、そこから差し込んでくる光の関係で、本当に国王の姿がよく見えない。それゆえに、カオルたちの緊張はさらに掻き立てられるというものだ。
ある程度まで歩いていくと、元帥が立ち止まったので、カオルたちも同じように立ち止まる。
「国王陛下、ただいま戻りました」
「うむ、よく戻ったな。元帥よ」
元帥が帰還の挨拶をすると、国王から言葉が返ってくる。同時に、元帥はさらに深く頭を下げる。
「そちらが、怪しい動きをする者が見られた街の領主たちか」
顔は見えないものの、その声からは国王の風格のようなものが感じられる。二人の伯爵やライツはその声だけでずいぶんと気圧されているようだが、カオルは全身の体毛が手伝って、余計のこと強く感じ取っている。
「はい。どうやら両方の街は、イダンカ帝国の襲撃を受けたようでございます」
「なんだと? イダンカ帝国め、こそこそとそんなことをしていたのか。川に架かる橋はあそこくらいしかないのは確かだが、我々に気付かれないように仕掛けているとはな」
「まったくでございますな」
国王と元帥が話している。その様子を、カオルたちはじっと聞いている。
手短に話を打ち切ったかと思えば、国王は二人の伯爵に事のあらましを尋ねようとして、二人の方へと顔を向ける。
「では、事情を説明してくれ」
「はっ、承知致しました」
オーロイス伯爵とミリスリーナ伯爵は、頭を下げると自分たちの間で起きたことを話し始めた。
長い話を聞き終わった国王と元帥は、あごを触りながら難しい顔をしている。
「なるほど、リバーファングか。またとんでもないものが仕込まれていたものだな」
「まったくですな。わが国では長い戦いののちにようやく絶滅させましたのにな」
国王はため息を漏らし、元帥は怒りをぶちまけている。そのくらい、このマサエウ王国ではリバーファングに苦労をさせられていたのかもしれない。
そこで、オーロイス伯爵はライツへと視線を向ける。視線を向けられたライツは、体をびくりとさせている。
だが、ここにやってきた以上は覚悟を決めたはずだ。ライツはぐっと体に力を入れて、表情を引き締めている。
「こ、国王陛下。は、発言をよろしいでしょうか」
「なんだ、お前は」
「はっ、オーロイス伯爵の指揮なされる部隊に所属するライツ・レドモンドと申します」
国王からドスの利いた声をかけられて、ライツは震え上がりながら名を名乗っている。
「わ、私は、実はイダンカ帝国から送り込まれた、か、間者なのでございます」
「なんだと?」
国王からの鋭い声に、ライツは震え上がる。そのくらいに、国王の声には力あるのだ。
「ご安心下さい、国王陛下。ライツはイダンカ帝国を裏切り、やつらの計画を知るだけすべて話してくれるそうでございます」
「……そうか。だが、嘘は許さぬぞ。その口、体とおさらばしたくはないであろう?」
「も、もちろんでございます。しっかりと私の知る限りを話させていただきます」
覚悟を決めたライツは、自分の知っていることをすべて国王へと話す。その中には伯爵たちすらも初めて聞いたことがいくつか紛れ込んでいた。
それによれば、イダンカ帝国は相当に計画を練って今回の侵略をかけてきたようだった。
リバーファングは、川を安全に渡れなくするためにイダンカ帝国からわざわざ持ち込んだらしい。その持ち込んだ犯人は、ライツではなく、ともに捕まっていた男だったそうだ。
「イダンカ帝国は、マサエウ王国をずっと敵視しております。私は、皇帝、いや、皇帝の側近から脅迫される形で送り込まれました。今では十分に反省しております。命を狙ったことも悔やんでおります」
ライツは下を向きながら、歯を食いしばりながら話している。本当に反省をしているのだろう。
「分かった分かった。ここで言い切れぬこともあっただろう。あとでさらに詳しく話してもらうぞ」
「もちろんでございます。慈悲によってここにいるのですから、心を入れ替えたと証明するために、王国に利するように証言させていただきますとも」
ライツは胸にがっつりと拳を当てて誓いを立てていた。
こうして、ライツとの話が終わると、今度はカオルに対して視線が向けられる。
「また、変わったやつを連れておるな、オーロイス」
「はい、国王陛下。今回のイダンカ帝国との戦闘で私たちが勝利できたのは、このカオルがいたからでございます」
「ほう、興味深いな。よく聞かせてもらおうか」
国王は、食い入るようにカオルへと視線を向けている。
カオルはどのようなことを尋ねられるのかと、静かに下を向いて跪いたままだ。
横でライツがビビりまくってくれたおかげで、カオルはかなり落ち着いている。どのような質問でも来いと、カオルは静かに待ち続けている。




