第64話 王都への到着と登城
長い道のりを経て、カオルたちはついにマサエウ王国の王都へとやってきた。
「うっひょー、でけえな。これが王都か」
目の前に見えてくる高い防壁と、その向こう側に見える高い城がカオルの視界を圧倒していた。
国の中で最も栄えているのが当然であろう王都というものは、何もかも規模が違っていた。さすがは国の中心地である。
カオルが最初のお世話になった東の果ての街や、途中で長く滞在しているオーロイス伯爵の街よりも、王都は確実に大きかった。
カオルたちを乗せた馬車は、王都の中をゆっくりと進んでいく。
王都の中を歩く人たちは途切れることがない。カオルはこういう世界はあんまり人口の多いイメージがないらしいのだが、そこそこの都会と同じくらいに人が歩いている。
馬車は特に問題なく、お城に到着する。
遠くから見ていた時からその大きさに圧倒されていたカオルは、その中に入って改めてその大きさに驚かされている。
「ここからは、行動に気を付けるのだな。ちょっとした粗相が命にかかわる大問題になることもある。特にそっちの間者、死にたくはないだろう?」
「あ、当たり前だ。信用がないのは分かっているが、俺は絶対に生き延びてやる」
「だったら、おとなしくしているのだな」
元帥はライツのことを冷たい目で見ている。オーロイス伯爵の命を狙ったことは、それだけ王国内では重罪ということだ。
貴族の命を狙うだけでも相当に罪は重いが、重要拠点を預かる伯爵だからこそ、なおさらというところだろう。
元帥からの冷たい視線に、ライツは本気で震え上がっている。
元帥に連れられて、カオルたちは城の中を歩いていく。当然ながら、カオルに対してはものすごい視線が向けられている。
(分かっちゃいたがやっぱ見られるよなぁ。師匠が魔物を使って実験したとは言っていたからな。その魔物が俺なんだが、なんかこう、好奇の目というよりも怖がっているって感じだな)
城の中を堂々と歩くカオルではあるものの、やはり二足歩行する垂れ耳ウサギ、リップヴォーパルの姿は衝撃的で、すれ違う人たちからはとにかく不気味がる目を向けられていた。
その姿もそうなのだが、メイド服を着て何か剣のようなものまでぶら下げているので、そのミスマッチさがさらに恐怖を煽り立てているようだ。
(とりあえず我慢だ。これから国王に会うっていうんだから、んなことを気にしている場合じゃねえ)
周りの反応に心の中でため息をつきながら、カオルはこの後のことに備えていた。
もう少しで国王と会うという時だった。
「おやおや、元帥閣下。こんなところで何をされていらっしゃるのですかね」
なんか声を聞くだけでイラッとするおっさんが現れた。
年齢としては、前世の俺と大して変わらない感じなんだが、なんとも感じが悪いおっさんだ。
「ふん、誰かと思えばネンインか。魔法使いであるお前が、なにゆえこんなところを歩いている。さっさと自分の部屋に戻って魔法の研究でもしたらどうなのだ」
「ふふふっ、部屋に閉じこもってばかりでは、気が滅入りますからね。ちょっと気分転換に散歩をしていただけですよ」
「そうか、ならばもう戻れ。早く陛下の役に立つ魔法を開発することだな」
「そのうち、目にものを見せてやりますよ。では、失礼をば」
ネンインと呼ばれた男はそう言いながら、カオルたちとすれ違っていく。
そのすれ違う瞬間だった。
「ちっ、あいつの魔力を感じる。嫌な奴め……」
ネンインは前を向いたまま、そのように吐き捨てていた。
言葉が耳に入ったカオルは、一瞬立ち止まりかけた。
「どうしたのだ、カオル」
「あっ、いえ。なんでもありません」
その瞬間、オーロイス伯爵から声をかけられて、カオルはすぐさま後をついて行く。
だが、カオルはさっきの男のことが気になって仕方がないようだ。
「さっきのあの男は、一体何なんですかね」
「ああ、城のお抱えの魔法使いで、名前をネンインというんだ。爵位は子爵どまりだが、その魔法の才能でマサエウ王国内だけではなく、近隣でも名の知られた男なんだ。ただ、あの通りちょっと卑屈でな。私も苦手にしているのだよ」
「そうなんですね」
カオルはオーロイス伯爵の話を聞きながら、ネンインという男が歩き去った方向へと視線を向けている。
「彼にはかつて、女性の同僚がいたらしいのだが、かなり前の話ではあるが、その女性が国家反逆を企てたとかいうことで、行方知れずになっているんだよ」
オーロイス伯爵の話に、カオルはぴくりと反応をする。そう、この話には聞き覚えがあるからだ。
「旦那様、その女性の名前はご存じでしょうか」
カオルは顔色を変えてオーロイス伯爵に詰め寄ろうとしている。
だが、その質問の答えを、すぐに聞くことはできなかった。
「謁見の間に到着したぞ。あまり騒がしくするでない」
「し、失礼を致しました」
そう、国王の待つ謁見の間に到着してしまったのだ。これでは、私語を行うことはできない。カオルは仕方なく、今は問い詰めることは諦めるしかなかったのだ。
それと同時に、謁見の間から漂ってくる気配に身震いをしている。
この扉の向こう側に、マサエウ王国の国王がいる。
どんな人物なのだろうかと、カオルはごくりと息をのんだ。




