第63話 証言と脅迫
それから二日後のことだった。
「では、私が留守の間、街のことは頼むぞ」
「はい、旦那様。お気を付けて行ってらっしゃいませ」
オーロイス伯爵、ミリスリーナ伯爵は、そろって元帥とともに王都に向かうことになった。今回のイダンカ帝国の襲撃について報告を行うためだ。
正直、元帥が来ているのならば、書面を持たせて帰ればいいはずなのだが、いろいろと問題点があるために、領主自らが呼ばれる羽目になったようなのだ。
その報告には、カオルとなぜかライツが同行させられている。ライツはイダンカ帝国から送り込まれた間者なのだが、ぎりぎりでオーロイス伯爵側に寝返ったがために、今回同行させられることになったというわけだ。
出発に一日間が空いたのは、準備と彼の回復が必要だったからだ。
「お前、もう二度と面倒なことはしないでくれよ」
「分かっているよ。もう命は狙わないし、お前にのされるつもりもない」
カオルが話し掛ければ、ライツははっきりとそういっていた。
毒を盛ったのは事実であり、カオルの抜兎術で吹き飛ばされたのもまた事実。だからこそ、こんなやり取りをしているというわけだった。
「とりあえず、お前は罪人で、イダンカ帝国側の証人として行くんだからな。勘違いするんじゃねえぞ」
「そんなことは分かっている。まったく、いちいちうるさいロップヴォーパルだな」
「なんだ、そのロップヴォーパルってのは」
「なんだよ、知らないのか」
ライツがカオルに対して何か言っている。ロックヴォーパルという単語に聞き覚えのないカオルは、ライツに質問をしている。
「俺たちが持ち込んだリバーファングと同じで、こっちのマサエウ王国にはいない魔物だ。いや、正確に言うと、国境には存在しているかな。垂れ耳のウサギ型の魔物で、風魔法を得意としているんだ。多くの兵士や冒険者がその風魔法によって欠損を負わされることから、そういう名前がついているんだよ」
「へえ~……。なるほどなぁ」
説明を聞いて、なんとなく分かったような気がするカオルである。
「でも、お前みたいに二足歩行をして言葉もしゃべる個体ってのはいない。だから、分からないやつも多いんだろう」
「ふむふむ。そんな魔物を捕まえて実験しちまうとは、師匠はさすがだな」
「あ? 師匠ってなんだ」
「なんでもねえよ。独り言を聞き取るな」
ライツと口げんかをしながら、カオルは実に退屈しないで移動できているようだ。
もちろんの話であるが、ライツは独立したボロ馬車に乗せられている。オーロイス伯爵の命を狙ったのだから、当然の処遇だ。
なぜカオルが同乗しているかというと、単純に見張りだ。もし暴れられても、カオルの実力ならねじ伏せられると考えられたのだ。
カオルはオーロイス伯爵付きのメイドなので伯爵と同乗しようと思ったのだが、伯爵同士が同じ馬車に乗って話をしているため、はじき出されたのである。そのため、こんな状況になったのだ。
馬車は静かに王都へと向かっている。
ライツの見張りをしながら、カオルはちょっと考え込んでいる。
(まさかこんな形で王都に行くことになるとはなぁ。そういや、先に行ったバリトンのやつは元気にしているかねぇ)
カオルは、同じ乗合馬車に乗っていた冒険者のことを思い出した。オーロイス伯爵の治める街から出た後に、リバーファングの群れに襲われたことをきっかけに別れてしまった。問題がなければ、とっくに王都に着いているはずである。
しかし、そんなことも束の間。
予定よりも大幅に遅れて到着することになった王都に、状況が状況でありながらも胸を高鳴らせているのである。
そもそもの目的は、魔女を殺した相手への復讐を行うためである。その相手が、王国にとっての重鎮レベルの人物らしいので、カオルは王国で出世をする必要がある。そのために王国騎士団に入ろうとしたものの、リバーファングのせいでとん挫した状態になっていた。
予想外の足止めではあったものの、まさかの形での王都訪問が実現。待ちに待った王都は、カオルの目にはどのように映るのであろうか。
オーロイス伯爵の治める街から出発すること、十日間が経過する。
その日の宿に到着したカオルたちは、元帥に呼ばれる。
「なんでございましょうか、元帥閣下」
部屋に集められたオーロイス伯爵、ミリスリーナ伯爵、カオル、それとライツは元帥を目の前にして、厳しい表情で立っている。
「いよいよ明日、王都に到着する。すぐに城に向かって報告を行うが、ここで確認をしておきたい」
かなりの圧力をかけるような雰囲気を放っており、カオルたちはごくりと息をのんでいる。間者であったライツも、この状況ではとてもじゃないが動けなかった。
(気迫が違いすぎる。これが強者ってやつか)
どうやらカオルは別の意味でも緊張している様子だ。まったく、いつからこんな風になってしまったのやら。
「そこの間者、お前は特に気を付けるのだな。うそをつけば、その身を裂かれると思え」
「わ、分かっていますよ。お、俺はもうこっち側についたんだ。ちゃんと全部話す」
元帥から念を押されると、ライツは足をがくがくと震わせていた。それだけ恐怖を感じているというわけだ。
この夜、カオルたちは元帥から正直に話す誓いを立てさせられた。
このような約束をさせられるとは、マサエウ王国の中枢という場所はどのような場所なのか。カオルの興味は尽きないのである。




