第61話 元帥と報告
目を覚ましてから一日が経過する。
「あーっ、動けるってすごいな」
カオルはベッドの上に立ち上がり、ぐいぐいと体を動かしている。
そう、カオルは完全復活を遂げていた。
魔力が尽きていたというのに、よくここまで回復できたものである。これが魔物の体というものだろうか。
「起きたのか、カオル」
「おはようございます、旦那様。見ての通り、すっかりもういいんですよ」
ベッドから降りて、ぴょんぴょんと跳ねたり、左右に体を捻ったりと、健康をアピールしている。あまりもはしゃぐ姿を見て、オーロイス伯爵は笑っている。
「さて、寝起きついでに、ちょっとこっちに来てもらいたい。病み上がりに無茶をいうのは分かっているのだが、そういうわけにもいかない状況なのですね」
「承知致しました」
オーロイス伯爵に言われて、カオルは部屋を移動することにする。
服装は戦った時のメイド服から寝巻になっているのだが、これは着替えた方がいいのだろうか。一応カオルは確認をする。だが、急な話のようでそのままで構わないということだった。
まあ、カオルの姿は全身が白い毛並みで覆われているので、寝間着でも確かに問題はないのかもしれない。
そうやってやってきたのは、なんと食堂だった。
ただ、部屋の中の雰囲気がなんともおかしい。食堂なのに食堂という感じがしない。
それもそうだろう。部屋の中には明らかに雰囲気の違う人物が座っているのだから。
「オーロイス伯爵よ。その者か、イダンカ帝国の連中を追い返したという人物は」
「はい、元帥閣下。名をカオルと申します。ちょっと姿は変わっておりますが、腕の立つメイドでございますよ」
オーロイス伯爵とのやり取りを聞いて、カオルは思わず首を捻ってしまう。
元帥とは軍部における総司令のようなもの。そんなお偉さんが来ているのだから、それは当然疑問に思うものだ。
「まったく、オーロイス伯爵の治める街で問題が起きていると聞いて、この俺がわざわざ出向いてきたというのに、まさか帝国が攻めてきているとはな」
元帥と呼ばれた男性は、椅子から立ち上がってカオルの方へとやって来る。かなりでかいために、カオルもさすがにびっくりしている。
「ふむ。確かにどう見ても体は魔物だな。まとっている魔力も大したものだな」
カオルのことをじろじろと見た後、元帥は再び食堂の席に着く。
「まあ、食事でもしながら話をさせてもらおう。どういったことが起きて、どういった要望があるのか、ゆっくり聞かせてもらおうじゃないか」
どう反応していいのか分からないカオルは、オーロイス伯爵へと視線を向ける。それを感じ取ったオーロイス伯爵は、元帥にお願いを申し出る。
「元帥閣下、カオルは病み上がりであるので、少しお気遣いいただけるとよろしいのですが」
「よかろう。伯爵二人がしっかり答えられるのであるのならな。陛下に報告する内容に影響が及ぶのだ。正確に答えてもらわねば困る」
「承知致しました」
ということで、ようやくカオルも食事の席に着く。おおよそ一週間ぶりのまともな食なので、カオルは少し我慢できそうな感じになっている。
食事を始めてしばらくすると、元帥がいろいろと尋ねてくる。オーロイス伯爵とミリスリーナ伯爵の二人が答えられる部分は、本当にカオルの代わりに答えてくれていた。
だが、途中で元帥はとある質問を投げかけてきた。
「で、軍勢を指揮していた男は見ているか?」
そう、指揮官の存在だ。
軍隊が攻め入る時というのは、必ずその動きを統制するための人物がいる。いわゆる指揮官という人物の存在だ。
この戦いでカオルたちの中でそれにあたる人物を目撃したのは、カオルのみだ。
「将軍って呼ばれている人物がいましたね」
「将軍か。名前は聞いたか?」
「いいえ」
「……そうか。ならば、身体的特徴は覚えているか?」
「それでしたら、はっきりと覚えています。今回は勝てはしましたが、かなり強い感じでしたね」
カオルはそう答えながら、将軍と呼ばれた人物の特徴を答えていっていた。
話を聞いた元帥は、かなり顔を歪ませている。
「ふむ……。それはアイーデ将軍だな。そうか、やつが出てきたのか……」
元帥はその人物を知っているようで、あごに手を当てながら考え込むような仕草を取っている。
「元帥、いかがなされましたかな」
「いや、なんでもない。とにかく、両岸とも無事でよかった。ここを落とされてしまえば王国は真っ二つになっていたからな。王国の軍部を預かる者として礼を言わせてもらう」
元帥は頭を下げはしなかったのだが、カオルの顔を見てお礼を言っていた。
その後、食事を終えた元帥は、病み上がりの状態のカオルも連れて、街の被害状況などを確認して回っている。
帝国が攻めてきたというのに、その被害の少なさには驚かされる。
ミリスリーナ伯爵の街の方は、街の中に閉じこもっていたこともあり、門にいくぶんのダメージと人的被害が少々あるくらいだった。
そして、ミリスリーナ伯爵の街を確認し終えた元帥は、オーロイス伯爵とカオルとともに、対岸の街へと移動していったのだった。




