第58話 打開と危機
カオルはミリスリーナ伯爵の治める街へと向かっていく。
その途中、よく見てみると、川からも上がっていった形跡がある。カオルの魔法で仮復旧をしたとはいえ、爆破して崩れたがれきがそのまま放置されていたのだから、当然というわけだ。
その様子を見て、よくオーロイス伯爵側に来なかったものだと、カオルは肝を冷やしていた。橋の破壊を途中で止められたことが、おそらく功を奏したのだろう。
橋を渡りきり、対岸に到着する。門の前では、兵士が魔法を使って門を破ろうとしていた。
「抜兎術・空!」
一刻も早く止めさせねばならないため、カオルはかなり強力な抜兎術・空を放っていた。
門の前にいた兵士たちはその強い風に吹き上げられ、背中から地面へと叩きつけられていた。いくら鎧を着ているからとはいえ、結構な高さから石造りの橋に叩きつけられたのだ。しばらくは動けないだろう。
「抜兎術・地!」
続けて土魔法を放つと、叩きつけられた兵士たちは橋にがっつりと縛り付けられていた。
「あとで解いてやるから、今はそのまま寝ててくれ」
カオルはうめき声をあげる兵士たちの間を通り抜けて門へと近付く。
「オーロイス伯爵様の使いのカオルだ。橋の帝国兵たちは全滅させた。中に入れてくれ」
カオルが大声で呼びかけると、門がゆっくりと開く。人一人が通れるだけ開くと、カオルは素早く中へと入り、再び門は閉じられた。
「カオル殿、どうしてこちらに」
門で守護していた兵士が話し掛けてくる。そこで、カオルはオーロイス伯爵側で起きたことをすべて話した。
「なんと、そちらにもイダンカ帝国が!?」
「ああ。だが、あちらさんは全滅させたんで無事だ。あとはこっちだが……、戦況はよろしくなさそうだな」
「はい……、すでに周囲を帝国兵に囲まれておりまして、いつ門を破られるかとみな不安に感じているところです」
カオルが尋ねると、兵士はすべての状況を話してくれた。
あまり予断が許される状況ではないので、カオルはすぐに行動に移ることにする。
「南に集中させてくれ。北側から順番に敵兵を殲滅していく」
「分かりました。どうかご無事で」
「任せておけ」
そういうとカオルは、川の方の門から外へと出ていき、上流側に向けて抜兎術で道を作る。ただし、自分が走り抜けられればいい程度の強度しか持たないものだ。残していてはいろいろと面倒になるからしょうがない。
崩れそうな足場を渡って上流側の門へとやってきたカオルは、相手に気付かれる前に抜兎術を放つ。
「ぐわーっ!」
「だっひゃーっ!」
なんとも情けない声を上げながら、帝国兵たちが吹き飛んでいく。
地面へと落ちていった帝国兵たちに、すかさず土魔法をかけて、地面に縛り付ける。動けないようにがっちりと固めている。
「さあ、おとなしくおねんねしてな」
北門に集まった帝国兵たちを撃破したカオルは、次の西門へと向かっていく。
西門の帝国兵たちもあっさりと撃破したカオルは、いよいよ本陣がいるであろう南門へと向かっていく。
(うっ……)
南門へと向かう最中、カオルは軽くめまいに襲われる。
(くそっ、ちょっと魔法を使いすぎたか……。師匠からそういや聞かされたな。魔法を使いすぎると、体調を崩すって……。まだ、敵は残っているのによ……)
カオルは走り続けながら、額を押さえている。
今日はここまでかなりの回数の抜兎術を使っている。一部ではかなり強力だったこともあり、思った以上にカオルは魔力を使ってしまっているのだ。
(頼むから、敵を全滅するまでもってくれよ、俺の体……)
少しふらつく体をどうにか保ちながら、カオルは南門へと向けて走り続ける。
(せめて、前線だけでも潰せれば……っ!)
南門へと到着したカオルは、険しい表情をしながらも、刀に手を添える。
「抜兎術……空!」
これであらかたの決着をつけるべく、できる限りの魔力を込めて抜兎術を放つ。
南門を破壊しようとしている帝国兵たちを、抜兎術が襲う。風の魔法によって高く打ち上げられた帝国兵たちは、そのままいずこへと吹き飛ばされていく。
だが、この渾身の抜兎術の代償は大きく、放った直後に、カオルは片膝をついて、刀でどうにか体を支えている。
「へへっ……、どんなもんだよ。さぁ、とっとと、退いてくれ……」
体は完全に限界を迎えており、カオルの目の前は景色がぼやけてきていた。
刀を地面に突き刺し、カオルは満身創痍の状態で呼吸を荒げている。
だが、そんなカオルに対して、攻撃が飛んでくる。弓矢と魔法による攻撃だ。
「……くそっ!」
自分に向けて降り注ぐ攻撃が見えたカオルは、力を振り絞ってもう一度、抜兎術・空を放つ。
すべての攻撃を回避したのはいいのだが、さすがに限界が来てしまい、カオルの意識はそこでぷつりときてしまう。
地面へと倒れ込んでしまうカオル。
まだ戦いは終わっていない状況だ。
はたして、カオルやミリスリーナ伯爵たちはどうなってしまうのだろうか。
カオルの意識が途絶えたことで、戦況はまったく分からなくなってしまったのだった。




