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剣聖ロップスの伝説  作者: 未羊


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第56話 剣と刀

 カオルとイダンカ帝国の将軍の戦いが始まる。

 距離が近いのはよろしくないと、カオルは一度距離を取っている。


「その顔立ち……。お前はヴォーパルバニー種かなんかか?」


「さぁねえ。俺はこの体の種族がどんなのかは知らねえ。俺の師匠が自分の身の回りを世話させようとして、適当な魔物をとっ捕まえてきたらしいからな」


「ふむ……。人化の魔法を使うとは、相当な魔法使いだな。禁忌をも恐れずに使うあたりな」


「へえ、そうなんだ。やっぱ、師匠はすごい魔法使いだったんだな」


 将軍があれこれとしゃべってくれるので、カオルは改めて自分の師匠である魔女のすごさを知ったようだ。


「だが、おしゃべりはこのくらいにしておこう。今は戦争中なのだ。お前は俺に破れ、マサエウ王国は真っ二つになるのだよ!」


 将軍は剣を構えてカオルへと襲い掛かってくる。


「戦争ねぇ……。どういう理由で攻め入ってきたかは知らねえが、自分の身の安全を脅かされて、おとなしく『はい、そうですか』ってなるわけがねえよなぁ」


 将軍が迫ってきているというのに、カオルはまったく動かない。


「だから、俺は全力でお前らに抵抗する!」


 一度目を閉じたかと思うと、すぐにカッと見開いて刀を構える。


「抜兎術・閃!」


 将軍が剣を振り下ろすよりも先に、カオルの刀が振られる。


「ぐっ!」


 強い衝撃が、将軍に襲い掛かる。

 だが、将軍のどこにも見た目のダメージがあるようではなかった。


「俺の太刀を浴びて無傷だったのは、お前が初めてだ。さすが軍人は格が違うってことか」


 装備をぶっ壊すつもりで振り抜いたのに、鎧すらも無傷とあっては、カオルは驚きを隠せない。


「おのれ……。その剣は当たっていないというのに、これほどの衝撃が来るとはな……。この俺に一撃を入れられたやつは、実に久しぶりだ」


「へえ、それは光栄なことだな」


 カオルはとんとんと肩に刀の峰を当てている。


「そ、そんな、将軍が……」


「お前たち、将軍を守るのだ!」


 装備品のなくなった弓兵たちが、念のために持っていた短剣を振りかざしながらカオルに襲い掛かってくる。

 だが、声を出したのは悪手。耳のいい魔物がベースなのだから、簡単に気づかれてしまう。


「抜兎術・空!」


「うべらっ!」


 襲い掛かってきた弓兵たちが、塵のごとく宙に舞う。


「おいおい、一対一ってはずだろ。お前んとこの兵士どもは、空気ってもんが読めねえのかよ」


 刀をひと振りして、カオルは将軍を見ながら愚痴をこぼしている。

 この時のカオルの目を見て、将軍は言い知れぬ恐怖というものを感じていた。


(こ、この多くの武勲を立ててきた俺が、恐怖だと? い、一体この目の前のメイドに、俺は何を感じているというのだ……)


 だが、こんなものは認められぬと、将軍は改めてカオルを見据えて剣を構える。


「お前ら! これは俺とこやつの真剣勝負だ。手出しは無用だ! そんなことをする暇があるなら、オーロイスを攻撃しろ!」


「はっ! 将軍、ご武運を!」


 将軍に命令されて、残っていた弓兵たちは短剣を手に、将軍のところから前線へと向かって走り去っていく。


「さて、これで数としてはオーロイスの勝ち目はかなり削れた。お前を始末すれば、俺たちの勝利は確実になる。行くぞ!」


「ああ。とっととケリを付けて、兵士どもは全員おねんねしてもらうぜ」


「ほざけっ!」


 カオルの煽りを受けて、将軍は真正面からカオルに斬りかかっていく。

 普段は抜兎術でさっさと片付けてしまうところだが、何を思ったか、カオルは刀をむき身のまま持って構えている。


「殺陣の動きは散々練習して身に叩き込まれたからな。実戦で使うことになるとは思わなかったが、俺の刀捌きで相手をしてやろう」


「この思い上がりがぁっ!」


 メイドのくせに普通に剣を交えてこようなど、相当武人である将軍にとっては許せないことだったのだろう。

 だが、その認識もすぐに改められることになる。

 数多の戦場を経験してきた将軍の剣捌きに、垂れ耳ウサギのメイドがついてきているのだ。いや、ついてきているどころか、逆に優位に立とうとしている。


(ばかなっ! この俺が押されて、いるだと……?!)


 将軍の顔に、焦りの色が目立ち始めている。

 だが、すぐに表情を引き締め直している。


(俺は負けん、絶対に負けん。イダンカ帝国にその人ありと言われた俺なのだ)


「絶対に負けられんのだ!」


 クワッと目を見開いた将軍は、剣を大きく振りかぶる。

 胴ががら空きになっているのだが、カオルはあえて振り上げを受けようとして攻撃をぴたりとやめる。そして、将軍の剣に合わせるようにして、刀を振り上げる。


「俺とお前の一振り、どっちが強いか勝負といこうじゃねえかっ!」


「望むところよ!」


 まるでタイミングを合わせたかのように、両者の剣と刀が同時に振り下ろされる。


 ガキーン!


 金属同士がぶつかるような音が辺りに響き渡る。

 何かがくるくると宙を舞い、近くの地面へと突き刺さる。

 カオルと将軍の渾身の一撃。はたしてどちらが勝ったのだろうか。

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